私自身この法案だけに取り組んでいるわけでもなく、また、これだけの批判を浴びれば、この問題を避けて昨晩のワールドカップ・サッカーの話題に転換したいなどという誘惑に駆られるのも正直なところですが、法案策定に関わった者として敢えて説明責任を果たすために、法案成立への経緯について明らかにしておきたいと思います。

今朝、民主党の外交・防衛部門会議において、松原仁衆院拉致対策特別委員会筆頭理事から、昨日の委員会における『北朝鮮人権法案』可決の経緯について報告がありました。同特別委員会では、平沢勝栄委員長から与野党合意に達した同法案が委員長提案され、共産、社民両党が反対する中で、起立採決が行われた結果、可決されたとのこと。社民党の反対理由は明確ではありませんが、共産党は、同法案が、事実上、北朝鮮の現体制を崩壊へ導く可能性をはらんでおり「内政干渉法案」とも呼ぶべきものである、というのが反対理由とのこと。本日午後の衆院本会議に上程され、可決される見通しです。

そして、明日の参院拉致問題特別委員会において、共産党の反対質疑が行われた後、採決、成立する見込みです。今朝の党部門会議でも、数名の議員から、同法案に対する多くの「批判メール」が寄せられている事実が発表されましたが、同法案第6条で「脱北者」の定義が「北朝鮮を脱出した者であって、人道的見地から保護および支援が必要であると認められるものをいう」とその認定は政府に委ねられている点を再確認し、政府の裁量(つまり、脱北者受け入れの蛇口の開閉については、あくまで政府が慎重に検討した上で決定する)についての説明が改めてなされ、松原報告を了とすることとなりました。

この間4000通に上る激しいコメントを頂戴いたしましたが、私としても改めて皆さんのご懸念を銘記していきたいと考えております。そんな中、寄せられたコメントの中で、私がもっとも共感した一文を感謝を込めて掲載しておきたいと思います。それは、2006-06-11 07:08:07に記されたkappe@錦さん(この方わりと常連さんですね)からのものです。

(引用はじめ)
「法案と、その反応から再確認されたこと」

 与野党合意法案、拝見しました。6条7条、与党案民主案それぞれの長所を生かしつつ、短所を抑制しているので、妥協点としては良いかな、と思います。それぞれの長所が、それぞれの短所を上回っている。

 もちろん、運用を誤れば、この膨大なコメントの多くが心配しているような事態にもなりかねません。ですが、そういうリスクは他の色んな法や法案(破防法、住民基本台帳、共謀罪、etc.)にもつきもの。前に進むためには、この程度のリスクは許容すべきだろうと思います。

  # 普段は左翼の方が心配性ですけど、この件に
  #関しては保守系の人の方が心配性なのが面白い
  #ですねぇ。巷間よく言われているように、主張
  #は違っても、メンタリティ的には左右の人って
  #近いのかしら

 あと、この2つのエントリに対するコメントをざっと眺めて改めて思ったこと。「やっぱり拉致問題の、ひいては北朝鮮問題の、解決には時間がかかる」なぁ、と。

 拉致問題の究極解決を早期に図るには、つまるところ北の現政権が倒れないと無理だと思います。

 ところが、実際に金正日政権が倒れたら大量難民の発生必至でしょう。なので、大量難民が流入したら困る中韓(中国には、それ以外にも困る理由がありますけど)は、(中韓の現政権が交替し北に対し今より厳しいトップに替わったとしても)北朝鮮のハードブレークダウンは阻止しようとするでしょう。国益上、そうで当然。あくまで中韓は北に対してはソフトな改革を促す路線。

 なので、問題の早期解決のため、ハードブレークダウンを起こしかねない"強い経済制裁"を行うのであれば、日本が、ハードブレークダウン時に大量発生すると思われる難民になにがしかの責任を持つと宣言する必要がある。中韓に対し「我が国も応分の負担はしますから」と言わないと、「日本は自国の利益ばかりで、こっちの都合は考えないアルかっ!?」「難民が押し寄せてくるこっちの身にもなって見ろハムニダッ!」てなものでしょう。

  #参考:ブッシュ政権による問題多きアフガン・
  #イラク侵攻ですが、政権を倒した後の社会混乱
  #にも一定責任を持とうとする米国の態度は評価
  #できます。あれであのまま放り投げたらトンデ
  #モナイ。

 ところが、日本は、ここのコメントを眺めていても、どうも「北の政権が制裁の結果仮に倒れたとしても、その後の北の社会混乱に対し責任を取る気なんてない」ように見える。その経済コスト・社会コストに、耐える覚悟がなさそう。

 まぁある意味当然ですけどね。北に強い影響力を持つ中国や、北と同一民族の韓国だってイヤがっているのですから。偉そうに書いてますけど、私もちょっと引いてしまいます、大量難民という事態には。そこまでの覚悟は、恥ずかしながらありません。

 でも、そうだとすると、北の政権に大きなダメージを与える"強い制裁"は出来ない。仮にしても中韓が北を助けちゃう。結果、制裁は出来ても"弱い制裁"だけ。で、どうしても拉致問題の解決は長引く。

 ...ただ、ねぇ。明治の人、サムライの心をまだ維持した人たちだったらどうかしら?と思うんです。目先とっても苦しくても、問題の早期、かつ究極解決を目指すために、困難に耐える覚悟があったんじゃないかしら、と。多少気にくわない相手であっても、アジアの人のために自分が犠牲になる寛容の心があったんじゃないかしら、と。真の愛国心があったのではないかしら、と。

 日本って、すっかり"サムライの国"から"商人の国"に変わってしまったんですね... ここのコメント欄を見てると、そう痛感します。
(引用終わり)

今回の件で、私自身も、日本人、日本社会および我が国の国益について、改めて深く考えさせられました。皆さんの率直な意見表明に感謝申し上げますとともに、今後とも自由闊達なご批判やご意見を賜れば幸甚です。