昨日転載させていただいた批判ブログの元となった肝心の毎日新聞に掲載された拙稿のドラフトは以下の通りです。(これは、最終的に紙面化されたもののひとつ前の文章です。)

新たな「防衛計画の大綱」について

 民主党政権として初の「防衛計画の大綱」は、冷戦時代以来30年続いた「基盤的防衛力構想」を転換するなど、いくつもの新機軸を打ち出した。南西方面における防衛力の空白解消をはじめ、日本版NSC創設、PKO5原則の見直し、武器輸出3原則をめぐる規制緩和など、いずれも自民党政権時代から積み残された宿題に一気に手を付けたといえる。筆者は、前半の一年を大綱見直し担当の防衛政務官として、終盤の3カ月を党の外交安全保障調査会事務局長として、新防衛大綱の策定に深く関与する機会に恵まれたが、とくに3点に絞って、今回の新大綱策定の意義について述べたい。

 第一に、策定のプロセスである。新政権の金看板ともいえる政治主導(脱官僚依存)は、少なくとも防衛大綱策定において貫徹されたと胸を張れる。とくに、最終盤の2カ月、官房長官を中心に外相、防衛相、財務相の4大臣協議で政治家同士の真摯な議論が重ねられ、形骸化しがちな安保会議をリードしたことは特筆に値しよう。また、党内の意見集約でも、安全保障に対し現実的な考え方をもった議員が大多数を占め、積極的な提言によって政府の背中を押すことができたのは印象深かった。

 第二に、我が国をとりまく戦略環境の激変に対し、新たな安全保障戦略を示したことである。アジア太平洋地域における軍事バランスは、ここ10年、中国による著しい海空戦力の増強や海洋権益拡大の動きが活発化する一方、米国の前方展開兵力が3割も減退することにより、大きく崩れ始めた。地域の安定を支えてきた米国の影響力が相対的に低下しつつある現実を前に、「力の空白をつくらない」(基盤的防衛力構想)というこれまでの受け身の姿勢から転換し、韓国、豪州、ASEAN、インドなどを「準同盟国」と位置づけ、我が国が地域の安定にも積極的な役割を果たす意思を鮮明にしたことは意義深い。

 第三に、防衛力の役割をめぐる環境変化を的確に捉え、防衛力整備に新たな指針を示したこと。核抑止や経済的な相互依存の深化などにより大規模な軍事衝突の蓋然性は低くなったものの、南シナ海や東シナ海における領土やEEZをめぐるせめぎ合いが熾烈になっている。この平時でも有事でもない「グレーゾーン」における外交・軍事的なせめぎ合いには、有事に備え兵力の量と質を確保する従来の抑止概念では対応しきれない。そこで、平素からの警戒監視や統合実動演習などによる牽制、危機の際の即応・機動展開力に裏打ちされた「動的防衛力」という新たなコンセプトを導入したのである。

 最後に、厳しい財政事情にもかかわらず、陸上自衛隊の削減を1000人にとどめ、過去8年続いた防衛予算の減額傾向にストップをかけた意義は大きい。とくに、自助努力の表れとして、南西方面における陸海空防衛力の拡充とともに統合運用強化に踏み込んだことは、政権発足以来の懸案だった日米同盟の立て直しにも好影響を及ぼすに違いない。