エラスムス ~ 痴愚神礼讃 (Erasmus van Rotterdam (Erasmus P.../ジョルディ・サヴァール

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J.S. バッハ : ロ短調ミサ BWV232 (J.S. Bach : Messe En S.../ジョルディ・サヴァール

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最近奮発してサヴァールのアルバムを二枚買った。

 まずはエラスムスの愚神礼賛が収録されたSACD六枚組のアルバムだ。どちらが主役か見紛うほどの分厚い本に収納されている。4000円と少し高いが、この本を単体で買うだけで元が取れてしまうのではないだろうか。
 またこのアルバムほどサヴァールを全容を掴むのにうってつけのアルバムはないだろう。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者として、指揮者としてのサヴァールを、SACDという高音質の録音で存分に堪能することができるのだ。最近HMVで音楽評論家の許氏がサヴァールを絶賛している。確かに彼のヴィオラ・ダ・ガンバの美しい響きの上澄みは到底CDというフォーマットにおさまるレベルではない。彼がSACDでリリースを続けているのは、このフォーマットの選択自体にメッセージが込められているのではないだろか。スピーカーからえもいわぬ清澄な音が溢れ出てきた時、言葉を失ってしまった。なかなかできる経験ではない。

 さて、もう一枚はバッハのロ短調のアルバム。なんといっても装丁が美しい。家に飾っておきたいほどだ。ネット上では「温かな」演奏と銘打たれているが、サヴァールのロ短調はそのような枠組みで到底捉えきることはできないだろう。例えば冒頭のキリエの峻厳さを「温か」と形容できるであろうか。サヴァールは曲想によって柔軟に演奏スタイルを変化させ、曲の微細なニュアンスも変化をきき手に伝えてくれる。むしろ、表現のボキャブラリーの多さにぼくは心を打たれた。
 バッハのロ短調ミサ曲は、中国の孔子のように、クラシック音楽の始まりであり頂点であると思っている座右の一曲である。これまではジュリーニがぼくにとって絶対的な名盤であり、ヘンゲルブロックとリヒターが古楽と現代楽器を代表してそれぞれ挙げられる。また二年前の大晦日にテレビでみたアーノンクールも良かった。それ以来数々のロ短調ミサ曲の演奏と接してきたが、もはやぼくに大きな感動をもたらしてくれる演奏ははたとなかった。しかしやっとのことでぼくにまた一枚生涯そばにおきたい名盤としてサヴァール盤が加わってくれたように思う。本当に見事な演奏だ。

 双方ともに4000円弱と値段ははる。しかしそのずっしりと重い本を手に取っただけで作り手の熱意が伝わってくるはずだ。録音芸術とはジャケットを見たときほとんど中身が推し量れるようにぼくは思う。ジャケット、音質、盤質、様々な要素が組み合わさり一枚のアルバムが出来上がるが、サヴァールのリリースするアルバムほどどの要素も漏れおつることなく完璧な企画は存在しないのではないか。きっとくだらないコンサートに行くよりもずっと大きな感動をもたらしてくれるはずだ。4000円という投資はあなたの感受性にもたらす衝撃と比べたらたいしたことなどないのである。