衆議院本会議質問 『国家安全保障戦略、防衛計画大綱、中期防』
平成26年3月18日 民主党衆議院議員 長島昭久
平成26年3月18日 民主党衆議院議員 長島昭久
民主党の長島昭久です。ただ今議題となりました「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」ならびに「中期防衛力整備計画」について、安倍総理大臣はじめ担当大臣に質問いたします。
我が国を取り巻く戦略環境は、昨今急速に悪化しています。
北朝鮮では、最高指導者の親族が処刑されるなど、権力内部の不安定な状況がますます深刻化しています。
その北朝鮮は、累次にわたる核実験やミサイル発射実験などを通じて、すでに弾道ミサイルに搭載可能な<核の小型化>に成功している可能性も指摘されており、予断を許しません。
また、中国は、先の全人代において国防予算の伸び率を12.2%と公表。軍事費は、過去25年で34倍にまで増大、公表ベースでも我が国・防衛費の3倍近くの規模に膨れ上がっています。
●海洋活動も拡大を続け、いまや尖閣諸島や沖縄・南西諸島が連なる「第一列島線」をはるかに超えて、グアムを含む「第二列島線」にいたる広大な海域を、ほぼ恒常的に中国海軍の艦隊が縦横に動きまわる状況となっていす。
米軍の接近を拒否する、いわゆる<A2AD能力>の近代化も目覚ましく、弾道ミサイルや巡航ミサイルの射程距離や命中精度の向上は加速化し、第4世代の戦闘機や潜水艦、洋上艦艇の増強にも著しいものがあり、アジア太平洋地域における<抑止力の要>である米軍のパワー・プロジェクションに支障をきたしかねない情勢です。
また、ソ連邦崩壊直後には1/4にまで経済規模が縮小したロシアも、昨今急速に国力を回復し、軍の近代化や軍事活動の拡大が顕著となり、2008年のグルジア紛争に続き、今度はウクライナをめぐり「軍事力による一方的な現状変更」を試みる姿勢を鮮明にしています。
このように、我が国をとりまく戦略情勢がかつてないほどに不安定で不透明な状況に陥る中、我が国の<安全保障政策の抜本改革>は喫緊の課題です。
その意味で、昨年末、総理官邸にNSCが創設され、我が国初の「国家安全保障戦略」が公表され、「防衛計画の大綱」の見直しとともに、新たな「中期防衛力整備計画」が策定されたことは、時宜にかなったものと評価できます。
ただし、この「安保戦略」にも、新しい「防衛大綱」や「中期防」にも、看過できない<深刻な問題>が内在しています。
まず、新たな「防衛大綱」について伺います。
新「大綱」で採用された基本コンセプトである<統合機動防衛力>ですが、これは、民主党政権で策定された前大綱において、「基盤的防衛力構想」から転換を図る際に掲げた<動的防衛力>のコンセプトを継承し、さらに発展させたものであると評価します。●すなわち、冷戦期以来続いていた「北方重視、基盤的防衛力整備」の考え方から、南西方面へ戦略重心をシフトさせ、想定される事態に適時適切に対処し得る≪所要防衛力≫の整備という考え方に転換したものです。
民主党政権時、この戦略コンセプトの実現を担保する予算や兵力構成上の裏付けは、必ずしも十分ではありませんでした。●厳しい財政状況とは言え、当時、政務三役の一人として忸怩たる思いをした私としては、このたび、平成26年度防衛予算で「前年度比2.8%の増額」が実現されると知った際には、安堵したものです。
しかし、その内実を知って落胆を禁じ得ませんでした。<公務員給与復活分>を除けば、実質的にはたった0.8%の増額に止まるからです。これでは「羊頭狗肉」と言わねばなりません。●しかも、財務省が要求するような<調達合理化計画>が達成できなければ、「中期防」は文字通り絵に描いた餅に過ぎません。
ますます厳しくなる安全保障環境の中で、<今そこに在る危機>に対処するための≪所要防衛力≫の整備には、遅滞や未達は絶対に許されません。
そこで、総理に二点伺います。
●第一に、総理は、このような予算構造で、「大綱」や「中期防」がめざす<所要防衛力>の整備を、期限内に完成させることができると本気でお考えなのでしょうか。
●この点は、計画実現の責任者である小野寺防衛大臣にも明確にご答弁いただきたい。
先ほども申しあげたとおり、≪所要防衛力≫というものは、冷戦期において我が国防衛のための最低限の基盤を整えることを目指した<基盤的防衛力>とは異なり、定められた期限内に所要の防衛力が構築されなければ、国が守れないということを意味するのです。
したがって、この「中期防」には実効性を担保するために≪3年目の見直し≫が明記されているのです。
●そこで、総理に伺いたい。3年が経過した段階で、計画達成のため必要であれば、予算規模の「上方修正」を行うこともあり得るとお考えですか。
つぎに、「安保戦略」にも「防衛大綱」にも決定的に欠けている<重大な課題>を二つ指摘いたします。
第一に、武力攻撃に至らない侵害行為が生じる、いわゆる<グレイゾーン事態>への対処の問題です。●今日の安全保障環境は、冷戦期のような「有事」と「平時」との間に明確な境界を画すことはできません。●毎日のように、中国の政府公船による領海侵入に晒されている<尖閣諸島周辺>における緊張状態はまさにその典型です。
武力攻撃が生じていないため、国連憲章51条に規定する自衛権は行使できません。
だからといって、我が国の主権と領土を守るための<実力の行使>が認められないと解することはあまりにも不合理です。
「警察権」と呼ぶか「マイナー自衛権」と呼ぶかが問題でありません。●グレイゾーン事態に対処して我が国の主権と領土を守るためには、国際法上行使することが認められる正当な権限が、国内法上、海上保安庁や自衛隊に認められていることが最低限必要です。
これは、主権と領土にかかわる≪火急の課題≫です。
●そこで総理に伺います。グレイゾーンの事態に対処する上で、海上保安庁や自衛隊に国際法が認める正当な権限は付与されるのでしょうか。●権限の「隙間」は放置されないのでしょうか。●明日危機が起こるかもしれないとの認識に基づき、「グレイゾーン事態」に対処する法整備に関する総理の<ご覚悟>とともに<明確な答弁>を求めます。
第二に、冒頭に触れた中国の「A2AD能力」への対応策についてです。●「安保戦略」のどこを読んでも、「防衛大綱」のどこを読んでも、日米でどのような役割分担をして、<第一列島線>を守り、<第二列島線>との間の広大な海域における安全保障を確立し、延いては米国の<持続可能な前方プレゼンス>を確保しようとしているのか、明らかではありません。
今日の<日米同盟協力の「核心」>とも言うべきこの論点は、年末までに作業を完了するとされる「日米防衛協力のガイドライン」の改定と密接に関わるものであり、不明確なまま放置することは許されません。●与党内の協議が停滞している集団的自衛権の行使をめぐる問題にも、早急に決着をつけるべきです。もちろん、閣議決定の前に国会できちんと議論すべきことは言うまでもありません。
「日本が、できることとできないことを、はっきりさせて欲しい」というのが米国の本音です。●集団的自衛権をめぐる我が国のスタンスが曖昧なまま時を浪費すれば、ガイドラインをめぐる<実質協議の時間>がどんどん減ることになります。●<共同作戦計画>が立てられないままでは、日米防衛協力が有事の際に機能しませんし、そうなれば、<日米共同の抑止力>も張り子の虎となってしまいます。
●そこで総理に伺います。集団的自衛権の行使をめぐる今後の議論の見通しと、抑止力構築の要である「日米ガイドライン」との関係においてどれほど切迫感を持っておられるか、総理の<ご認識>を明確にお答えいただきたいと思います。
さいごに、<国家安全保障戦略>と、<いわゆる歴史問題>との関係について取り上げたいと思います。
私は、安倍総理が先週参議院予算委員会で表明された、日韓関係の改善に向けた「戦略的な決断」を率直に評価いたします。
日本の名誉のために「河野談話」の見直しを求めてきた人々は、「検証する」と決めたはずの「談話」について、検証もしないうちに「見直しはしない」などと明言するのは到底理解できないとして、安倍政権の姿勢を<軟弱だ!>と非難するでしょう。●期待を持たせてしまった分だけ、反動は大きいと思います。
また、この間の米国からの働き掛けをやり玉に挙げ、「またしても<対米追従>ではないか!」と失望する声も広がっています。
しかし、これらはいずれも「木を見て森を見ない」議論だと考えます。
国家は、主権と独立の維持、領土領空領海の保全、国民の生命・身体・財産の安全といった<基本的な利益>を確保するため、絶えず変化する安全保障環境の中で、あらゆる手段を尽くしていく必要があります。
これが≪国家安全保障戦略≫の根本です。
歴史問題と称される個々の論点について、我が国が声を大にして主張すべき事柄が少なくないことは私も十分認識しています。●しかし、国家の安全保障に関わる大局的・戦略的判断の下、場合によっては<過度のこだわり>を拭い去ることが求められることがあるのだと考えます。
時あたかも、来年は、①<第二次世界大戦終結>から70年、②<日韓基本条約締結>から50年、そして、③<大正4年の「対華21箇条要求」>から100年という、少なくとも三つの意味で歴史的な節目を迎えます。
そこに中国が、一方では米軍に対する接近拒否能力を拡大強化し、尖閣諸島の我が国領海に対する公船侵入などを繰り返しつつ、心理戦、法律戦、輿論戦からなる<三戦>を世界規模で、執拗に仕掛けてきているのです。
ゆめゆめ、<中国の術中>に嵌ってはなりません。
国家の名誉を懸けて、民族の誇りを懸けて、言いたいこともある。正さねばならないこともある。●しかし、戦後、国際社会に復帰して以来、先人たちが営々と積み重ねてきた<苦心の外交努力>の結果を後戻りさせ、国家の戦略的利益を失ってはならないと考えます。
「歴史修正主義者」との誹りを受けたり、我が国が「戦後秩序への挑戦者」であるなどという、あらぬ誤解を拡大させることが、<最優先課題>である安全保障分野の構造改革を進めるうえで大きな障害となることは、昨今の国際世論の動向を見ても明らかです。
今大事なのは、孤立化と破滅の道を突き進んだ<昭和の過激なナショナリズム>に戻るのではなく、屈辱の不平等条約改正に53年の月日を費しながら粘り強くこれを実現した≪明治のリアリズム≫を思い起こすことだと考えます。
すなわち、特定の問題については<戦略的な忍耐>を維持する一方、喫緊の課題である安全保障政策の改革を最優先に推し進め、国際協調主義に基く「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、プロ・アクティブな外交を展開することが肝要であると考えます。
●最後に、この戦略と歴史問題の微妙なバランスについて、安倍総理ならびに岸田外務大臣の御所見を承って、私の質問とさせていただきます。