モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」 ほか/ALTUS

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 今日の一枚は、クーベリックとバイエルン放送響による1965年の来日公演を収録したアルバムだ。収録曲はモーツァルトの35番、ヒンデミットのウェーバーの主題による交響的変容、フランクの交響曲。

 クーベリックといえば、グラモフォンが全盛期にあった時に、カラヤンとベームに次ぐ三番手の指揮者として、両者が取りこぼしたような主に東欧の曲を落穂拾い的に録音した。そのためか、クーベリックの知名度は、グラモフォン所属の指揮者としてはそれほど高くないのではないか。むしろ彼の晩年におけるチェコフィル時代の方が印象が強いように思える。

 僕も彼のことをそれほど重要視しているわけではなかった。だいぶ前に定番としてドヴォルザークやヤナーチェクのアルバムを聞いたことがあったけれども、あまり感動した覚えはない。このアルバムで改めて向き合うまで、僕は2年近く彼を聞いていなかったことになる。

 しかし、このアルバムを聞いて彼の印象は180℃変わってしまった。とにかく熱い。クライバーのような躍動感とキレに加え音が輝いている。バイエルン放送響は重厚でスケールの大きなイメージがあったが、全く違う。むしろ今のシュターツカペレなどのように機敏性に富んだオーケストラに近い。

 特にフランクの出来が格別に良い。最近の多くのフランクの交響曲の演奏は、主題の重厚長大な特性を生かして遅めのテンポでどっしりとした演奏が主流だろう。だが、大半の演奏はただ重苦しいだけで、曲の前進性が失われている場合が多いように思う。僕は以前から、フランクの交響曲は早めのテンポで音楽が締め上げメリハリを聞かせた方が、良い音楽になるのではないかと思っていた。その予感を見事に実証してくれたのがこの演奏である。

 ライブ録音とは思えないほど、アンサンブルが冴えている。ドイツらしい重苦しさは微塵もなく、むしろフランスのオーケストラのように極彩色で美しい。フランクの定番として知られるモントュー盤よりもずっとフランスらしく、僕には思える。

 モーツァルトも熱い。最初の数小節だけとってみれば、クライバーと聞き違える人も多いのではないか。勢いがすさまじく圧倒されっぱなしなので、演奏がすぐ終わったように感じる。

 とにかくクーベリックは僕にとって強化が急上昇している指揮者の一人となっている。これから彼の演奏を掘り起こしていくのが楽しみでならない。