Bruckner: Symphony No. 7 in E Major/Kent Nagano

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 今日の一枚は、ケントナガノのブルックナーの7番。

 世間でどうかは知らないが、ケントナガノは現役の中で最も優秀なブルックナー指揮者の一人だ。僕の中では一番といって良いかもしれない。震災直後にもキャンセルが相次ぐ中来日し、器の大きさを見せつけたくれた。

 ケントナガノはヴァントから大きな影響を受けた指揮者だった。彼はヴァントのドキュメンタリー番組に出演し「彼は妥協を許して良い音楽を作ることはできないことを知っていた」と語っている。そして彼の音楽を聴けば、彼がヴァントのエッセンスをしっかりと受け継いだことがよくわかる。

 彼の音楽は、細部まで驚くほど神経が行き届いている。特に強弱表現のこだわりようには舌を巻く。音の波がダイナミックによせていはひいていく。一体どのような練習をやればこのような一糸乱れぬ演奏ができるのだろう。現代的機能性の極みのような精密さだ。一方、彼は人間的熱さを忘れることはない。時折見せるロマン的な濃密な響きに、どきりとすることがある。そしてふりこのように大きく揺れ動くデュナーミクの付け方も見事で、ドイツのオケらしい分厚いアンサンブルが徐々に、粘り強く頂点へと駆け上がる。ブルックナーの数学的世界と音楽的崇高さが見事に邂逅している希有の名演だ。

 彼の音楽を聴けば、他の指揮者の演奏が妥協の産物であることがわかるだろう。勢いで解釈の不十分さをごまかし、聴衆の耳を欺く。クラシックは冷徹なほどの理性的世界でありながら、ロマン的でもある。その両方の世界を橋渡しできる指揮者こそが、真の有能な指揮者であるのだ。ケントナガノはその難役をつとえあげることのできる素晴らしい指揮者の一人だ。
 
 なぜこれほどの演奏が存在しているにも関わらず、人々は大きな関心を寄せていないのだろうか。過去の巨匠たちの名演を掘り起こすことに必死になる前に、生きている人に目を向けるべきだろう。彼らの演奏を生で聴くことは永遠にできないが、ケントナガノはいつでも聴くことができる。そう思えるだけで希望が持てるではないか。

 うれしいことに、6番がハルモニアムンディから、8番がソニーから近日中に発売される。彼のブルックナー交響曲全集録音はしばらく中断していたが、嬉しい限りだ。