Complete EMI Recordings/Jacqueline Du Pre

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 16歳でデビューし、17歳で録音を行い、わずか10年の活動期間をすごしただけで、難病にかかりわずか28歳で現役を引退し、42歳で生涯を閉じた伝説のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの17枚組ボックスが発売される。

 これは以前にも同様のボックスが発売されていたが、好評だったのか、ボックスの装いを変えプライスダウンしての再販となる。ジャクリーヌ・デュ・プレの演奏を思う存分堪能できるだけでなく、代表的なチェロ曲を網羅している意味でも、嬉しい企画だろう。最近チェロの魅力に取り憑かれつつあるにも関わらず手元にCDがあまりない僕にとっては吉報である。

 ジャクリーヌ・デュ・プレのすごさについてはあちこちで語られているが、宇野氏曰く「男性チェリスト五人分の音を出し、一小節たりともオーケストラが彼女の音を消すことはなかった」のだそうだ。協奏曲、特にヴァイオリンやチェロの協奏曲は、オーケストラに負けてソリストの音がどうしても埋もれてしまうが、彼女はそうではなかった。クラシック音楽を聞く際に、ホールに響き渡るだけの声量を出せているかは、力量を判断する上での重要な要素となってくるが、彼女は別格だったというわけである。

 先日発売された、EMIによる格安SACDは、そのような彼女のすごさを伝えてくれる良いアルバムだと思う。彼女は、ロック歌手たちのように、命を削りながら奏でているように聴こえる。僕は、タイプは全く逆だけれども、ジャニスジョプリンの、あの絞り出すような声を連想してしまう。自らの生を犠牲に捧げながら奏でる音楽が、この世にはあるのだと、彼女らの音楽を聴きながら思うことがあるのだ。彼女の身に起こった不幸は決して偶然ではなく、人間としての限界だったのではないだろうか。

 カザルスのような名人芸を堪能するのも、もちろんクラシック音楽の醍醐味だろう。でも彼女のような熾烈な音楽を聴くと、クラシック音楽のおもしろさを改めて実感してしまうのだ。

Cello Concertos/Delius

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