ペット・サウンズ (新潮文庫)/ジム フジーリ

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 ビーチボーイズが音楽史に打ち立てた金字塔的アルバムである「ペットサウンズ」について語られたジムフジーリの『ペットサウンズ』を村上春樹が訳した本を手短に紹介する。最近文庫化されて手に入りやすくなった。

 この本では筆者の「ペットサウンズ」への愛情が切々と語られる。批判的なコメントなんて、ほぼない。あってもそれは好きなレベルだけであって、直接的ではない。「この曲は最高だ、でもこのアルバムの中では一番じゃない」みたいな。丁寧な分析を心がけていはいるけれども、ペットサウンズに対する著者の思いがどうしても前に出て来てしまう。

 そういう姿勢を批判する人もいるかもしれないが、このような類の本を手に取る人は誰も分析的、学術的姿勢なんて求めていないと思う。「ペットサウンズが好き」という感情を他の人と共有したい、ただそれだけ。「そうだよなぁ」と頷き続けることができれば、文句はないのだ。嫌いなやつは出て行け、わかるやつだけ残れば良い。そういう雰囲気をビーチボーイズ愛好家たちは皆漂わせているように思う。というか、音楽や文学はそういう偏執的なところが最後にものをいうし、大切なんですよね。

 村上春樹の訳はどこか堅苦しくて好きになれないが、彼は筋金入りのビーチボーイズファンだ。それは彼の著作を読めばわかるし、そういう人がこの本を翻訳すべきだと思う。あとがきのビーチボーイズへの文章には感服させられるものがある。

 ちなみに、僕は筋金入りではないけど、「ペットサウンズ」は何回聞いたかわからないくらい好きだ。最近「スマイル」が出て、彼らに対する思いは確信に変わったように思う。村上春樹はブライアンウィルソンをシューベルトに重ねている。彼を評するにこれほどぴったりな喩えはないだろう。彼の音楽には親しみがあり、どこまでも深い。噛めば噛むほど味がある。僕が人間的に成長するたびに、このアルバムから様々なことを学んでいくと思う。彼の音楽はシューベルトの歌曲のように、末永く受け継がれていくことだろう。

 僕はこの場で語るのはクラシック音楽だけだけれど、それ以外の音楽も素晴らしいことを語りたくてこの本を紹介しました。良いですよ、ビーチボーイズ。