さよなら宇宙人 | クリーチャーガレージキット人間のブログ

さよなら宇宙人

前回までのあらすじ

宇宙人の唱えた宇宙理論は、量産型人間と一人人間の違いだった。
量産型人間は特殊能力はないが一般社会に溶け込める。
一人人間は特殊能力があるがゆえ、いらないものも見えてしまうというものだった。



「それ・・・撃ったら絶交だかんな・・・
いやならゆっくりこっちに渡せ」



宇宙人は、目を細めてそう言った。



しかし既に二人の関係に絶望を感じている自分には
なんの意味もない言葉だった。



ふいに宇宙人は、ゆっくりとしゃがみ始めた。
こちらを見据えたまま、慎重に・・・といった感じの
動きだった。


何をするのかと思いそのまま待っていると、
地面の砂を手に握り締め
次の瞬間、自分に向かってその砂をかけた!

目潰しか!


その刹那、
彼の投げた砂は風に吹かれすべて本人に返ってきた。
宇宙人の顔の汗に砂が張り付き、
一瞬で真っ白になった。

「ちくしょうめ!」


砂が目に入ったらしく、
前が見えなくなった宇宙人は、
ペッペッと口に入った砂を吐きながら
手探りでこちらに向かってきた。




動くなといったのに!と言おうとして焦り「んあああ!」と
変な声が出てしまったが、
自分は、ついに発砲した!


トリガーを引くと
ビュービューと勢いよく、
宇宙人の顔を小便が濡らし、
砂を洗い落とした。

「やりやがったなぁあ!」

なおも宇宙人は前進を続け、
ついに自分の、銃を構えている手首を
つかみあげた。


「死ねぇぇぇぇ・・・!」


宇宙人は、銃口がこちらに向くよう
自分の腕をねじり上げてきた。


自分も負けじと宇宙人の方に銃口を向けようと、
思いっきり力をいれた。

二人の腕は、互いに違う方向に力がかかったので
フルフルと大きく震え始め、
やがてゆっくりと銃口が向きを変え始めた。


銃口が最終的に向いたのは、宇宙人の顔面だった。



チャンスだ!
すかさずトリガーを小刻みに何回も引いた。

今度は至近距離から、
宇宙人の顔めがけて
大量の小便が吹き付けられた。
遠くから撃った量の比ではない量の小便が
宇宙人の顔面を捕らえた。

必死に目をつぶり絶えていた宇宙人だったが、
最後は、「やめろ!」と口をあけた瞬間
シュコーッ!と音を立て、
口の中にも小便が流れ込んでいた。

突然、宇宙人の力が抜けた。
勢いあまって自分は地面に倒れこんでしまった。


宇宙人の方にふり向くと
顔面びしょびしょになったまま、
動かなくなった彼が立ち尽くしていた。


そして2,3秒の沈黙の後、
「うわああああああああああああん!」
と、宇宙人は大声を上げて泣き始めた。


とんでもない大音量で、
狂ったように泣いていた。


そんな宇宙人に同情することもなく、
自分はすぐに自転車に飛び乗り、その場を後にした。


自転車を走らせている間も、
宇宙人の大きな鳴き声は
しばらく聞こえていた。


家に帰って、手に付着した小便を洗い流し、
自転車のグリップも念のため洗った。


その時、宇宙人のバッグの中身をふと思い出した。



おぞましい。



かばんの中身に、虫かごとビニール袋が入っていた。
どちらにも葉っぱのようなものが見えた。
しかし、実際は違った。


大量の昆虫が入っていたのだ。


セミ、カナブン、蝶、かぶと虫、クワガタ、カマキリ
バッタ、コオロギ等
夏に見かける虫ばかり。


死んでいたり、弱っているものがほとんどだった。

しかし、
そんなのは子供が集めるのはむしろ普通だろう。


問題は、
ただ普通に昆虫がたくさん入っていたわけではなかった。




すべての昆虫が、
羽、足、頭をもぎ取られた状態で
芋虫のようになっていたのだった。


虫かごには昆虫の胴の部分が入っており、
ビニール袋には捥いだ足や羽、頭が入っていた。




生命力の強いかぶと虫やクワガタは、
それでもゆっくりと胴を動かしていた。



あまりに衝撃的だった。




彼の住む世界と、
自分の住む世界は違いすぎる。
残虐性が、根底から違う。

子供ながらにそう実感し、
それがすぐに裏切られたという思いに
変わってしまったんだと思う。


畑には二度と行かなくなったし、
宇宙人と会うこともなかった。


それから20年近くが過ぎた。


この間、
虫の手足を捥いで集めている昆虫少年の話を
なにかのきっかけで話したが、
宇宙人がその昆虫少年だったと結びつかなかった。
宇宙人との思い出はつい最近まで
いつの間にかお互いその場所に行かなくなった
という結末で終わっていた。


そのすぐ後
犬の散歩で偶然に彼と
夏を過ごした畑を通りかかり、
別れの事実を鮮明に思い出した。



素性を知らない二人が、
ひと夏を楽しく過ごした。


良い思いでと、最悪の別れ。



今は、
その両方を受け入れられる大人に育っていた。