2日目
 時差ぼけの目をこすりながら、スティムソン・センターでのアジア専門家との朝食勉強会に臨んだ。議論の焦点は、日中関係。今年の春まで国務次官補を務めていたジム・ケリー氏やSAISのケント・カルダー教授をはじめ日本通、アジア通が一堂に会しての議論は白熱し、自然と小泉首相の靖国神社参拝に批判は集中した。

ここで、前原代表は、靖国に対する持論を展開した上で、この厳しい現状を打開するために、訪米に引き続いて訪中し、共産党指導部との会談を通じて、民主党との間に政治家のみならずビジネス・リーダーや学者をも巻き込んだ経済、軍事、政治、文化などあらゆるテーマを話し合う「包括的な対話」の枠組みを創設することを明らかにした。一同大きくうなずいて賛意を表明していたことに、野党外交の可能性を見出し意を強くした。

 つづくロバート・ジョセフ国務次官(軍備管理・拡散防止政策担当)では、メインテーマを北朝鮮の核問題に絞って臨んだ。次官からは、米国が北朝鮮による大量破壊兵器の拡散を阻止するために新たな政策イニシャティヴを展開しようとしていることが詳細に示された。これは、「防衛措置(Defensive Measures)」と呼ばれる3段階からなる拡散防止政策で、すでに今年の8月に日本政府に対する説明は終わっており、いよいよ実施に移される段階で、今後わが国も積極的な協力を迫られることになろう。オフレコでもあり、ここで詳細を明らかにできないのは残念だが、この措置が緊密な国際協力の下に実施されれば、事実上の対北朝鮮経済制裁となり、北朝鮮の大量兵器開発の資金源を断つことに直結する。したがって、その過程で朝鮮半島に相当の緊張が走ることは間違いない。果たして、日本をはじめ、中国や韓国が足並みをそろえられるか予断を許さない。

 ホワイトハウスでは、安全保障担当のハドレー大統領補佐官に代わって、クラウチ次席補佐官、マイケル・グリーン上級部長(アジア政策担当)、ヴェクター・チャ日本・朝鮮・豪州担当部長と相次いで会談。近々めでたく結婚するグリーンには、日本から担いできた珍しい結婚祝いをプレゼント。大相撲の「絵番付」というレアもので、大喜びしてくれた。グリーンとは、ブッシュ政権の世界戦略の問題点などにつき激論を交わした。昔から彼は議論好きで、前原代表も妥協せず果敢に挑み、私も含め全員参加の白熱したやりとりとなった。

ただ、国家安全保障会議を担う3人は、いまの日中関係(および日韓関係)が、米政府にとってもアジアにおける政策展開の深刻な障害になりつつあることを隠さなかった点は特筆に価しよう。京都での日米首脳会談のときにわざわざブッシュ大統領が小泉首相に対して対中観を問いただしたのは、日韓中における大統領スピーチを書いた彼の発案であったのだ。この点は、今回の訪問での最大の論点だったと痛感した。

 そして、再びキャピトル・ヒルへ。すでに零下となった冷たい空気の中、夕暮れに浮かぶ白亜の議事堂が美しさに思わず目を奪われた。下院共和党のベテラン国際派議員で日本とも関係が深いジム・リーチ下院アジア太平洋小委員長との会談だ。リーチ議員は、下院共和党の重鎮だが、独立志向が強く、イラク戦争に賛成票を投じなかった数少ない議員の一人。ただし、現時点での性急な撤退には、不安定の引き金を引くことになる可能性が高いと慎重姿勢を見せた。また、北朝鮮訪問から帰ってきたばかりということもあり、北朝鮮をめぐる6者協議の行方にも楽観的(おそらく高度な情報をつかんでいるに違いない)で、米国は軽水炉の提供にも柔軟に対応すべきとの考えで、政権とはここでも一線を画している。

 夜は、自由行動となったので、私は、在米大使館の防衛駐在官を率いる吉田海将補のご自宅でおもてなしをいただき、政務公私の兼原さんはじめ外務、防衛、制服の皆さんとの意見交換をさせてもらった。9.11同時テロからアフガン・イラク戦争にいたる日米交渉の舞台裏についてワシントンにおけるきわどいエピソードなどじつに興味深い話が聞けた(けれども、残念ながらすべてオフレコ!)。