11月11日付で衆議院に提出された政府答弁書を一問一答形式に編集して、以下掲載します。ご参考まで。

平成二十年十一月十一日
衆議院議員長島昭久君提出「海賊対策に関する質問」に対する答弁書

【問1】先の答弁書(平成二十年十月二一日内閣衆質一七〇第一〇七号。以下「前回答弁書」という。)によれば、我が国の法令上の犯罪を取り締まるために、海上保安官が海上で海上保安庁法第二十条第一項に基づき国籍を有していない船舶の乗組員に対して武器を使用することは、国際法上問題となることはなく、また、憲法第九条が禁ずる「武力の行使」に当たらないとのことであるが、その根拠を示されたい。また、このような武器の使用を認めている海上保安庁法第二十条第一項の規定が憲法第九条に反する違憲立法でないと言える根拠を示されたい。

【回答1】御指摘のような状況において、各国が自国の法令上の犯罪を取り締まるため、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において武器を使用することは、一般に国際法上禁じられていない。
 また、御指摘の武器の使用は、我が国の法令上の犯罪を取り締まるため、海上保安庁法(昭和二十三年法律第二十八号)第二十条第一項において準用する警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第七条の範囲内で行うものであり、憲法第九条に反するものとは考えていない。

【問2】海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という)第一〇一条によると、海賊行為は、「私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為・・・」と規定され、政治目的で行われる暴力行為等を対象から除外しているようにも読める。政治目的を有して暴力行為等に及んでいるかどうかは、事前に当該行為を行う者の属性に関する情報がない限り、外形上判別困難と思われるが、海賊行為はどのように認定されるのか。

【回答2】海洋法に関する国際連合条約(平成八年条約第六号。以下「条約」という。)第百一条は、海賊行為について、「私的目的のため」に行われるものであることを規定しているが、その認定は、個別具体の事例に則して判断すべきものであり、お尋ねに対して一概にお答えすることは困難である。

【問3】政治目的を有するという一事をもって、目前の海賊への対処をためらうことがあるとすれば、海賊船舶が処罰を免れるため、意図的に政治目的を掲げることを誘発しかねないという不当な結果を招くことが懸念される。たとえ海賊行為を行う者が政治目的を有していたとしても、当該行為が国連海洋法条約第一〇一条に定める「私的目的」から除外されるものではないと考えるがどうか。

【回答3】海賊行為の認定は、行為の目的についていかなる主張がされていたとしても、国際法上、条約第百一条に照らして判断されることになると考えている。

【問4】実際の法整備に当たって重要なのは、その目的であると考える。今回検討の俎上に上ったソマリア沖・アデン湾の海賊対策は、同海域において日本籍船や日本向けの船舶、日本人が乗船する船舶への襲撃が多発していること、このような被害の発生を受けて我が国が共同提案国となった国連安保理決議一八一六号および一八三八号が採択されたことが契機となっていると理解している。このような経緯を踏まえ、法の目的には、人類共通の敵である海賊に対する国際的な取組への協力に加え、日本への資源および物資輸送の安全確保という国益の観点から、広く我が国関係船舶(便宜置籍船、日本人の乗員のいる船舶、我が国向けの物資を運ぶ船舶を含む)の航行の安全確保も規定すべきであると考えるがどうか。

【問5】日本の現行法制上、犯罪行為が外国籍船に対して行われ、加害者も被害者も外国人であるような場合には、我が国は処罰根拠を有しないこととなる。しかし、日本向けのタンカーは、諸般の理由から、便宜置籍船として、日本船籍を有していない場合も多いと聞く。海賊対策に関する法制を整備するに当たっては、このような事例も対象としていくべきと考えるがどうか。

【回答4・5】総合海洋政策本部においては、海賊に対する取締りのための法制度上の枠組みについて、条約等に則し、検討を進めているところであり、現時点でお答えすることは困難である。

【問6】国連安保理決議一八一六号や一八三八号は、ソマリア沖の海賊対策のため、例外的に、同国暫定政府の同意の下で領海内への立ち入りを認めていると理解している。実効性のある海賊対策を構築していくためには、今般の安保理決議のように、沿岸国と協調しながら海賊の制圧に取り組む必要があると考える。沿岸国の警備当局、海軍当局との協調体制を構築していくべきと考えるがどうか。

【回答6】政府としては、貿易立国である我が国にとって船舶の航行の安全の確保が不可欠であることにかんがみ、海賊問題への対応において重要な役割を果たす沿岸国との関係では、その海上取締り能力の強化と人材育成への協力を行ってきているところであり、今後とも、御指摘の決議が全会一致で採択されたことなどを踏まえ、沿岸国に対する協力を含め、海賊対策に積極的に取り組んでいく必要があるものと認識している。

【問7】日本の現行法制上、一般に海賊行為のうち我が国の国内法において犯罪とされるものについては、海上保安庁による取締りが可能と理解しているが、海上保安庁が実際にソマリア沖でロケットランチャーなどの銃器で武装した海賊の対策に従事することを想定すると、その装備、能力といった点で十分な態勢になっていないと理解している。また、現在、ソマリア沖では、各国の海軍が活動している実態を考えると、海上警察機関たる海上保安庁が参加することは困難と考えるがどうか。
一方で海上自衛隊がその任に当たる場合は、自衛隊法第八二条による海上警備行動の発令によることが考えられるが、海上自衛隊の任務実態からして海上警備行動を常時発令し続けることは困難であると理解している。このような不備をなくすため、自衛隊法に新たな活動類型を創設することを含め、自衛隊による海賊対策の在り方全般について幅広く検討すべきと考えるがどうか。

【問9】仮に、海上自衛隊の護衛艦が対象船舶のエスコートを行うこととなれば、その抑止効果は高いと考える。一方で、万が一、海賊間で、例えば日本の護衛艦は撃たれるまで撃たないなど、武器使用について抑制的であるという情報が共有されるようになれば、抑止効果が半減することになりかねない。事態の性質に応じた武器の使用を認めるべきと考えるがどうか。

【問11】仮に、海上自衛隊の護衛艦が海賊対策に当たるとして、海上自衛隊の自衛官には、司法警察職員としての職務を行う権限は与えられていないことから、我が国として、海賊の取締りという司法警察権の行使を法律上可能とする原則を確立した上で、海上保安官を護衛艦に乗船させこれに司法警察権限を行使させることも想定されるが、このことを阻む具体的な法的制約はあるのか。
 ハイジャック防止条約のように、犯人又は容疑者が刑事手続を免れることを防止するため、他国への引渡しを含めた枠組みを定めているものもあるが、このような規定も参考になるのではないかと思料するがどうか。

【回答7・9・11】ソマリア沖の海賊対策として、海上保安庁の巡視船を派遣することは、日本からの距離、海賊が所持する武器、有志連合軍の軍艦等が対応していること等を総合的に勘案すると、現状においては、困難である。
 また、政府としては、総合海洋政策本部の下、関係府省が、自衛隊の活用を含めた海賊対策の在り方について、法制面の整備を含め所要の検討を進めているところである。

【問8】航行の安全を確保するために軍艦が民間船舶をエスコートしたり海賊に対し武器を使用するに際し、当該民間船舶の旗国の同意を得ないことは、国際法上問題となり得るか。

【回答8】一般に、軍艦が、公海上において、民間船舶の安全を確保するために併走したり、民間船舶を襲撃しようとする海賊に対して、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用したりすることは、当該民間船舶の旗国の排他的管轄権を侵すものとは考えられず、国際法上、問題はないと考えられる。

【問10】海賊行為の取締りに当たって想定される司法警察権の行使とはいかなるものか。また、日本を除くG8各国並びに韓国、スペイン、デンマーク及びオランダの中で、公海上における海賊対処に当たり軍艦に司法警察権の行使権限を付与している国はあるか、政府において承知し得る範囲内で示されたい。

【回答10】公海上で海賊行為が行われた場合であって、日本国民に対する殺人、傷害等我が国の刑罰法令が適用される犯罪が犯されたときに想定される我が国の司法警察権の行使としては、例えば、犯人の逮捕、関連する物件の押収等が挙げられる。
 また、お尋ねの国において司法警察権が付与されている例については、現時点では、政府として承知していない。