宇宙人現れてた その1 | クリーチャーガレージキット人間のブログ

宇宙人現れてた その1

夏になると思い出す子供の頃の記憶。


小学校4年生くらいの頃、
自転車で40分くらいのちょっと離れた所に畑があった。


そこにいつもいた、同年代だが学校は別の
「宇宙人」と呼んでいた男の子と沢山遊んだ。


宇宙人は、髪の毛がガッタガタに生えていて、
ドス黒く日焼けしてる。

彼の服装は紫地に白で「スナックあじさい」
と書かれたブカブカの色あせた長袖上着か、
バイキング風にアレンジされた
偽物のマジンガーZのTシャツどちらかだった。
そして必ずビジネスマンが持っていそうな
不釣合いのカバンらしきものを愛用していた。


初めて彼を見たときは
あまりにも浮世離れしたその風体に
警戒しまくっていたが、
ちょうど「原始人」という映画を見て
原始の人に興味を持っていた自分は
ある日 とうとう話しかけた。


「ザリガニ取ってるの?」

意を決した第一声は
いきなり無視された。

しかし彼は自分から少しはなれて、無言で手招きをした。

彼の手招きに誘われるままついていくと、
少し広い広場に出た。

彼はそこで、宇宙と交信していると教えてくれた。


信じられないような話だが、事実だ。
いや、宇宙と交信しているのではなく、
彼自身が。



会話はあまり無かったが、
それでも彼と会うのは新鮮で楽しかった。
それから毎日のように
宇宙人に会いに行って、ザリガニを取ったり、
せみを取ったり、宇宙と交信したりした。




一週間ほどたったある時、
畑の隣にある家のプードル犬が脱走し、
自分と宇宙人は襲われる事件が起きた。

小さい犬だったが、
小学生にとってはインベーダークラスの
強敵だ。

普段冷静な宇宙人は、
思いのほかカン高い奇声を発しながら逃げ始めたので、
笑ってしまいうまく走れなかった。

逃げまどっているうちに
ついに宇宙人が棒っきれを見つけ、草むらから拾い上げた。

宇宙人が棒を振り回し、それが犬の体に当たると、
犬はすぐに家に戻っていった。


犬が去った時は、九死に一生を得た気分だった。
さすが宇宙人。


しかし次の瞬間、あたりに強烈なにおいが漂いだした。


なんと宇宙人の拾い上げた棒にベッタリと
なにかのウンコがついていたらしく
宇宙人の手はウンコまみれになっていた。


「なんだふざけんなぁ!」


怒り狂った宇宙人はすぐに川に入ると
手を洗い流しはじめた。

すばやい動きで何度も手のひらのにおいを確認して
また洗っていた。

しばらくしてようやく臭わなくなったのか、
彼は川から上がってきた。

彼の表情はまだ怒りに燃えていた。

すると彼の唯一の所有物である
カバンから透明ピンク色の水鉄砲を出した。

水鉄砲の水を入れる栓をはずすと、
おもむろにズボンのチャックを開け、
ポコチンを水入れ口にくっつけ
水鉄砲の中に小便を入れ始めた。


「俺がオトリになるから、
お前はこれであの犬を撃て」

そういうと彼は、
オシッコの入った透明ピンクの
おそらくワルサーP38の形をした
銃を渡そうとしてきた。

もちろん躊躇はしたが、
彼は絶大な信頼を持って
自分に犬を撃つという役目を与えてくれた、
そう信じると少しうれしかったので
頑張ってその武器を引き受ける事にした。


しかし、いざ持つと、水鉄砲は生ぬるかった。


宇宙人はカバンからもう一つ、
同じ形だが、今度は水色の透明水鉄砲を取り出し、
もう一度小便を装填しはじめた。

しかし、
装填が終わると小走りで川に走っていき、
少し立小便をしていた。おそらく弾が余ったのだろう。

戻ってきて、
さっき手を洗った時に一緒に洗った
棒っきれを背中にさし、いざプードル宅へ。



庭に入ると、
いかにも夏の風景が似合いそうな、
田舎作りの家が現れた。

透明の大きな窓があり、奥に廊下を挟んで畳の部屋がある。


犬の姿は無かった。


宇宙人はまるで自分の家に入るように
窓を開けて中に入っていった。

自分は、銃を持っている所為か、
ちょっとスパイにでもなった感じがして
ドキドキしていた。




しばらく庭で宇宙人を待つ。

沈黙が続いた・・・


次の瞬間、
すごい勢いで宇宙人が逃げてきた!

彼のすぐ後ろには、さっきのプードルがすごい速さで
おっかけてきている。

「きぃいいやああああああ!!!」


宇宙人は庭に飛び出すと、すかさず振り返って
小便ワルサーを犬に発砲した。


しかし、犬はそんなのはお構いなしに
宇宙人の足に、噛み千切らんとまとわりついた。


自分は宇宙人を助けようと、小便銃で犬を撃ちまくったが、
やはり犬はひるまなかった。


宇宙人は格闘の末、結局 背中に装備していた
元ウンコ棒で犬を叩き、なんとか再び撃退した。


息をもつかせぬ攻防だった。


蚊に刺された肌が
かゆく感じるのを忘れるくらい、
しばらく立ち尽くした。


勝ったのは宇宙人だったが、彼の砂ぼこりで汚れた足は
自分の放った小便銃で濡れ、そこだけ色が濃くなっていた・・・






両親が共働きでいつも寂しい夏休みが、
宇宙人のおかげで忘れられない思い出になりつつあった。

しかし、ある理由で
彼とはその夏以来、会う事はなかった。


多分続く。