今年は、日米安保条約改定から50年目にあたる。

1月19日には、改定安保条約調印50周年を日米共同文書で祝した。
(ぜひ、その文書を読んでいただきたい。新政権の下での同盟関係に懸念を抱く方々にも十分納得いただける内容に仕上がっていると思う。そして、何よりも大きな意義は、新政権発足から5カ月の紆余曲折を経て、旧政権の与党議員に加え、社民党を含む新政権の与党議員、つまり、9割を超える国会議員のコンセンサスとして、この文書の内容に到達したということであろう。http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/anpo50/kh_1001.html)

最近、私は多くの講演の機会を与えていただいているが、新政権が日米同盟をどのように発展させようとしているのかをなるべく平易に説明することを心掛けている。以下、最近の講演の際に使っている原稿要旨を披露させていただき皆さんのご参考に供したい。


『我が国の安全保障と日米同盟の深化』

政権交代の結果、普天間基地の移設をはじめとする米軍再編にかかるロードマップの実施について、少し時間をかけて検証することになった。

政権交代とは、国際関係論で言うところの「覇権交代」に匹敵するsystemic change。・・・したがって、すべての政策は見直しの対象となりうる。それには、多少の時間がかかる。

米シンクタンクCSISハムレ所長の言葉 “I’m not afraid of fundamental review of the alliance.”(私は、日米同盟の根本的な再検証を恐れるものではない。)・・・私もまったく同感だ。

そして、鳩山政権は、その普天間問題の決着を5月と定めた。
このことは、あと5カ月、普天間の代替施設探しのみに費やすことを意味しない。
・・・このプロセスを通して、日米同盟に対する国民的な支持基盤を固め直すことになる。
・・・この結果、旧政権与党+新政権与党で国会議員の約9割が共通認識に立つことになる。
・・・国会議員は国民の代表であるから、国民の圧倒的多数による支持が確立することを意味する。

そういった強固な国民の支持基盤の上に、同盟深化のための共同作業を行う。

それでは、同盟深化はなぜ必要か?
・・・それは、同盟を安定化させ、「30年50年通用するもの」に仕上げていくこと。
日米同盟は、中国の台頭や北朝鮮の脅威の増大など、激変する国際情勢を安定化させるための基礎的インフラ。地域の平和と安定のための国際公共財。
・・・これが動揺すれば、日米同盟を「所与」のものとして組み立てられてきた各国の外交安保政策の大前提が崩れることになる。

では、同盟を安定化させるためには何が必要か?
・・・そのことを理解するには、日米同盟の基本構造を理解しなければならない。

日米同盟をめぐる問題の核心は、(成立時から今日に至るまで一貫して・・・)
日米同盟の基本構造をどのように考えるか?

基本構造:「有事のリスクはアメリカ、平時のコストは日本」

日米安保条約5条、6条:相互防衛条約になっていないユニークな同盟
・・・NATO「西欧・北米」、ANZUS、米韓、米比、米豪安保条約「太平洋地域」
・・・原因:敗戦のトラウマと憲法上の制約

「物(基地)と人(軍隊)との協力」(西村熊雄外務省条約局長@旧安保条約締結)
「非対称的・双務関係」・・・この「非対称性」こそが、同盟における最大の不安定要因。
・・・日米同盟の進化(evolution)は、この「非対称性」をいかに克服するか、をめぐって日米双方の努力が積み重ねられてきた成果。

戦後長らく、日米同盟は、米側の担うリスク分担が増加するにつれ、日本側にコスト分担を求める、というお決まりのパターンで進化してきた。
・・・したがって、「コスト分担を減らす」ことを求めるならば、「リスク分担を増やして」いかなければ、同盟構造を安定的に維持することはできない。
・・・ところが、「コスト減らせ!」という人たちは、「リスク分担を増やす」、あるいは「自助努力」についてほとんど語らない。

「リスク分担」とは、2つの側面から成る。
1. 自国の安全保障という側面からは、「自分の国は自分で守る」という主権国家として当たり前の自助努力。
2. 同盟強化という側面からは、自国の防衛を超えた国際社会の平和と安定のためにどこまで協力の範囲を拡大できるか、という問題。


先月、岡田外相が訪米して、「同盟深化のための日米協議」を再開した。

その協議の核心は、「米国による拡大抑止の信頼性をいかに確保するか。」

「拡大抑止」は、「核の傘」と訳されることが多い。
しかし、拡大抑止は、核兵器による抑止力だけを意味しない。

米国の戦略文書によれば、拡大抑止は、①核戦力、②通常戦力、③ミサイル防衛の総合的な組み合わせによって成り立つと明記してある。
・・・その拡大抑止に対する米側のコミットメントを担保する最大の要素が、米軍の前方プレゼンス。

したがって、同盟深化に向けた日米協議の主要議題は、つぎの3つ。
(1)拡大抑止の3要素の再確認
米国による核抑止力【第1要素】の信頼性・・・非核三原則と核密約解明との関係を整理する必要
ミサイル防衛【第3要素】協力の促進
(2)拡大抑止の【第2要素】の中核である米軍のプレゼンスの意義の再確認
米軍プレゼンスにおける在日米軍の位置付け、とくに米海兵隊の沖縄駐留の意義についての再確認
そのために、今後15-20年の地域の戦略情勢の変化をめぐる認識の共有(2005年の「日米共通の戦略目標」をアップデートする必要ある)
(3)日米安全保障協力における日本の自助努力の在り方再検討(水平的:国際平和活動、垂直的:周辺有事への対処能力強化)・・・新たな防衛計画大綱へ反映

その意味で、今月1日に発表された米国防省のQDR(4年ごとの国防政策見直し)が、緊急に対処すべき4つの関心領域を明示していることは注目に値する。・・・すなわち、①イラク、アフガニスタンにおける非正規選戦争(旧来型の国家間の正規戦争とは異質のもの)に決着をつける、②テロや大量破壊兵器の拡散などハイブリッドな脅威に対処する、③米軍のパワープロジェクション能力を制約するアンチ・アクセス(接近拒否)能力を無力化する、④宇宙、空、海、サイバー空間といったグローバル・コモンズ(地球規模の共有空間)への侵害の排除する。

この中で、日米同盟協力においてとくに重要なのは、③と④である。とりわけ、中国による昨今の著しい海洋進出は、明らかに西太平洋地域(つまり、我が国周辺の東アジア)における接近拒否エリアを拡大しようとしている。中国のミサイル、戦闘機、洋上艦艇、潜水艦などによる接近拒否能力は、日本列島から琉球・先島諸島を経て台湾にいたる第一列島線からグアム・テニアンを結ぶ西太平洋の第二列島線をうかがう勢いだ。また、2007年に実施された衛星撃墜や頻繁なサイバー攻撃等が示すグローバル・コモンズへの脅威も看過できない。

今年策定される、我が国の「防衛計画の大綱」は、米国防省のQDRと連動しつつ、このような領域における我が国独自の防衛努力とともに、日米安保協力の在り方を模索するものとなろう。