友人からメールで、昨今話題となっている女性天皇(いわゆる「女帝」)を容認するか否かについての質問があった。その際、以下のような自民党有力者のHPからの転載記事が添付されており、この見解の是非を問われた。正月早々重い話題で恐縮だが、現時点での私見を披瀝しご批判に供したい。

(転載はじめ)
問い:今、女系天皇論議が盛んですが、加藤(紘一)先生のお考えは賛成、反対?

答え:これまでの全125代の天皇陛下のなかで、女帝は8人(10代)いました。日本史上最古の女帝は第33代の推古天皇(592~628年)です。
私は、女帝を容認することは全く問題ないと思います。ただ、女帝の次の代の天皇を、女帝の子(女系)にするかどうかという問題がありますが、女性しかいない場合には、私は当然女性でいいと思います。
お隣の中国にも女性皇帝が何人もいました。何も不思議はありません。
(転載終わり)

これは、失礼ながら、余りに暴論、というか軽すぎて、話にならないと思う。
皇室典範の改正案が3月にも政府から提出されるというのに、与党の重鎮議員の認識がこのようなレベルにとどまっているというのは、非常に深刻だ。

現在の皇室および皇族には秋篠宮殿下以降、男子皇族が存在しないことから、愛子内親王がやがて皇位を継承することになる可能性を論ずることは、もちろんやぶさかでない。加藤代議士が述べているように、歴史上、8人10代の「女帝」(うちお二方は重そ[示へんに乍])が存在したことも事実。だから、女帝ご即位については異論はない。しかし、問題はその次の方だ。皇統125代(約2000年)の歴史の中で、女帝が認められたのはいずれも天皇の皇女など男系の女子であり、女系たる女帝の子が皇位を継いだことはただの一度もない。

この厳然たる事実の持つ意味がきわめて重いからこそ、昨年11月に公表された「皇室典範に関する有識者会議」の結論に、各界から批判の声が上がり、国民の間にも戸惑いが広がり、私たちも頭を悩ませているのではないか!・・・すなわち、皇太子殿下(および秋篠宮殿下)に継ぐ「男系男子」が存在しない皇室の現状と、(過去3度の皇統断絶の危機にも拘らず)「男系男子」のみが皇位を継承してきた歴史的事実の狭間で、皆が苦悩しているのである。

それを、いとも簡単に「女性しかいない場合には、私は当然女性でいいと思います。」サラリと言ってのける加藤代議士のご見識を疑わざるを得ない。

とくに、この正月休みに、竹田恒泰『語られなかった皇族たちの真実-若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」』(小学館)を読んで、前述の有識者会議による「今後における皇位継承資格については、女子や女系の皇族に拡大することが適当」との結論に強烈な違和感を覚える私としては、このようなわが国の歴史に対する無責任な言論を看過することはできない。

このほか、有識者会議が「女系」を容認せざるを得ない理由として挙げている、少子化傾向や、家族や男女の役割分担についての国民意識の変化や、旧皇族の復活についての否定的見解など、いくつもの論点があり、異論も多々あるが、長くなるので別の機会に譲る。

ここでは最後にもう一言。旧皇室典範が論じられたときに、明治憲法の起草者でもある井上毅が自著『旧皇室典範義解』に記した次の言葉を紹介して、加藤代議士の議論(とくに「お隣の中国にも女性皇帝が何人もいました・・・」)に対する批判に代えさせていただきたい。

曰く「政事法律百般ノ事ハ尽々ク欧羅巴ニ模擬スルコト可ナリ、皇室継統ノ事ハ、祖宗ノ大憲ノ在ルアリ、決シテ欧羅巴ニ模擬スヘキニ非ス」と。・・・つまり、皇室継承というわが国歴史の本質にかかわるような問題については、諸外国の事例などを参照するのではなく、わが国皇室継承の歴史そのものを確かと参照すべきだ、というのである。これから、皇室典範改正をめぐり議論を始める私たち国会議員が胸に刻まねばならない重要なポイントである。