内臓破壊 ラーメン 二郎 プロローグ | クリーチャーガレージキット人間のブログ

内臓破壊 ラーメン 二郎 プロローグ

5年程前の話である。


福島県で行われるカラテの東北大会に
自分の先輩が出るので、
友人A君の車を使い二人で向かった。

交代で運転することを約束し、
最初の運転は自分だった。



ある意味小さな旅行でもあったので、
最初のうちはワクワクしながら
車を走らせていた。


高速に乗ってしばらくすると、普段無口な彼が
サムライのように静かに、そして重々しい一言を漏らした。



「モーレツにウンコがしたい」


なにか不穏な空気が流れはしたが、
彼のその冷静な態度から
まだ大丈夫だと思い
そのまま車を走らせることにした。


その後何事も無かったように
無言に戻った彼だったが、
車は既に都心を抜けてしまったため
しばらくパーキングエリアが見つからなかった。


あまりに無言だったので彼の方を向くと、
真冬にも関わらず
額から玉のような汗が吹き出てきているのが
対向車のライトにキラついていたので、
内心はいらだっているのが明らかだった。


数秒後。


「間に合わん!」


その声は静寂を破るには
あまりに大きな声だった。

まるでアクション映画の主人公が
悪人の手によって取り付けられた
時限爆弾を解体しようとした結果失敗し、
周りに「逃げろ」という意味で
放った台詞のように勇ましかった。



彼は、その大きな体躯からは想像できないほどの速さで
助手席の前に常備してある
クリネックステッシュの箱を鷲掴みにし、
おもむろに後部座席への移動を始めた。


え?うそ、後ろでやんのか!?



あせった。

ナチのシャワー室さながら
彼の汚物のニオイでまみれる車内が
脳裏に飛び込んできたので
自分はありたけの力を振り絞り
最も早い口調で



「せめて路肩でしてくれ!!」



と怒鳴り急ブレーキをかけた。


彼は車が止まった瞬間かそれより前に
外に出ていた。

そして今度はズボンを下ろす瞬間かそれより前に
車の陰で轟音を立て脱糞をはじめた。

その音は、
高速道路を走るトラックの騒音より
大きくけたたましく思えた。




何気なく助手席側のバックミラーを見ると、
友人の情けない姿と、脂汗の吹き出る激しい表情が飛び込んできた。

そして、なんだか釈然としないものを感じていた自分は、
中に湧き上がる悪意を抑えきれなくなっていた。


気がつくと自分の足はブレーキから離れていた。



そして車はクリーピングを起こし、徐行を始めていた。


自分からは見えないが徐々に車が動いていくと
_かくれんぼの最中、腹が急に痛くなり
家に帰るのが間に合わないと悟って
葉っぱで尻が拭けることを理由に野糞をする小学生さながらに_
大の大人が尻を丸出しにして
鬼神のごとき形相で脱糞をしている姿が
横切る車にあらわになっていたはずだ。


しかし丸見えになっているのにもかかわらず、
糞を押し出すため力強く目をつぶっている彼には、
今自分がどういう状況におかれているのかに
気付くまで少し時間がかかってしまった。


ミラーで小さくなっていく彼の姿に、
自分は悪意とこみ上げてくる可笑しさで複雑な心境になっていた。


そしてミラーから、A君が顔を上げ車が無いのに気付き、
少しだけ周りを見回したたのが頭の動きで確認できた。


彼は、手に持っていたクリネックステイッシュを使うことなく、
逆に箱がつぶれるくらい握り締め、



「マデゴルァアアアアアアアあアアアアア!(まてこらああ!)」



と、高速道路の数キロメートル先まで
伝わるのではないかと思うくらいの大声で叫びながら、
ズボンをスネのあたりまで下ろし
しゃがんだ状態のまま、
高速で膝下だけを動かし追いかけてきた。




もはや、自分にはどうすることもできなかった。
彼の人間業とは思えない
器用な移動の仕方に
巨人に腹をねじ切れるくらい捻られた
と思うほど笑ってしまい、
友人が車に飛び乗る隙を与えてしまった。


車に戻ったA君は、現地に到着するまで
私を許してくれなかった。


続く