昨日、地元のある会合で、いつもちょっと左がかった意見を吹っかけてくる方が珍しくニコニコ顔で寄って来て、「共謀罪は、与党の丸呑み拒否で正解だよね!」と。変なこと言うなあ、と思って曖昧な返事でお茶を濁し、とっさにその場を収め、帰宅してみると、な、何と、「共謀罪、今国会成立断念」という夕刊の見出しが。

一昨日に、与党が民主党修正案を与党が全面的に容認すると伝えてきたので、そのまま昨日の法務委員会で修正案の採決がすんなり行われるものだと思っていましたから、この見出しには仰天しました。

私は、昨日は国会には行かず、立川市議選を目前に控え地元での挨拶回りといくつかの会合をこなしていたため、国会の情勢がつかめませんでした。国対委員の同僚の何人かに電話をして詳しい事情を聞いてみましたが、どうも要領を得ません。「夕方に、与党側が我が党議員に通告もなく、一方的に共謀罪を含む条約刑法の審議に入ったから怪しからん」「渡部(民主)国対委員長に丸呑みを伝えてきた当の細田(自民)国対委員長が、「一旦は丸呑みした上で、後で修正すればいい」などとうそぶいている」「麻生外相が記者会見で民主党案のままでは国際条約の批准はできないと言明した」・・・。

したがって、与党側は、国対と政府で二枚舌を使っている可能性があり、本気で民主党案の成立を図り、それを元に条約批准を進めていくという真摯な姿勢が見られない。ゆえに、こういう状況下で審議を進めることはできないとの結論に至った、というのであります。

そんなやり取りをしながら民主党HPを開いて、鳩山幹事長、平岡法務委員会筆頭理事、渡部国対委員長、平野国対委員長代理、荒井国対委員長代理などのコメントを読んでみると、概ね上述のような顛末であることを確認。その間、ブログには、あらら、やっぱり批判コメントの嵐・・・。思わずため息が出ましたが、その晩は疲労困憊で思考回路も大渋滞していたため、エントリーは諦めてあえなく就寝。

しかし、今朝から一日このもやもやが晴れませんでした。午後に開いた地元のタウンミーティングでも、その後、立川駅頭で行った「ジャワ島中部地震被害者救援のための募金活動」の場でも、何人かの方から民主党の対応の「わかりにくさ」についてお叱りを受けたり、意見を求められたり・・・。したがって、これまでエントリーの時間が取れなかったとはいえ、これ以上、この問題で沈黙し続けることはできません。

私自身も、率直に言って、共謀罪をめぐる我が党の対応は、まったく「理解に苦しむもの」だと思います。

これまで数週間の与野党協議や法務委員会を通じて頑なに民主党案を拒否し続けてきた与党側が土壇場になって「豹変」した真意は、私もわかりません。ですから、党執行部の皆さんが、それを訝しく感じるのも理解できます。しかし、です。

民主党は既に、国際的組織犯罪防止条約には賛成しています。条約の趣旨に沿って国内法を整備すること、すなわち、共謀罪を新設することには依存はありません。なぜなら、911テロのような卑劣な国際テロを根絶するためには、国際的な協力が不可欠であると認識しているからです。同条約を締結している120カ国と同様、我が党も組織犯罪(の共謀)を取り締まる刑法の改正には積極的に取り組んできました。

ですから、共謀罪反対の院内集会をやるたびに演壇には共産党や社民党の議員が幅を利かせ、左翼系団体と思しき人々が押し寄せるといった光景に強烈な違和感を覚えてきました。そこで、人権問題には敏感な櫻井よしこさんに、保守系のお立場から正論のメッセージを寄せていただいたり、法務委員会での民主党推薦の公述人をお願いしたりして、できる限り「中和」するよう私なりに努力してきたのです。

そういう中で、民主党は、共産・社民とはあくまで一線を画し、共謀罪の創設は必要だとの前提に立った上で、処罰対象を過度に拡大しないよう慎重を要するとの立場から、(1)国際的な犯罪の共謀だけに対象を限定し、(2)条約に規定された「重大な犯罪」を狭めて「長期5年を超える犯罪」に限定し、与党案が処罰対象とする600超の犯罪類型を300に絞り込むべきとの修正案を提示してきたのです。

これに対し、政府与党は、民主党修正案は条約に抵触するとの理由で拒否してきました。しかし、我が党は、国会の判断としての立法措置がかりに文言上条約に抵触することになれば、政府が留保などの措置をとれば、外交上なんら問題はない主張してきました。(じつは、この主張には、まだ確信が持てません。そこで、私の所属する党の外務・防衛部門会議で、改めて外務省に条約の解釈について質すことにしていたのです。ついでに言えば、その意味から、麻生外相が外務大臣の立場で条約の趣旨を貫徹すべく民主党案を批判してきたことは、その職責の上から十分に理解できるものです。)

そして、一昨日、これまでの反対を180度転換して、与党が「容認」に転じたものですから、私たちもビックリ仰天したわけです。曲りなりにも、与党の国対責任者が、条約解釈上疑義のあることも承知の上で、民主党修正案を「丸呑み」したのですから、これを拒否する理由は、私の浅はかな頭では見つけることができないことを告白せざるを得ません。

むしろ、一昨日の午後の記者会見で、(与党が「丸呑みするかもしれない」といった情報が錯綜する中でコメントを求められた)菅代表代行が述べた「(これまで民主党修正案を批判してきた)政府の対応を見極めなければならない」「与党の国対に質すだけでなく、政府事態に対して質す中で対応を決めて行きたい」との姿勢の方がはるかにわかり易いと思います。つまり、修正に応ずるとした与党とともに、民主党修正案の是非を政府に質す委員会質疑を行ったうえで、政府側の対応を見極めて、採決に入る(かどうかの態度決定を行う)というのが正道ではなかったかと思うのです。

それにしても、我が党執行部の深謀遠慮が奈辺にあるのかは謎ですが、与党側もどうしてあっさりと成立断念してしまったのかも謎です。以前から感じていたことですが、国対の論理や文化にはまだ不可解なことが多い。確かに、権謀術数の渦巻く政界では、駆け引きはつきものでしょうが、多くの国民に理解してもらえないようであれば、それがどんなに深謀遠慮に基づくものであっても、決して上策とは思えないのです。