Smile Sessions/Beach Boys

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 今日の一枚は、クラシックではなく、ロックのアルバムをご紹介。ビーチ・ボーイズの「スマイル」だ。

 ビーチ・ボーイズはビートルズと同時代の1960年代に活躍したロックバンドだ。「ペット・サウンズ」はロック史に燦然と輝く伝説的アルバムだ。あのビートルズの最高傑作と言われる「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」は、「ペット・サウンズ」に刺激を受けて生まれたとさえ考えられている。日本では村上春樹がファンとして知られ、ビーチボーイズ愛について多くの文書を寄稿している。

 そんなビーチボーイズは、世界で最も未発表音源を多く保有するバンドとしても知られている。その中で最も有名な未発表アルバムが「スマイル」だった。「ペット・サウンズ」の次に発売される予定のアルバムだったが、制作期間の長期化とブライアン・ウィルソンのドラッグによる精神失調によって、発売が中止となってしまったのだ。これらのお蔵入りとなった曲は、他のアルバムに収録されたり、海賊盤やブライアン・ウィルソンがソロアルバムとして発売するなどして少しずつ世に出たが、完全な形となったのは今回が初めてとなる。

 僕がこのブログでわざわざ紹介するのは、「スマイル」がロックというジャンルを大きく超え、クラシックの人間をも唸らせる高い芸術性を備えた素晴らしいアルバムだからだ。ブライアン・ウィルソンは、歴史上のクラシック作曲家と全く引けをとらない才能を有している。僕は当時彼にシューベルトが憑依していたと本気で思っているのだ。ブライアンウィルソンの曲は、シューベルトのように親しみやすくも、聴けば聴くほどその深さに驚かされる。特にこの「スマイル」は「冬の旅」のようにメランコリックだ。

 例えば一曲目の「Our prayer」の美しくも哀切のこもった不可思議な和音を聴いた時点で、僕は打ちのめされてしまった。現在のこの世界観を作り上げられる合唱作曲家が、果たして何人いるだろうか。
 そしてビーチボーイズの代表曲として名高い「Surf's Up」は、音楽的おもしろさに満ちた名曲だ。どこか倦怠感が漂うアンサンブルに、意味深な管楽器の音。中間のピアノ伴奏付きアンサンブルは、一介のロック音楽で片付けることなど到底できまい。クラシックの歌曲としても十分通用する、高いレベルに達してる。

 もしも「スマイル」が発売されていたら、ロックの歴史はどうなっていただろうか?このアルバムは、ブライアンという天才さえをも押しつぶしてしまったのだ。もしかしたら、このようなデモーニッシュな音楽は世にでない方が良かったのかもしれない。

 ビーチ・ボーイズは美しいボーカル・アンサンブルを特色とするグループなので、クラシックファンにも親しみやすい。クラシックという枠にとらわれず、ぜひともこのアルバムを手に取ってみてほしい。

 *なお、このアルバムを始め、ビーチ・ボーイズには色々とうんちくが存在する。そこら辺は、下の「レコード・コレクターズ」のスマイル特集を参考にしていただきたい。これを読めばスマイルについてよくわかりますから。
 あとこのボックスにはコレクターズボックスやらデラックスボックスやらたくさん出ている。ファンの期待度のあらわれでしょうね。うれいいけど、財布が苦しい・・・。

レコード・コレクターズ 2011年 12月号 [雑誌]/著者不明

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スマイル(デラックス・エディション)/ビーチ・ボーイズ

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