わが畏友・雪斎どの(http://sessai.cocolog-nifty.com/)の指摘どおり、日本外交の主戦場は国連の場に移っています。そこでの日本の動きに世界が目を見張っているので、その辺に触れてみたいと思います。

我が国は、「ミサイル乱射」が行われたその日のうちに、「制裁」を含む国連憲章第7章にもとづく決議案(強制行動の根拠となる)を安保理メンバー国に提示しました。それは、加盟国に、北朝鮮のミサイルや大量破壊兵器計画に寄与するような資金、物資、技術の移転を禁止するなどの制裁内容を盛り込んだ厳しい内容でした。その後、中国やロシアの慎重姿勢に直面するや、直ちにこれに対処し翌日には一部を修正。「資金、物資、技術などの移転の禁止」を求めるとの部分から「資金」を削除したのです。

これで、当初から支持していた米国、英国に加えて、議長国であるフランスも「制裁決議案」の共同提案国に名乗りを上げました。明日の採決を前に決して予断を許す状況ではないですが、これまでの経緯をフェアに観察していくと、中国が提案した一段格下の拘束力のない「議長声明」案を蹴っ飛ばして、安保理の理事国(非常任)として他の理事国を説得し、今日までに制裁決議案に対する態度を13対2(中国は反対、ロシアは微妙)にまで持ってきたのは、まぎれもなく麻生外相の外交的リーダーシップによるところが大きいと思います。

昨年の安保理常任理事国入りに失敗した同じ国とは思えない鮮やかな手腕といえるますね。その意味では、明日この国連制裁決議が採択されれば、今回の北朝鮮ミサイル乱射によってさらに株を上げたかに見える安倍官房長官に対して、(すでに玄人筋の間では絶大な評価を得ている)麻生外相の総裁選における存在感がジワリと出てくるのでは、などと他党の余計なことまで考えてしまいます。

それぐらい、この間の麻生外相が見せた疾風怒濤の動きは見事でありました。しかも、ロシアは、16日から始まるサンクトペテルブルグでのG8サミットの議長国としての重責を担わねばならず(この重責の背後に、米国や欧州各国との無数の取引が複雑に絡み合っていることは想像に難くありません)、ここで中国に引き摺られて無責任な態度はとりにくいので、ギリギリ棄権に回る可能性が高いといわれています。

そうなると、残るは中国のみ。中国としては、内容がどんなものであれ、日本の提出した決議案を無傷で通してしまうことは外交的な敗北を意味しますし、翻って、拒否権を発動して「ならず者国家」のお先棒を担ぎ唯一の「抵抗勢力」となることも避けたいところでしょう。

ですから、今日もTVに出まくった麻生外相は、「中国が一国で決議案を潰すことは中国にとって得策でないのではないか」と盛んに牽制していたのではないかと推察します。つまり、麻生外相は、中国外交に対し「王手飛車取り」を迫ったことになります。そもそも、国連に加盟して以来、我が国の提出した決議案が採決にまで持ち込んだ例があったでしょうか。国連を舞台に中国外交への王手などというのも寡聞にして知りません。

そういう意味で、このたびの北の暴発は、外交的にも、安全保障面でも、我が国をもう一段成長させるために天から与えられた試練かもしれません。繰り返しますが、その取り組みには、やはり与党も野党もないと考えます。オール・ジャパンでこの危機を乗り越えなければならないのです。