3日目(ワシントン最後の日)
 この日も、有意義な朝食ミーティングで明ける。先日、日米安全保障戦略会議のパネルでご一緒させていただいたウィリアム・コーエン元国防長官が主宰してくれた朝食会。民主・共和両党の有力上院議員スタッフをはじめ、安全保障問題に関心のある方々が参加してくれる。ここでは、前原外交ヴィジョンをめぐって率直な意見交換ができた。「日米関係が緊密であればこそ、アジアとの関係が良好になる」という小泉首相に対するアンチ・テーゼに質問が集中。「それは米国と距離を置くという意味か?」「アジアとの関係強化はどうやって達成すべきか?」「アジアとの協力を進める上で何が一番の障害となっているのか?」などなど。てきぱきと答える前原代表とのやり取りを聞きながら、自分でも随分頭の体操ができた。

 つづいて、意外と質素な党本部に、民主党のハワード・ディーン全国委員長を訪ねる。ここは、訪米日程のハイライトの一つだったので少し詳しく紹介したい。昨夏、大統領選挙の前哨戦(党予備選)に敗れた直後の彼に会う機会があったが、その時に比べ断然エネルギッシュに見えた。ここでは、お互いに政権交代をめざす立場からきわめて率直で興味深い意見交換ができたと思う。

まず、野党としての姿勢について、彼は、まず第一に、与党との違いを鮮明にすべきと強調した。たしかに、ディーン氏は、いまイラク戦争に対する大統領の政策や情報開示の信頼性に傷がついていることに付け込んで激しい政権批判を展開している。彼は続けた。政権攻撃をエスカレートさせればさせるほど批判の嵐にさらされる。しかし、絶対に攻撃の手を緩めてはならない。守りに回った時の野党は脆いもの。(確かに9月の総選挙での私たち民主党はとてつもなく無力だった・・・。)わかりやすい論理だったが、前原代表は、この路線には違和感を持ったようだ。会談後の「ぶらさがり」(記者さんたちに囲まれて感想を述べること)でも、真っ先にそのことに触れていた。

さらに、ディーン氏は、政権をめざす私たちにとって3つの大切なことを指摘してくれた。一つは、忍耐すること。粘り強くメッセージを発し続けること。党内が一致して同じメッセージを繰り返し繰り返し発し続けることが肝要だと。(ここが、わが党に最も欠けている点だろう!)米民主党は、一日に4回記者ブリーフを行って、徹底的に党の政策を訴えるという涙ぐましい努力を重ねているという。それでも、肝心のメッセージがメディアを通じて国民の目に留まるまでに3-4ヶ月かかることもしばしばあると。だから、「忍耐」を重ねて強調したのだ。

二つ目は、インターネットの活用。その際肝心なことは、このツールが双方向の意思疎通をその核心としている点を理解することだ。つまり、ネットを通じて党の政策や情報をわかりやすく発信することはもちろんだが、むしろ、ネット・サーファーたちから、積極的に意見を聞き、党の政策に反映させること。これには、一同大きくうなずく。三つ目は、草の根を掻き分けて地域に入っていくこと。とくに、一見派手な印象を抱かせるアメリカの選挙でも、やはり基本はフェース・トゥ・フェースの活動だという点で、私自身の選挙区での活動の指針にもなるものだった。

最後に、来年夏をめどにヨーロッパやアジアの野党勢力との「政権交代戦略セミナー」のようなものを共同開催し、お互いの政策や、選挙戦略などを学びあう機会を持ちたいとの提案があり、私たちも喜んで応じた。考え方が左に偏っていてとかく物議をかもすディーン氏であったが、確かに人をひきつける魅力を持った人物で、劣勢を挽回する民主党の全国委員長としては最適のキャラクターという印象を持った。繰り返しになるが、このセッションは、今回の訪米日程の中で3番目に有意義なものとなった。

 そして、三たび国務省へ。ライス国務長官に代わって省内ナンバー3のニコラス・バーンズ筆頭国務次官(政策担当)との会談。これが、2番目に有意義なセッションだ。バーンズ次官は、私にとってSAISの先輩。同行の山口代議士とは同期の49歳で国務省ナンバー3は異例の若さ。

じつは、彼と前原代表は、訪米前にも一度会談しており、その際、BSE問題で激しい応酬があり、あとでバーンズ次官が周囲にフラストレーションをぶちまけていたと聞いていたから、どうなるかと多少冷や冷やしたが、前原代表は、自説を曲げることなく、丁寧にかつ執拗に、日本の消費者の利益を代弁して、米側の輸入牛肉の食品管理体制の不備を指摘した。イラク問題や京都議定書のフォローアップについても両者は鋭く対立。しかし、議論は見事に噛み合って、なかなか見応えのある外交交渉の場を見させてもらった。これこそが、「米国べったり」の小泉外交に代わる、対米「是々非々」の前原外交の真骨頂であろうし、これでなくては本当の意味で対等の同盟関係は築けまい。

 つづいて、国際戦略研究所(CSIS)での前原代表講演。150人ちかくの聴衆を前に民主党の目指す外交安保政策ヴィジョンを簡潔にアピールした。会場からも日本に対する関心の高さをうかがわせる高度な質問が連発され、じつに有意義であった。(ここは、自分もワシントン留学当時、講演に来た菅直人さんや加藤紘一さんに対して意地の悪い質問をぶつけた思い出深い場所だ。)あとで在米大使館の方からきわめて好評であったことを聞き安堵した。

ところが、ここでの発言が、国内や党内で物議をかもしているようだ。ただ、昨年夏にも岡田代表が同じような批判にさらされた。その時も同行させていただいた立場から感じたが、批判している方々は、マスメディアによって断片的にキャリーされた発言の一部を捉えるのではなく、ぜひ全体の文脈で判断してほしいものだ。私見では、去年の岡田さんも今回の前原代表も、とくにこれまで両氏が発言してきたことと大きな逸脱は見当たらない。

焦点となっている中国に対する姿勢も、小泉(反中)路線とは明確な一線を画しており、あれだけ過剰に軍備増強を図っている国に対して牽制しないのは、余りに不自然だ。現実から目をそらして、真の友好関係は築けない。甘い幻想に基づき結論先取りで、譲歩し続けた戦後の日本外交が、いま世論の大きな批判を浴び、関係国との成熟した関係を築ききれていない事実をもっと真摯に受け止めるべきだと申し上げたい。

 ワシントン最後の公式日程は、共和党穏健派の重鎮であるブレント・スコウクロフト将軍(ブッシュ父政権の安全保障担当補佐官)だ。昨年夏にもお目にかかったが、大分お年を召されたような印象だった。しかし、議論が深まるにつれ、示唆に富む考え方を連発してくれた。とくに、中国訪問から帰ってきたばかりとのことで、靖国問題で日本の姿勢について見解を求められたエピソードを紹介してくれるなど、中国政府がとくに関心を持っている論点について、前原訪中を考慮して、簡潔な事前ブリーフのようなことをしてくださったことは、私たちにとっても頭を整理する上で大変参考になった。

 今にも雪が降り始めそうな曇天の中、一路ニューヨークへ向かった。機内で、なんとジャック・ケンプ元下院議員と隣り合わせる。といってもご存じない方が多いと思うが、彼は、プロ・フットボーラーとして勇名を馳せ、レーガン政権を支える下院議員として活躍したあと1988年に初めて共和党の大統領予備選に挑戦。ブッシュ父に敗れたものの請われて都市・住宅長官に就任。私は個人的に政治家として彼を、その当時から注目して来たのだ。

そして、留学時代に、これまたレーガン・グループの一人であるウィリアム・ベネット元教育長官(ブッシュ父政権)と共同で、「エンパワー・アメリカ」という草の根の全米運動を立ち上げた。趣旨は、クリントン政権(当時)の下で荒廃した米国のモラルを回復し、コミュニティを再生し、教育を立て直そうというもの。いまの私たち民主党にとっても示唆に富む運動だ。(ちなみに、私の後援組織の一つは、そこから名前をとって「エンパワー・ジャパン!」と称している。)というような話をしていたら、あっという間にニューヨークに着いた。