Otto Klemperer Conducts Beethoven,Brahms,Bruckner/Membran

¥1,153
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 今日の一枚は、membranレーベルがクレンペラーの10枚組ボックスだ。1000円弱のお買い得ボックスである。

 membranレーベルは、以前モンテヴェルディのボックスで紹介した。著作権の切れた演奏を10枚組1000円弱という廉価ボックスで再販する。CD店に行けば、お買い得商品として積み上げられているのをよく見かける。brilliant classicsに次いでクラシック界の価格破壊の先鋒を担っていると言えるだろう。

 ただ、このmembranには当たり外れがある。モノラル録音が多い故に、リマスターの出来不出来があるからだ。CDの盤質も褒められたものではない。失敗しても値段相応と自分を説得するしかないが、なんか悔しい。

 ゆえにmembranのボックスを買う際には、ネット上のコメントをチェックすることが重要となる。ただし、ネット上には信頼のおけない情報が多いので、音質の出来に関する言及のみに着目して、総合的に判断すると良いかと思う。

 以上、前置きが長くなってしまったが、このクレンペラーのボックスはずばり「大当たり」だ。これほど素晴らしい演奏が詰まっている廉価版ボックスはそうないだろう。

 まずブラームスの交響曲第1、3番がEMIの正規録音である点がうれしい。しかも3番に関しては、ステレオ録音なのだ!定評のある名演ゆえに、この一枚でもとがとれると言えるだろう。

 そして際立っているのは、ブルックナーの4、7、8番だ。もし店頭でこの演奏を視聴したならば、僕は一枚3000円であっても躊躇なく購入したかもしれない。リマスタリングは聴きやすくする為に、かなり大胆にノイズをカットしている。しかしクレンペラーの研ぎすまされたアンサンブルには問題なく、後のステレオ録音と比べても遜色はない。演奏はシューリヒトを思わせるほど振幅が大きく、ダイナミックでスケールが大きい。特に8番は全ての要素が極端だ。クレンペラーらしい無機的な響きと、感情的とも思わせる挑戦的な解釈との間のギャップがおもしろい。冷徹と評されるクレンペラーにこのような一面があったのかと驚かされる。本当に稀代の名演だ。僕は久々の名盤との出会いに、外に飛び出して叫び回りたくなる衝動に駆られた。

 このボックスはぜひとも多くの人に聴いていただきたい。そして、クレンペラーのすごさに触れてほしい。クレンペラーのどこが良いのかわからない人は、繰り返し聞き直すことをすすめる。細部を浮き彫りにすることによって、曲の内面を曝け出そうとするその手腕に気づく時が来ると思う。それがわかれば、勢いだけの演奏が、いかにチープでくだらないかわかるかと思う。クレンペラーの演奏は、そういう意味で、一種の「啓蒙音楽」と言えるのかもしれない。

 お詫び:体調を崩し、しばらく更新が滞ってしまいました。音楽というものは、心が健康でない限り向き合う気にもなれない。素晴らしいと感動する一方で、その圧倒的な芸術性に生気を吸い取られるように思えます。体も復調いたしましたので、再び執筆を再開します。ながてつ朝日堂をよろしくお願いいたします。