日本財団と海洋政策研究財団共催の海賊対策緊急会議が都内で開催され、自民党の中谷元代議士と共に基調講演をさせていただく。会議には、海洋専門家や海運関係者300人余が詰めかけ、海賊対策への関心の高さに改めて驚かされた。

以下、講演原稿を掲載し参考に供したい。私からは、現行法の下で直ちに行うべき対策について具体的な提案をさせていただいた。会議後の夕方には、時事通信の速報で、日本人乗組員を含む24名の中国漁船がケニア沖で海賊に乗っ取られる事件が伝えられ、実効ある対策の緊急性が改めて浮き彫りにされた。

講演原稿

10月17日に衆院テロ特委でソマリア沖・アデン湾における海賊被害の増大について質問。
同委員会で審議されたのは、昨年と同じ法案。
昨年の臨時国会で、衆参合わせて90時間近く議論した。
同じ議論の繰り返しでは、あまりにお粗末。

そこで、昨年の国会審議からこの一年間を振り返って、
テロとの戦いを取り巻く国際情勢の変化について検証することにした。
(1)イラク情勢の沈静化、
(2)アフガニスタン情勢の泥沼化、
(3)米国の政権交代・・・
そこで、あっと驚く事実が浮かび上がってきた。
(4)ソマリア沖・アデン湾における海賊被害の拡大。
・・・政府は、インド洋での補給支援活動が「副次的効果」として、各国の海賊対処活動に役立っていると強弁。

日本船主協会から国土交通大臣への要望書も入手
・・・政府に対し、海賊脅威の実態と実効ある対策の必要性を切々と訴える内容。

これは、補給の目的外利用がどうの、武力行使と一体化しているかどうか、非戦闘地域がどうのなどといった呑気な議論をしている場合ではないと。

シーレーンの安全確保は、「通商国家」日本の存立に関わる死活的な国益。

国連決議もある。・・・民主党としては、やりやすい。
国連安保理決議1816(08年6月2日)
国連安保理決議1838(08年10月7日)
いずれも、日本が共同提案国。

欧州諸国がすでに立ち上がっている。・・・いつまでも「ただ乗り」できない。
EUは、ブリュッセルに海賊対策のための調整事務所を設置
EUの対応を主導しているのが、フランスとスペイン
仏、西のほか、ベルギー、ドイツ、キプロス、オランダ、リトアニア、スウェーデンが参加表明。

ドイツは、すでにP3Cをジプチの米海軍基地に派遣している。
艦艇派遣については、来月9日には閣議決定、12月上旬の連邦議会決議で、海軍艦艇1-2隻を派遣する方向。

韓国も、先月末に調査団を派遣し、政府は艦艇派遣に前向きと聞く。
マレーシア3隻、ロシア1隻の艦艇をすでにソマリア沖に派遣し、抑止を試みている。
ノルウェイ、インドも艦艇派遣を検討中。

カナダは、WFP(世界食糧計画)の輸送支援・・・ソマリア向けWFP輸送船の保護を要請した国連安保理決議1814(08年5月)に基づき、コアリションからは独立して行動。


我が国は?
現行法上できることを直ちに実行に移すべし。
その後、新規立法が必要な場合には、来年の通常国会に法案提出すべき。

「現行法でできること」を探るため、質疑の前後に2つの質問主意書を提出した。
11日までに政府答弁書が公表されている。それによれば、・・・

(1)我が国法令上の犯罪を取り締まるために無国籍船舶の乗組員(すなわち、海賊)に対して武器を使用することは国際法上禁じられておらず、海上における警察活動の一環であるから憲法9条で禁じられた武力の行使にも当たらない。

(2)海上の秩序維持については、一義的には海上保安庁が責任を持つことになるが、ソマリア沖の海賊対策として海上保安庁の巡視船を派遣することについては、日本からの距離、海賊が所持する武器など総合的に勘案し、現状では困難。

(3)我が国の法制上、海上保安庁では対処が不可能、もしくは著しく困難な場合には、「海上警備行動」の発令により海上自衛隊が対処することになる。

(4)海上警備行動に地理的な制約はない。したがって、「海上における人命もしくは財産の保護または治安の維持のため特別の必要がある場合」(自衛隊法82条)には、ソマリア沖・アデン湾における海賊事案に発令することは可能。

(5)武力行使を目的とせず、公海上において、民間船舶の安全を確保するため、海上自衛隊の艦艇がエスコートすることは、国際法上も、憲法上もなんら問題ない。

(6)さらに、民間船舶を襲撃しようとする海賊に対し、武器を使用し応戦・撃退することは、当該民間船舶の旗国の排他的管轄権を侵すものとは考えられず、国際法上なんら問題ない。

(7)同じく、そのような武器の使用は、警職法7条の範囲内で行うものであり、憲法上の問題も生じない。

したがって、我が国の防衛に支障をきたさない範囲内で、護衛艦を1-2隻ソマリア沖に派遣することは、政府の決断、すなわち防衛大臣の海上警備行動の発令により、今日にでもできる。

また、ドイツのように、P3Cを数機、ジブチの米海軍基地に派遣し、ソマリア沖・アデン湾周辺海域の警戒監視を実施し、関係各国および国際機関へ情報を提供することも直ちに行える実効的な措置の一つ。

現行法上、①日本関係船舶以外の外国船舶のエスコートができない、②海上自衛隊は司法警察権が付与されていないから取締りなど法執行ができない、③そもそも海賊行為を取り締まる国内法がない、などといった理由から、新規立法を急げとの議論もあるが、ことは緊急を要する。

まず、海賊行為の「抑止」を優先させるべき。
現行法でも、船舶の停止、航路の変更、危険な行為の制止などはできる。
・・・逮捕、拘留、物品の押収など司法警察件に関わる「法執行」については、今後の課題。

国境を越えて活動を展開する海賊は、人類共通の敵。
テロリストに対してと同様、国際社会の一致した取り組みが必要。
日本は、世界のどの国よりも「海洋における船舶航行の安全」に裨益している。
したがって、海賊対処の国際協調をリードする責任がある。
「ねじれ国会」などという内向きの理由で、我が国の死活的な国益に対する現実の脅威から目を背けることはできない。
政治家として、党派を超えて責任を果たす覚悟だ。