知的資産経営とバランススコアカード | 中小企業の知的資産経営と災害対策・BCP

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知的資産経営とバランススコアカード

 今月、木製家具製造・卸の中小企業(A社)の知的資産経営報告書が完成しました。
 明治時代創業の会社で、そのルーツは江戸の「指物師」です。指物師とは、ホゾや継ぎ手によって木と木を組み合わせて作られた家具・建具・調度品(写真)のことです。

指物師


 A社は高度成長期~バブル期には、書斎家具や学習机で業績を大きく伸ばしましたが、その後は輸入家具や組立式廉価家具に押され、また少子化や
家具作り付けのマンション・アパートの増加などで低迷が続いていました。
 ここ数年は人手不足の状況が深刻で、特に工場の職人や本社の事務の女性が採用できなくで困っていました。いっときは女性社員がぜゼロのときもありました。そこで採用を目的として知的資産経営報告書の作成に取り組んだわけです。
 従業員によるSWOT分析の結果出てきたのは、人材管理に関する弱みが圧倒的でした。残業が多い、先に帰れる雰囲気にない、分煙不十分、年休が取りづらい、みんなピリピリしている、挨拶がない、組織が形だけ、管理職が責任を回避したがる、従業員教育ができていない、・・・・ もちろん新たな販売チャネル開拓ができていないとか、新商品が開発されないなどの業務面の課題も多く出ました。
 そこでこれらの弱み(課題)をバランススコアカード(BSC)の戦略マップで整理しました。戦略マップとは、戦略を実現するためのCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を、人材の視点→業務プロセスの視点→顧客の視点→財務の視点の順に繋いでいったマップです。(例図)

戦略マップ

 すなわち、人材や組織に関するCSFとなる施策を実現することで業務における施策が実行可能となり、それによって顧客との接点での施策が実行可能となり、顧客に価値を提供することで財務面の成果につながり、戦略が実現されるというリンクのことです。逆の流れでもっと平たく言えば、業績を上げるにはお客様に買ってもらって利益を上げなければならない。買ってもらうには良い仕事をしなければならない。良い仕事をするためには人材と組織がイキイキしていなけらばならない。ということです。
 A社は様々な課題がありましたが、根底は全て人材の視点における課題が原因となっていました。そこで「これからの知的資産経営」では、人材の視点として次のような取り組みを行うこととしました。
・ワークライフバランスの改善
・インフォーマルコミュニケーションの改善
・工場組織力の強化
・指導者教育の改善
営業や生産といった業績に直接的なことではありませんが、A社の場合には、これら人材視点の取り組みが上位の課題解決に絶対的に必要な状況だったのです。

 私が企業内にいた当時、人事部門の仕事は、人事異動や組織変更、給与計算、決まった教育を実行するといった、ルーチンの仕事をこなしていく部門というように何となく思っていました。もちろんそれは誤った理解であり、人や組織というのは企業戦略の根底を担う最重要な視点であるということが、バランススコアカードの戦略マップで見える化すると本当によくわかります。
 バランススコアカードを採用しているのは大企業が多いようですが、事業や業務・組織が多様で、複雑になりやすく、なんとなく従業員がやらされ感で取り組んでいて今ひとつ役立っていない場合も多いと思います。シンプルな中小企業こそ、戦略実現の具体策の見える化にバランススコアカードの戦略マップは有効なのではないでしょうか。