以前も書いたことがあると思うが、陽明学を修めた京セラの稲盛和夫会長が、自戒をこめて銘記している言葉に、「動機善なりや、私心なかりしか」というのがある。私自身も毎日拳々服膺している箴言である。とくに国家の安寧と国民の生命と身体と財産を預かる政治家にとって胸に刻んでも刻みきれない言葉だ。

その言葉を思わず想起させられたこのたびの「山拓訪朝」であったが、案の定綻びが見え始めた。以下は、拉致被害者を救う会の増元副会長のブログからの引用である。帰国後、蓮池さんと面談し、支持を得たかのような一部報道に違和感を持っていただけに、この真相判明ですべてのなぞが氷解した気がする。やはり、動機が不純だったようだ。このような不純な動機で、拉致被害者の皆さんの運命やご家族の皆さんのお気持ちを翻弄することは絶対に許されないことだ。

(引用はじめ)
■山拓氏に利用されたという感が否めない-蓮池透氏
「蓮池透氏の山拓氏との面談」

 以下は、本日14:29に蓮池氏と連絡が取れ、(増元副会長が=筆者注)事情を聞いた。その内容に関して、家族会のメンバーに発信した内容である。

 家族会各位様  

 先ず、このような騒ぎになったことを謝罪されました。ただし、報道には意図的に捏造されたものがあるように感じるということです。

 透氏は、2004年の大連の会談の真意を聞きたいということで、以前から「山拓氏」に面会を申し入れていたそうですが、それが昨日になって平沢氏を経由して、面会の運びとなったようです。しかし、あくまで「蓮池透氏」個人としての面会を強調されたようですが、面会場所に行ってみるとそこに既にカメラが入っていたということでした。

 会談時に、透氏は「山崎さんの訪朝を全面否定するものではないが、政府方針とは違うのではないか。出来れば政府と一体化して『拉致被害者の救出』に努力して欲しい」といわれたようです。そこで、今回の訪朝に関して、売名行為ではないのか?ご自分の政治的な影響力の復権のために「拉致被害者を利用しているのではないか?」等々、詰問したようですが、山拓氏は訪朝に関し、持論を展開し、正当性を主張したようである。

 そこで、「そこまで考えているのなら、安倍総理と話し合って、日本として一体になってはどうか?」と問いかけたが、「直ぐには、できない(なぜ、出来ないのかは言明無し)」との回答だったと言うことです。

 透氏としては、今回の訪朝に関して「家族会」が反対していることは理解しているし、何等異論はない。ただ、「全面否定しない」と言ったことが「評価」という言葉に変えられ、非情に腹立たしい!「家族会」が今回の山拓氏の訪朝に関して、反対の立場をとっているのは充分理解している。とにかく「二元外交」と言われるような行為は謹んで欲しいと言うことを山崎氏に言ったということです。

 さらに、安倍政権の政策に対して批判したことはなく、報道のあり方に疑問を呈していました。今朝方、井上首相秘書官に電話し、真意をお話し、安倍さんの批判をしているのではない。今後も、安倍さんに期待している旨、告げられたようです。

 最後に、日本国内で分断しているような報道をすることは、北朝鮮を利するという思いであるということでした。最終的に、「山拓氏に利用されたという感が否めない」との感触であり、皆さんにご迷惑をおかけしたことを謝罪されました。

 今回の報道には、意図的に安倍政権の批判を展開し、日本サイドの分断を狙った報道としか思えず、担当者の「拉致問題への理解度の低さ」となにか、北朝鮮の工作をも感じさせる「胡散臭さ」もあるようです。

 実は、私も以前から「山拓氏」に面会し、北朝鮮国内で「どのような会話がなされたかを聞こうか」という思いもありました。当然、家族会・救う会の役員と話をしてから申し入れをしようと考えていました。


 今、国内が分断されるようなことがあってはならない。そのような報道になること事態が、山拓氏の訪朝の結果と言うことであれば、北朝鮮の意図としては成功であったかに見えるが、我々は北朝鮮との神経戦に負けぬよう、結束を固めたいと思う。
(引用終わり)

今後の北朝鮮外交にとって、きわめて重要なポイントを押さえた声明なので、一人でも多くの皆さんに事実関係を共有していただきたいと重い、あえて全文掲載させていただいた。ベルリンで行われた米朝金融協議と併せ、北朝鮮国内が抜き差しならない危機を迎える今年3月までが、朝鮮半島情勢をめぐる日本外交の正念場となる。その際、不純な動機で外交の窓口を複数化することは厳に慎まねばならない。