最終日の「クライシス・ゲーム」では、きわめて現実的なシナリオに基づいて約3時間集中的に「頭の体操」を行い、知的興奮とともに危機にあたって政治判断の難しさを痛感しました。とくに、複雑な利害関係や事件が錯綜する中で、国民や国際社会に対し自国の情報や方針の明確化をどこまでするか、どういった説明をすべきか、など日米間、日本の擬似政府内での迫真のやりとりが行われました。

こういったシナリオ・ゲームは、結果として起こった現象や得られた結論が問題なのではなく、結果にいたる思考や検討のプロセスが尊いものなのですが、日本人はこういったシナリオ・エクササイズの経験が浅く、議論が時折横道にそれる傾向があったことは反省材料です。その意味で、こういうエクササイズは、平素から日米の政治レベルで何度も何度も繰り返し行われる必要があると痛感しました。

また、日本の与野党政治家のレベルでも回数を重ね、シナリオごとにどのように日本の国内世論とのエンゲージメントを進めるか大いに研究の余地があると感じました。ちなみに、米国では、ワシントンにある国防大学(米統合参謀本部と直結する政軍の研究機関)を舞台に定期的に与野党連邦議会議員を招いてシナリオ・ゲームを繰り返しているのは参考になります。

帰国前に、今回得た知的成果を整理し戦略的思考をさらに深めるため、産経新聞の古森義久さんと朝日新聞の船橋洋一さんと昼食、朝食をともにして意見交換させていただきました。お二人とも私にとっては予てから信頼できるアドヴァイザーでもあります。お二人の考え方は、「靖国問題」の扱いをめぐって鋭く対立(古森さんは、靖国は外交政策とはまったく関係ないというお立場で、船橋さんは外交における「ソフト・パワー競争」に日本は敗れつつあり、その結果としてアジアのみならずワシントンでのプレゼンスの地盤沈下は著しいとの見解)していましたが、米国における日本研究や日本に対する関心が中国(やインド)との比較において急速に萎んでいることに共通の危機感を抱いていました。

ワシントンの有力大学の日本研究(たとえば、ジョージ・ワシントン大学の「日本政治」、アメリカン大学の「日本史」など)がいずれも中国系アメリカ人の学者によって教えられている事実は衝撃的でした。私が大学院に学んだジョンズ・ホプキンス大学SAISでも、私の在学していた7-8年前には、日本研究に20-30人おり、まだ中国研究は立ち上がったばかりでしたが、今や事態は完全に逆転し、日本研究に数人、中国研究に30-40人が殺到しているそうです。ワシントンへの大学や研究機関へは世界中から留学生や研究者が集まってきていることを考えれば、我が国として早急に対策を打たねばならないポイントです。

日米のアジア戦略については、今回の討議を通じて米国の「基本構想」がほぼ掌握できたので、非常に重い課題でもあり、稿を改めて論じたいと思います。