Bartok New Series-Choral Works/Hungaroton Sacd

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 今日の一枚は、デーネシュ・サボー指揮、カンテムス児童合唱団とプロムジカ少女合唱団演奏のバルトークの「27の合唱曲」。

 現在来日中で日本全国を回っているハンガリーのプロムジカ少女合唱団は、おそらく世界最高の女性合唱団だろう。合唱大国として知られるハンガリーは独自の合唱教育システムを有しているそうだ。なんでも小学生が全音ぶつかりで民謡一曲を歌い通せるらしい。このアルバムの前半を歌っているカンテムス児童合唱団は、そのコダーイ小学校の卒業生で構成されており、大人顔負けのアンサンブル感覚を有している。ゆえに、カンテムス出身者によるプロムジカ少女合唱団が、上手くないはずがない。幼少の時から鍛え上げられた完璧かつ透明なアンサンブルと卓越した表現力は本当に見事だ。常に良い歌い手がカンテムスから供給されるゆえに、メンバーが変わっても実力は落ちず、音楽性もぶれない。混声や男声は優秀な合唱団が次々と設立され群雄割拠の感があるが、女声合唱に関しては、これからもプロムジカの圧倒的な優位が揺らぐことはないだろう。

 バルトークの27の合唱曲は女声合唱の定番レパートリーとして有名だ。しかし、バルトークの管弦楽曲しか馴染みのない人には、その素朴な曲想に面食らうのではないだろうか。
 ここで、バルトークが、コダーイのように民謡の採集に熱心に取り組んでいたことを思い出してほしい。ジプシー音楽の影響などを受けたハンガリーには実にユニークな音楽文化が存在した。このことについては、伊東信宏先生の名著『バルトーク~民謡を「発見」した辺境の作曲家』(中公新書)に詳しく書かれている。本著は新書にしておくのがもったいほどの内容の濃さで、吉田秀和賞を受賞している。ぜひとも読んでみてほしい。

 余談になるが、ハンガリーが隠れた文化大国であったことも言及しておく。第一次世界大戦以前のハンガリーにおける音楽水準の高さは、ライナー、セル、ショルティ、ドラティ、オーマンディなどアメリカのオーケストラの黎明期を支えた蒼々たるメンバーがハンガリー出身(アメリカ出身ではない!)であることを鑑みれば、一目瞭然かと思う。パラマウント創設者のアドルフ・ズーカーを初め、ハリウッドにもハンガリー系ユダヤ人が多い。これらについては詳しく書かないが、ハンガリーは文化的に実に興味深い国なのだ。

 以上、今回も前置きが長くなってしまったが、プロムジカ少女合唱団の高い音楽性を、教育や時代背景から説明してみた。

 さて、このアルバムに収められている演奏は、バルトークの27の合唱曲の永遠の定番として受け継がれていくかと思う。その牙城を崩すには、プロムジカ自身による再録音しか道はないだろう。

 このアルバムはSACDゆえに音質は大変良い。しかし、実演におけるコンサートホールは、この世のものとは思えない倍音で満ちているそうだ。幸運にも指揮者のサボーは日本に縁があり、数年に一回来日しているので、ぜひとも実演に接していただきたい。

 かくいう自分も、今回の来日公演にいくことができず、来るべき再来日を心待ちにしているのだ。あぁ、行きたかった・・・。

バルトーク―民謡を「発見」した辺境の作曲家 (中公新書)/中央公論社

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