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1億円をようやく突破してきました。


果報は寝て待てというけれども、どうですかね?

 日本が世界に誇る上下水道や交通システム、エネルギー・プラントといったインフラの海外展開は、世界で日本の存在感を打ち出す起爆剤となるだけでなく、建築・土木、ICT(情報通信技術)、電機・電子、エネルギーなど、様々な成長産業に波及効果を及ぼす。これまでは必ずしもうまくいったとはいえない日本のインフラ輸出を成功に導くには、「未来予測」が欠かせない。進出する国の歴史や社会、さらに経済的要因を踏まえて地域に合わせた未来戦略を構築する必要がある。そのための基礎情報を体系的にまとめた『インフラ産業 2014-2023』(日経BP社)の著者で、世界のインフラ事情に詳しい日本総合研究所の時吉康範氏が、世界のインフラ産業の将来像を展望する。

 2020年に向けた日本の成長戦略は、インフラ輸出抜きでは議論できない。日本の首相官邸は「インフラ・システム輸出戦略」の中で、現状で10兆円といわれているインフラの輸出を、「2020年に30兆円に引き上げる」との戦略目標として掲げた。この背景は以下の二つで説明できる。

インフラ市場の成長が見込まれる新興国。写真はベトナム・ホーチミン

 一つは、新興国を中心とした世界のインフラ市場の急激な成長が見込まれる中、日本企業の出遅れと敗北が見受けられるという事実だ。国を挙げてインフラ輸出に力を入れる中国、米国、韓国と比較して、日本の輸出規模は小さい。新興国のインフラ市場への累積投資額は2030年までに数千兆円と予測されている。

 もう一つは、一般的に日本企業は、個別の機器については強みがあるが、インフラ・システム全体を受注することができていない。システムとして受注することは、日本企業の進出拠点の整備やサプライチェーンの強化につながるなど、直接的な受注だけではない効果を生み出す。

■インフラはフォーキャスト型

 日本のインフラ・システム輸出の戦略目標を掲げる上で特に重要となるのが、未来予測である。未来予測は大きく二つのアプローチがある。現在の事象からの延長上で将来までに起きうる出来事を予測して未来像を描く「フォーキャスト」と、将来発現する未来像を先に描いてから現在にさかのぼって未来までの出来事を埋めていく「バックキャスト」である。

 インフラの場合、国の政策や計画、さらに主要プレーヤーの動向が重要であり、未来予測としてはフォーキャスト型に区分できる。現在進行形の状況を押さえるとともに、過去の技術、製品、事業の歴史とそれらに影響を与えてきた社会・産業の変化を整理・認識しておくことが効果的である。

 未来予測に当たっては、並行して過去の歴史への考察を併せて行うべきである。インフラは、その性格上、すそ野の広い産業を構成する特徴があるとともに、対象となる国・地域の歴史・社会・経済的要因などが複雑に絡みあっている。従って、インフラ産業を理解し、ビジネスの将来を展望するためには、前提となる外部環境の変化を踏まえた上で、関連する産業動向を理解し、進出する対象国の状況を把握することが望ましい。

■需要は2030年までに4190兆円

 インフラの形成状況は、先進国と新興国でその様相が異なる。先進国では、産業革命を背景とした都市化に対して段階的な整備がなされてきた点に特徴がある。一方で、新興国では、先端のインフラ技術の先取りによって、必ずしも先進国のような段階的な整備がなされているとはいえない。

 今後のインフラの形成・整備について、先進国では老朽インフラの更新の問題が中心だが、新興国では都市部の老朽インフラの更新に加え、地方部でのインフラ新設需要への対応と双方の取り組みが必要である。

 インフラ整備の需要は今後も拡大し、整備に要する投資は2030年までには累積で4190兆円に達するといわれている。これらの巨額なインフラ整備投資を狙い、多くの企業がインフラ形成のプロセスに参画することで、産業が形成される。インフラ産業は基本的には、案件の組成機能、ファイナンス機能、インフラの建設機能、事業運営・管理機能、および周辺機能などに整理される。

 インフラ産業は今後も成長が見込める有望セクターであるが、インフラそのものが形成されるためには、8つの前提条件がある(
下の図
)。(1)マクロ経済環境、(2)天然資源の偏在、(3)新興国の投資資本の流入、(4)グローバル・バリューチェーン、(5)都市化、(6)複合型都市開発、(7)環境配慮型社会、(8)気候変動――。以下、それぞれについて概説する。

インフラ形成ニーズとインフラ産業の進展(出典:日本総合研究所、『インフラ産業2014-2023』(日経BP社)より)

■新興国の都市化と連動

(1)マクロ経済環境
:インフラ形成は、マクロ経済と深く関連している。これはインフラ形成に必要な財源の側面だけでなく、人口や都市化といった観点からインフラに対する需要を展望できるからである。世界的には人口はいまだ増加基調にあり、2030年までには84億人に達するといわれている。

 一方で、人口増加はASEAN(東南アジア諸国連合)、インド、アフリカ諸国などの新興国が今後主体となる。人口増加に応じて経済も成長するとともに、当該地域においての都市化も進むと思われるため、相応のインフラ形成に対する需要が発生すると見られる。

(2)天然資源の偏在
:経済成長において、重要なファクターは当該国・地域における資源の存在であり、食料、水、天然資源の発掘・開発などの獲得は重要な政策テーマである。特に、経済成長に必要なエネルギー確保のための資源獲得は、各国にとって大きな課題である。

 しかしながら、これらの資源、特に石油を中心とした化石資源は中東、中米など一部の地域に偏在していることが現実である。これらの資源の偏在や、将来の枯渇リスクなどに備え、近年ではシェールガスなどの開発が進みつつある。

■民間資金1220億米ドルが新興国に流入

(3)新興国の投資資本の流入
:今後インフラ需要が見込まれる新興国では、政府が十分な財源を確保することが困難である。そのため、政府間援助などの措置があるが、新興国政府は経済発展を加速させるため民間資金の導入についても積極的である。

 リーマンショックやユーロ経済危機の影響で、一時は民間資金の流入は減少したものの、現在は回復基調にあり、2012年度においては1220億米ドルの資金が新興国に流入している。

(4)グローバル・バリューチェーン
:グローバル化の進展に伴い、先進国は資源の獲得やコスト効率向上のため、新興国に生産拠点を移すなど、バリューチェーンをグローバルに展開してきた。これらの動きは今後も進むとともに、新興国の経済発展による生産地から消費地へのシフトなど、バリューチェーン構造も大きく変動する。

 新たにグローバル・バリューチェーンに取り込まれる、もしくは、その役割が変化するなど国や地域での分業の枠組みを見直すことにより、各地域においてのインフラも再構築が必要である。これらの再構築ニーズを実現させるため、近年は複数国をつなぐ経済回廊の計画が存在する。

(5)都市化
:経済成長と人口増加の相関は言うまでもないが、都市化もまた経済成長と正の相関関係にある。一般的には都市化に伴い各種のインフラ整備が伴うため、固定資本形成額が増加する。近年は、新興国において都市部への人口流入と、都市部の人口密度の上昇が顕著である。アジアにおいては、バングラデシュやミャンマーなどがこれに該当する。

■インドの複合型都市プロジェクト

(6)複合型都市開発
:都市化については前述の通りであるが、近年は特に環境・エネルギー問題への対応、地域振興・産業創出、さらには都市部での需要創出など複数の目標を達成しうる都市のあり方が求められつつある。インドの「OMEGAプロジェクト」などがその一例である。

(7)環境配慮型社会
:都市化や経済回廊への対応に伴うインフラ形成が進む一方で、地球温暖化や環境汚染、さらには生態系への影響などのリスクもまた発生し得る。これらについては国家を超えた枠組みで取り組む必要があり、気候変動や生物多様性などについての議論がなされている。これらの取り組みを加速させるための仕組みづくりも進んでいる。

(8)気候変動
:環境配慮型社会の中でも、議論と取り組みが進んでいるのが気候変動だ。特に地球温暖化への対応として、温室効果ガス排出量の削減の取り組みが多国間で協議されている。

 具体的には京都議定書があり、現在は第2次約束期間に入っているが、主要国すべてが参加しておらず、2020年以降の枠組みが不透明であるなどの課題もある。これら気候変動への対応のためインフラ整備においてもBAT(best available technology)などの考え方が求められている。

(日本総合研究所 総合研究部門 社会・産業デザイン事業部 グローバルマネジメントグループ ディレクター兼プリンシパル 時吉康範)

[ケンプラッツ2014年3月5日付の記事を基に再構成]

[参考]日経BP社は2013年12月、新興国へのインフラ輸出または拠点進出を検討する日本企業に向けて、今後10年のインフラ産業の動向をまとめた産業予測レポート『インフラ産業 2014-2023』を発行した。インドや南アフリカなど25の新興国における産業構造や主要プレーヤーの動向、国の政策・計画を網羅するとともに、電力・ガス、水、運輸交通、情報通信など、産業ごとに中長期の将来像を見通した。詳細は、http://www.nikkeibp.co.jp/lab/mirai/megatrend/infra-ind.html