第3弾は、自衛隊法において「公共の秩序維持」の一環とされる海上警備行動の保護対象が日本人の生命・財産に限定されるのか否かについて、つまり、外国人の生命・財産の保護を排除するのか、というポイントを明らかにするための質問に重点を置いた。以下、ご参考までに問一答形式に編集して掲載させていただく。

平成二十年十二月二十四日
衆議院議員長島昭久君提出「海賊対策と公共の秩序維持に関する質問」に対する答弁書

【問1】ソマリア沖・アデン湾における海賊問題は日本人の生命・財産にかかわる火急の課題であり、一刻も早く実効的な海賊対策をとることが求められている。国家の固有の責務である邦人保護の観点から、この海賊問題の重要性・深刻性に関し、政府の認識を改めて問う。

【回答1】ソマリア沖海域(公海を含む。以下同じ。)は、日本船舶が約四日に一隻の頻度で通航するなど、我が国にとって欧州や中東から東アジアを結ぶ極めて重要な海上交通路に当たる。世界全体では海賊事案発生数が減少傾向にある中、この海域において、本年は既に昨年一年間の二倍を超える事案が発生し、最近でも事案が多発・急増していることは、大変懸念すべき事態であり、船舶の航行の安全の確保、海外における日本人の生命及び身体の保護等のための対策を可能なものから早急に実行していく必要がある事態であると認識している。

【問2】本年に入り採択された海賊対策に関する三件の国連安保理決議には、公海を含むソマリア沖における海賊行為等の抑止のための軍艦の役割に関し、国連の如何なる意思が示されていると解しているか。

【回答2】国際連合安全保障理事会(以下「安保理」という。)決議第千八百十六号、第千八百三十八号及び第千八百四十六号は、具体的な規定振りに一定の差異はあるものの、海賊行為(海洋法に関する国際連合条約(平成八年条約第六号)第百一条に規定する海賊行為をいう。以下同じ。)等に対するソマリア沖海域で活動している軍艦等による警戒、当該海域への軍艦等の派遣等を要請するなど、当該海域における海賊行為等を抑止等する上で軍艦等が果たす役割を重視する安保理の意思が明確に示されているものと考えている。

【問3】NATOおよびEUは、ソマリア沖・アデン湾の海賊対策として如何なる取組を行っているか。また、現時点でソマリア沖・アデン湾の海賊対策に軍艦・軍用機を派遣しているアジアの国名を明らかにされたい。

【回答3】北大西洋条約機構は、平成二十年十月下旬から、ソマリア向け人道支援物資輸送のため国際連合世界食糧計画が契約した船舶(以下「WFP契約船舶」という。)への併走及び海賊行為抑止のためのソマリア沖海域の哨戒を実施してきたが、同年十二月十二日にこの活動が終了した旨発表したと承知している。欧州連合は、同月八日、WFP契約船舶への併走及びソマリア沖海域における監視等を実施することを決定したと承知している。
また、アジアの国では、現時点で、インド及びマレーシアがソマリア沖海域に艦船を派遣していると承知している。

【問4】ソマリア沖・アデン湾において、軍艦による船舶のエスコートが海賊行為等の抑止において発揮している効果に関し、政府の認識如何。政府が把握している実例に基づき説明されたい。

【回答4】一例を挙げれば、WFP契約船舶には、昨年十一月以降現在に至るまで、フランス、デンマーク、オランダ、カナダ等の軍艦が併走しており、その間、一についてで述べたとおり現在でもソマリア沖海域において海賊事案が多発・急増しているものの、WFP契約船舶に対する海賊等による襲撃事件は発生していないと承知している。かつてWFP契約船舶が海賊の乗っ取りを受けた事案があったとも承知しており、この海域を通航する船舶の航行の安全確保において、軍艦が併走することが果たしている抑止の意義は大きいものと認識している。

【問5】本年に入り採択された海賊対策に関する三件の安保理決議に呼応して、ソマリア沖海域の沿岸国を除き、コーストガードの艦船を派遣している国はあるか。

【回答5】御指摘のような国があるとは承知していない。

【問6】海賊行為は、行為の目的についていかなる主張がなされていたとしても、国連海洋法上条約第百一条に照らして認定されることになる旨の政府答弁(内閣衆質一七〇第一六八号)を踏まえれば、海賊行為の認定は、行為を行った者が属する組織の属性や、その組織が掲げる政治的な主義主張などがいかなるものであるかに拘わらず、あくまでも、当該行為に着目し、同条に照らして行われることになると解することができると考えるが、政府の解釈如何。

【回答6】海賊行為の認定は、国際法上、個別具体の行為について、その目的を含め、海洋法に関する国際連合条約第百一条に照らして、判断されることになると考えている。

【問7】海上保安庁法第二条第一項の「海難救助」、同第五条第二号の「海難の際の人命、積荷及び船舶の救助」の一環として、外国船舶であって船員がすべて外国人であるものの公海上における海難の救助のため巡視船等を派遣した事例があると承知するが、この事実にかんがみても、同第一条第一号の「海上において、人命及び財産を保護」にいう「人命及び財産」は、特に日本人の人命および財産に限ったものではないと考えられるが、如何か。

【問9】周囲の状況等から日本国民の人命および財産が危険に晒されているわけではないと認められる海賊行為について、海上保安官が人命・財産の保護のため行政警察権の行使としてこれを鎮圧することが排除されていないとすれば、その法律上の根拠(任務、所掌事務、権限等)を示されたい。

【回答7および9】
海上保安庁は、海上保安庁法(昭和二十三年法律第二十八号)第二条第一項の規定に基づき、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海難救助その他海上の安全の確保に関する事務等を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務としている。これらの事務等は、日本国民の人命及び財産の保護に寄与することを目的としており、この目的の達成に資する範囲内において、同法第一条第一項の「人命及び財産」は日本国民以外の者のものも含まれると解され、これらの者の人命及び財産に対する海賊行為に対して所要の措置をとることも同庁の事務に含まれると解される。

【問8】海上保安庁法第十八条第一項において「危険な事態」の例として規定されている「海難」の定義を示されたい。自然現象に起因するものに限られるのか。たとえば、海賊のような犯罪者による襲撃との遭遇も含むと解されるか。

【回答8】海上保安庁法第十八条第一項に規定する「海難」とは、一般に、海上における船舶又は航空機の遭難その他海上において人命若しくは財産に被害が生じ、又は生ずるおそれのある事態をいい、その原因が自然現象によるものに限られず、御指摘の「遭遇」も海難に含まれ得る。

【問10】公海上を航行中の日本籍船に小型ボート等により不正に侵入する行為が、刑法第百三十条の住居侵入等の罰条に該当することはあるか。

【回答10】お尋ねの点については、個々の事案ごとに判断されるべきであり、一概に述べることは困難であるが、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百三十条は、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する」と規定しており、この規定は、同法第一条第二項の規定により、同項の「日本国外にある日本船舶」内において罪を犯した者についても適用される。

【問11】海上保安庁の巡視船が護衛する公海上の日本籍船に小型ボート等により不正に侵入する行為について、行政警察権の行使として海上保安庁法第十八条第一項第六号の「制止」を行うことがあるとすれば、その具体的態様は如何なるものか。また、当該「制止」への抵抗抑止のため武器を使用することは可能か。その際、抵抗を防ぐために他に手段がないとして人に危害を与えることは認められるか。

【回答11】海上保安官は、海上における犯罪が正に行われようとするのを認めた場合又は海上において危険な事態がある場合であって、人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害が及ぶおそれがあり、かつ、急を要するときは、海上保安庁法第十八条第一項各号に掲げる措置を講じることができるが、御指摘の行為が具体的にどのような行為を指すのか必ずしも明らかでないため、当該措置の態様を具体的にお答えすることは困難である。
また、海上保安官は、海上保安庁法第二十条第一項において準用する警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第七条の規定により、公務執行に対する抵抗の抑止等のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができることとされており、正当防衛若しくは緊急避難に該当する場合又は一定の凶悪犯罪を現に犯した者等が海上保安官の職務執行に対して抵抗するとき、これを防ぎ、若しくは逮捕するために他に手段がないと海上保安官において信ずるに足りる相当な理由のある等の場合を除いては、人に危害を与えてはならないとされている。実際に武器を使用するに当たっては、これらの規定に基づき、個々の事案に応じて対処することとなる。

【問12】平成十三年に勃発した九州南西海域での不審船事案において、海上保安庁の巡視船は、「威嚇射撃」、「威嚇のための船体射撃」および「正当防衛射撃」を行ったと認識しているが、それぞれの行為について概要および法的根拠を示されたい。

【回答12】お尋ねの不審船事案においては、漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)第百四十一条第二号の検査忌避罪を犯した犯人の逃走を防止する等のため、海上保安庁の巡視船が上空及び海面に向けて威嚇射撃を行い、並びに威嚇のための船体射撃を行ったが、その法的根拠は、海上保安庁法第二十条第一項において準用する警察官職務執行法第七条本文である。
また、当該不審船の突然の攻撃に対処するため、正当防衛のための射撃を行ったが、その法的根拠は、海上保安庁法第二十条第一項において準用する警察官職務執行法第七条である。

【問13】自衛隊法第八十四条の三の「在外邦人等の輸送」が同第三条第一項の「公共秩序の維持」にかかる任務とされる理由如何。「外務大臣から当該緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者」を同乗させることができるとされている趣旨と併せて示されたい。

【回答13】自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八十四条の三に規定する在外邦人等の輸送は、外国における緊急事態に際して外務大臣から依頼があった場合に、生命又は身体の保護を要する邦人等の輸送を行うものであり、同法第三条第一項の国民の生命又は財産の保護を含めた公共の秩序の維持に係る任務と位置付けられている。
また、在外邦人等の輸送において、外国人を同乗させることができることとしているのは、邦人を輸送する航空機等に余席がある場合に、人道上の見地から当該邦人と同様の状況に置かれている外国人の輸送を行うとの趣旨である。

【問14】自衛隊法第七十八条の「治安出動」は、海上における緊急事態について発令されることもあり得るのか。あり得るとすれば、これと同第八十二条の「海上における警備行動」との制度上の相違について、それぞれの場合の武器使用権限の相違等を含め、説明されたい。

【回答14】自衛隊法第七十八条第一項の規定による命令による治安出動は、内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができることとされており、当該緊急事態は海上における場合が排除されるものではない。
これに対して、自衛隊法第八十二条の規定による海上における警備行動は、防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができることとされている。
また、治安出動を命ぜられた自衛隊の自衛官は、自衛隊法第八十九条第一項において準用する警察官職務執行法第七条の規定により武器を使用することができることに加え、自衛隊法第九十条第一項の規定により同項各号に掲げる場合の一に該当すると認める相当の理由があるときは、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができるほか、当該自衛官のうち海上自衛官にあっては、同法第九十一条第二項において準用する海上保安庁法第二十条第二項の規定により武器を使用することができる。
これに対して、海上における警備行動を命ぜられた自衛隊の自衛官は、自衛隊法第九十三条第一項において準用する警察官職務執行法第七条の規定により武器を使用することができるほか、当該自衛官のうち海上自衛官にあっては、自衛隊法第九十三条第三項において準用する海上保安庁法第二十条第二項の規定により武器を使用することができる。

【問15】自衛隊法第八十二条の「海上における警備行動」が、「特別の必要がある場合」に限り発動できる趣旨を説明されたい。

【回答15】海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持については、第一義的には海上保安庁の責務とされていることから、海上保安庁のみでは対応することができないと認められる場合に、特別の必要があるとして自衛隊法第八十二条の規定に基づき、海上における警備行動として自衛隊の部隊が海上において必要な行動をとることができるものと解される。

【問16】「海上における警備行動」を命ぜられた自衛官が、自衛隊法第九十三条第一項において準用する警察官職務執行法第七条の範囲内で武器を使用することは、一般に、国際法上問題となったり、憲法第九条が禁ずる「武力の行使」に当たるといったことはないと考えてよいか。

【回答16】海賊行為への対処のため自衛隊法第八十二条の規定により海上における警備行動を命ぜられた自衛隊の自衛官が、公海上において、海賊行為であって我が国の刑罰法令が適用される犯罪に当たる行為を行った者に対し、同法第九十三条第一項において準用する警察官職務執行法第七条の範囲内で武器を使用することは、国際法上問題となることはない。また、このような武器の使用は、憲法第九条が禁ずる「武力の行使」に当たらない。