ブルックナー:交響曲第7番/ヴッパータール交響楽団 上岡敏之

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 今日の一枚は上岡敏之のブルックナーの七番。

 上岡敏之は新聞にのることも多くなり、知名度がぐんぐん上がっている。吉田秀和や宇野功芳にも評価されているし、僕も実際に聴いて大変感動した。今でも僕が聴いた中で一番の名演だったかもしれない。

 彼は大学時代教授に認められず、卒業後はホテルで働いた不遇の時期があったという話がよく新聞で取り上げられる。これを読んだ人の多くは、才能を認めることができなかった教授に非があると思うだろう。しかし、演奏を聴けば、彼が「かなり」変わった人であるとわかる。扱いあぐねた教授の気持ちも分からなくもない。

 このブルックナーはそのような上岡の独特の世界を存分に見せつけてくれる一枚だろう。「史上最長!」のブルックナーである。CD一枚で入りきらず二枚組、「遅い」演奏の代名詞であるチェリビダッケよりも10分ちかくかかるのだ。

 しかしチェリビダッケは、遅くとも道標があちこちに立っているような実に明晰な演奏だった。一方上岡は観客への配慮などどこにもない。ドビュッシーの「海」のように、脈絡のないモチーフがいつまでも、なんとなく通り過ぎるように聴こえる。なまけものがのそのそ歩き回るような、もったりした演奏だ。自分がどこにいるのかわからなくなるような、不安感に苛まれてしまう。その音の響きの中にいつまでも浸っているのもわるくないのが、ブルックナーのクライマックスへとかくものっそりと入っていく指揮者はそういない。あまりにも変わった演奏なので、どう評価すれば良いか迷うところがある。うーん。
 それでも第四楽章の最後に、上岡は音を締める。今まで漂っていた世界は夢であり、それはいつか終わりを告げるかのように。演奏終了後拍手がしばらく起こらないのも、突然現れた現実に聴衆が戸惑っているかのようだ。

 しかしヴッパタール交響曲楽団の演奏の本当に素晴らしい。この遅いテンポでも聴くに耐えうるのは、彼らの美しい響きがあってこそなのだ。確かに彼らはドイツの地方オーケストラであり、ベルリンフィルのような重厚さも、シュターツカペレのような機能性もない。だが演奏が終わった後、何かとてもいいものを聴いたという、ささやかな感動を残してくれる。ライブで実際に聴いたときも、時間がたつにつれてだんだん感動が大きくなっていった。小さな巨人とでも言おうか、存在感のある演奏だ。

 上岡敏之は大野和士と並んで日本で一番注目の日本人指揮者だ。次は何をやってくれるのか楽しみでたまらない。ありがたくも、今の日本には彼の個性を受け入れるだけの物好きがけっこういるらしい。この姿勢を貫いてほしい頑張ってほしい。上岡ワールドを存分に堪能してみてください。

 ちなみに僕は彼の直筆サインを持っております。ちょっと自慢。