先日、横浜市戸塚区にあるドリームハイツという住宅街に視察に行ってきました。
 ここに出かけたのは、エリアマネジメントのモデル地区になっているからです。

 エリアマネジメントとは:地域運営協議会。自治会や市民活動団体がネットワークを組むことによって、地域の問題を共有化し自主的に解決策を探るプロジェクトをいう。

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 かつて、ここには私も子どもの頃何度か訪れたドリームランドという遊園地がありました。
その遊園地も2002年に閉園。その影響もあってか、当時は約9,000人いた入居者も現在は約5,000人に減り、その内の約500世帯が一人暮らし。また、高齢化率は36%と入居者の4割近くが高齢者であり、2、3年後には高齢化率が50%、入居者の2人に1人が高齢者のまちになると見込まれています。


 そんな住宅街がなぜ視察を受けるようなモデル地区となっていったのか?


 1972年の入居当時、このエリアは泉区との区境ということもあり、公共施設の未整備地区でした。店舗、医療、福祉施設などがほとんどなく、公共施設は深谷台小学校程度でないないづくしの「陸の孤島」と呼ばれる環境の中では、住民が日常の生活を送る上で多くの問題を抱えていました。
 こうした状況を改善するために、一般的には行政に改善をお願いして終わるところを、住民自らが課題解決のために取り組みを始めたのです。

 まず初めに取り組んだことは子育て支援の環境整備でした。自主保育、学童保育に始まり、障害児支援施設、親子遊び広場と活動は広がり、保育園も設立されます。

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子どもの一時預かり、親子の居場所「ぽっぽの家」

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障害のある子ども達の放課後の居場所「つぼみの広場」  

 次に、団地全体の高齢化が進むにつれて、高齢者のための活動が始まります。
 地域給食の食事サービスや、高齢者の居場所としてのサロン「夢みん(むーみん)」も開設。
「夢みん」は団地内の一室を住民同士で資金を出し合い当時2100万円で購入。
ここでは、会食会やパソコン教室、映画上映などさまざまな介護予防事業が実施されています。


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 2000年にNPO法人化してからは、横浜市の介護予防事業の受託先として、行政との協働という形で運営されています。2005年には、空き店舗を活用した「ふらっとステーションドリーム」が開設。
 地域福祉3団体と横浜市との協働事業でスタートし、世代を超えた地域住民の交流の場として活動を展開し、毎月の利用者は1,200人以上に上るといいます。

 そして、2007年には、ドリームハイツ地域運営協議会が発足。横浜市初のモデル地区に指定され、まず住民アンケートを実施。ほぼ100%に近い回収率で住民ニーズを探りました。   
 2007年度調査では、必要な取り組みとして、一人暮らし高齢者の見守りや緊急連絡体制が第一位となり、これを受けて見守りネット部会を設置。一人暮らし高齢者の見守り体制を強化しました。

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電力使用量をPCでチェックすることで高齢者一人暮らしの緊急事態を把握します。

2009年には、深谷台小学校の空き教室を活用し、地域運営協議会事務スペース、見守りネットセンターなど、学校と地域の交流拠点として、本格的なエリアマネジメントとしての活動が始まります。2010年には、深谷台アフタースクールとして、小学生の放課後の居場所として、地域住民が小学生に算数や国語の勉強を教えたり、学習のサポートを行うなど学校と地域をつなげる活動が始まっています。

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 写真をみてわかる通り、ドリームハイツは一見してどこにでもある普通の団地です。
ここに12か所のさまざまな事業拠点があり、子育て支援や高齢者支援などまさに「ゆりかごから墓場まで」他自治体のモデル事業となるような福祉事業が展開されているとは、にわかには信じ難いくらいです。もちろん地図上にものっていません。また拠点場所といっても立派な施設ではありません。



 実際に見て歩く中で、まるで子どもの秘密基地のような印象をもちました。
 行政が福祉施設を整備しようとすると、まずはどのようなハコモノを作るかに力点を置きがちです。ここでは対照的に、まずどのような住民サービスが必要なのかというところからスタートしており、中味ありきで進められ、立派な施設をつくることに力点を置いていません。
 
右肩上がりの地価上昇を前提とした行政側も税収の伸びが期待できた時代における都市づくりでは、新規建設投資が盛んに行われてもよかったですが、今の税収の伸びが期待できない時代では、ストックが重視され、地域特性に応じた多様な社会資本の整備が重視されます。


 深谷台小学校の空き教室を利活用した取り組みは、高齢者の見守りという教室の目的外使用というハードルがありながらも、住民による2年にかかる説得で学校側の了承をとりつけることができたといいます。

 空き教室を福祉施設に転用したくても、小学校を管轄するのは文科省,福祉施設を管轄するのが厚労省なため、縦割り行政の弊害により全国的には普及していません。ですが、住民側からすれば、子どもと高齢者の交流を促進することは、管轄が違うなどということは関係のないことであり、こうした縦割り行政を行政自身では打破しにくい傾向にあるため、住民発意による動きが新たな福祉サービスを生む上では重要になってくると思います。
 今後は、部活動に団塊世代の地域住民に顧問に入ってもらうなど、開かれた学校を目指して、柔軟な姿勢で新たな取り組みを広げていくことが期待されます。


 しかしながら、課題も山積しています。
 人口減少、高齢化が急速に進むにつれ、サポートするスタッフも高齢化する中、持続可能な事業運営のためには、人員体制の強化も欠かせません。「夢みん」では、時給約300円で有償ボランティアが働いていますが、これでは若い世代が新たな雇用先として働く場には厳しい条件です。いかに運営資金を確保していくかも課題の一つであるといえます。

 折しも、昨年3月の東日本大震災を契機に、防災面において学校と地域の連携が欠かせないことに注目が集まっています。宮城県では震災後各学校に「避難所運営組織をスムーズに立ち上げられたかどうか」を聞いた結果、「学校支援地域本部」があって住民と日頃から交流のあった学校では95%が「順調だった」と答えたが、本部のない学校では4割で混乱が見られたといいます。

 この学校支援地域本部を発案した元リクルートの藤原和博氏は、和田中での教育改革を「閉ざされていたものをネットワークの力(つなげる力)によって開いていって外からエネルギーが入るようにして改革していくというやり方」と述べていますが、まさにエリアマネジメント*とは、住民がつながることによって、外部からのサポートを得ながら、問題を共有し解決していくことです。


 こうしたドリームハイツにみられるエリアマネジメントがなぜ今の時代に求められているのか。

 それは、地域が抱える課題が多様化している中では、行政がトップダウン的にサービスを選んで提供するのでは、その地域が活力をもって維持し続けるのに有効なものとなりえないからです。
 また、行政側にすべての地域の課題を解決するだけの財政的な余裕も残されていません。

 こうしたことから、地域が自立的に課題解決力をもつこと、行政はそれを後方支援すること。

 このような住民の潜在力をいかに引き出し、行政がバックアップしていくか。

 市民協働のあるべき姿のひとつがドリームハイツにあるといえます。