平成22年・庚寅の新年が明けた。
皆さまにとり、素晴らしい一年となることをお祈りします。

人生4度目の年男。
心中期するところあり、だ。
自分の専門分野で新しい地平を開拓したいもの。

思えば、前回の年男の時は米国留学の真っ最中だった。
在米5年目で、いよいよ「武者修行」も仕上げの段階に差し掛かっていた。前年に大学院を修了し、図らずも読売論壇新人賞の最優秀賞を受賞したことがきっかけとなり、当時まったく無名の素浪人が日本のメディアや日米研究者からにわかに注目され始めたころだった。ニューヨークに本部がある外交問題評議会で初の日本人研究員(ワシントンDCブランチ所属)として働き始め、「朝鮮半島和平プロジェクト」に携わっていた。(その時に、今日につながるあらゆる日米人脈を形成することができたのが何より幸運であった。)

その朝鮮半島では60年前に勃発した戦争が未だ終わっていない。北朝鮮はついに核兵器を保有するに至り、日本との関係では拉致問題が未だ解決していない。拉致問題については、担当大臣に就任した中井洽先生が精力的に動いてくださっている。超党派議連でもしっかり支えていく。そして、今年は、日米安保改正50周年の年。同時に、朝鮮戦争勃発60周年、日韓併合100周年の年にあたる。すなわち、私のライフワークである「日米韓三国連携」にとっての歴史的な節目の年である。

この大事な年を前に、自分なりに布石を打ってきたつもりだ。一つは、日米同盟の再建と強化のための準備。もう一つは、日韓戦略協議のための準備だ。前者はまだ五里霧中であるが、後者については年末に訪韓し、韓国国防部にて長官、次官と、青瓦台の外交安保首席(米国でいえば国家安全保障担当大統領補佐官に相当)らと会談する機会に恵まれた。民主主義や市場経済、環境、エネルギー資源など日韓に共通するものは多いが、半世紀以上も米国との同盟関係を堅持し共に駐留米軍を受け入れている点を看過するわけにはいかない。

日米同盟も米韓同盟も、仮想敵国に対抗する(against)同盟から共通の利益を実現するための(for)同盟へと進化しなければならない点で、共通の課題を抱えている。その進化の過程で、駐留米軍の規模や機能や兵力配置について不断の見直しが行われねばならないのだ。未だ朝鮮半島の情勢が不安定な現実を前に、在韓・在日米軍は必然的に連動する。それに伴い米軍のホスト・ネーションとして日本と韓国との間の連携・協議を緊密化させる必要がある、とこれまでずっと考えてきた。

しかし、日韓の間に横たわる不幸な歴史が、そのような必要不可欠の安全保障協議すら遠ざけてきた。敢えてタブーに挑戦する政治家は存在しなかった。そんな中で火中の栗を拾おうという役人が出て来るわけもない。しかし、いったん朝鮮半島に不測の事態が起これば、韓国軍は自動的に米軍と連合軍を形成し脅威に対処する。日米間にも防衛協力の指針(ガイドライン)に基づく協力支援活動が始動する。周辺事態安全確保法や有事法制に基づき陸海空自衛隊部隊が朝鮮半島へ殺到する米軍の後方支援活動に出動する。かりに日韓連携・協力の準備が欠落したまま、その瞬間を迎えたらどうなるか。

かりそめにも我が国の防衛・安全保障を預かる政務三役の一人として、この不確実な現状を座視するわけにはいかない。今年こそ、これまで手のつけられなかった「有事における日韓連携」の方途を模索して行きたい。(ついでに言えば、これは、永住外国人の地方参政権を認めることなどより遥かに国益にかなう喫緊の課題だ。)

同時に、朝鮮半島有事における在日米軍の役割について、改めて鳩山新政権の下で考え直すことを提案したい。じっさい、韓国訪問中に、政府関係者を含め何人もの有識者、国会議員から在日米軍基地再編、とりわけ沖縄駐留の米海兵隊の存在意義について、日本政府が十分に理解しているのかという懸念の表明があった。私自身、かねてから指摘しているように、沖縄駐留の海兵隊部隊は、日本防衛というよりもアジア太平洋地域における平和と安定のための国際公共財のごとき役割を担っている。とくに、朝鮮半島有事の際には、戦場に真っ先に飛び込んで行く部隊だ。この後詰めの先鋒部隊の存在こそが米韓連合軍に無言の安心感(逆にいえば、侵略者への無言のプレッシャー)を与えているのだ。これが「抑止力」の中身であり、近年勢いを増す中国の海洋進出に対しても睨みを利かせている。

その米海兵隊を、こちらの一方的な都合で、「やれグアムへ行け」だの「それ硫黄島へ行け」だのと無責任に論ずることには大いなる違和感を覚える。海兵隊の即応体制を維持するには、「函館よりもマニラに近く、東京よりもソウルに近く、福岡よりも台北や上海に近い」沖縄の地政学的価値は代替不可能とさえいえる。さりとて、辺野古の「美ら海」を破壊する現行案にそのまま立ち戻って来ることはもはや現実的には考えられない。

すなわち、私たちに課された今年前半における最大の宿題は、かかる制約の下で、米海兵隊の即応部隊(第31海兵遠征部隊)に兵力を供給する第4海兵連隊と第36海兵航空群(総兵力2000-3000人、ヘリ約20機)の駐屯地を、これまでのようにアジア全域に常時展開可能な態勢で確保することにある。文字通り至難の業である。しかし、(未だあまり多くを語れないが)これまでの「しがらみ」を解き放てば、正解が見出せないわけではないと確信している。

日米安保改定50周年の記念すべき年を、さらなる半世紀の日米同盟を展望し得る輝かしい年とするため、政府の総力と連立与党の英知を結集せねばならない。その中で、存分の働きをしてまいりたい。どうぞ本年もよろしくお願い申し上げます。