「どうした?チキ君?」


と芯が訊ねた。

「はい、そこにこられた人霊様ですが、
全身傷だらけで血まみれの姿なんですが?、どうもアイヌの人霊様の様なんですが、もじもじしておられて、どうも、初めて御膳を戴かれるようで、迷って居られるようです。」

「お名前を伺ってごらん!」

「『エペレ』と言われています。」

「 エペレ!
エペレって、あの阿寒湖コタンのエペレですか?」

と、キナが大声を出した。

「どうしてエペレが人霊でここに?」

と尾名村長が言った。

「『先程、死んだ、ウコタキヌプリ山で熊に殺られた。』と言われています。」

「えっ?では、先程あのウコタキヌプリ山で起こった熊の事故の被害者はエペレだったの?
どうしてエペレが彼処にいたの?」

「私達の後を付けていたのだそうです。
そして、車を降りて、隠れて私達の様子を観ていたら、熊に襲われたのだそうです。」

「そうだったのか?
自然霊長様の仕事だね!
熊を使って、なんて、アイヌの神業の仕事にされたんだな!」

「キナは涙をこらえていた。」

その様子を観て、加藤がそっと、キナの肩に手をやった。
キナが哀願する様に言った。

「チキさんエペレはどうなるのでしょうか?
天国にいけるのでしょうか?」

「キナさん、大丈夫ですよ!
今ここには、多くの神様方がおられます。
御膳を戴かれた後は、導かれる担当の神様から、色々と話をお聴きになられて、以和尽礼を受けられて、歓喜弥栄になられて天国に行かれますよ!」

「本当ですか?
良かった!
色々意地悪をされたけれど、エペレは私の幼馴染みです。
神様、宜しくお願い致します。」

と上をあおいで手を合わせた。

翌朝、屈斜路湖はよく晴れていた。
芯達一行は次の柱建て神業場所の糠平湖を目指して移動していた。美幌町を経由して北見市に出て国道39号を大雪山に向けて走っていた。
大雪ダムを左回りして国道273号南下してだいぶ走っていた。
大雪山国立公園の横を南下してやっと糠平湖に到着した。

   糠平湖

芯と尾名村長は前と同じ方法で、第四回目の日乃出柱建て祭事をこなした。
ここからは阿寒湖だけで無く、大雪山に向かっても根元浄めを施光した。

「糠平湖の浄めは必要ありませんか?」

と芯が神様にお伺いをした。

『必要ない。』

という返事が帰って来た。

「さあ、最後の柱建て現場に急ごう。」

と芯が皆を急き立てた。
最後の神業場所は釧路湿原だった。
国道273号、241号、本別町に出てE38に乗って釧路市へ向かった。
車中でヒミが芯に質問した。

「先生、先程の糠平湖で何故、糠平湖の浄めの是非を訊ねられていたのですか?」

「ああ、糠平湖には大変な神界事情が存在していたんだ。
それで訊いてみたのさ!」

「どんな事情ですか?」

「君達は、神様の墓場があるなんてことを信じるかい?」

「神様の墓場?
神様は死なないと確か訊いたことがありますが?
何で神様の墓場があるのですか?」

「そう、神様は死なない。
理由は物の比率が少ないから、魂は無くならないから、死なない。
人間も魂が神様並に多くなれば、死ななくてよくなる。
しかし人間の物、つまり身体の比率は80%もあるから、大きな怪我や、損傷を受けると、物、つまり肉体としての機能を失うので、死ぬことになる。
その代わりに輪廻転生するんだよ。
神様も神界戦争で殺し合いをして、相手を痛めつけても、死なないから、色んな手を考案して、圧縮したり、封じ込めたりしても直ぐに復活して手向かって来るから、始末に悪い。
そこで考案された秘技が魂物完全分離という人間が死ぬ時と同じ方法で相手の20%の物を魂から引き離すということをしたのだそうだ。
ところが、それも死にはしないので、その20%の物を埋める墓地が必要になって、あの糠平湖をその神の墓地としたんだそうだ。
そして、動物、北狐等に食べられない様に墓守の神様を置いたんだ。」

この話を聴いていたチキが、

「わあっ、怖い!」

と言って、身を固くした。

「どうした?チキ。」

「今、糠平湖の上に幽霊の様なお姿をされた女神様の姿が観えました!」

「そうかい、まだ朱鷺姫之大神様は墓守をされて要るのかな?」

その時、通信がチキに入った。

『わらわはもうお役は終わっております。
神下殿、貴方方が、前に来てくれて祭をしてくれた時にお役は解けました。
それでも、あのお役は誰もする神がおらず、まだ自分の身体を探しに来る神がいる為に、私の残影が墓守の役をしておるのです。心配して頂き感謝致します。   朱鷺姫。』

「そうでしたか、それは良かったです。」

釧路湿原に到着した。
祭の場所の特定に迷っていたチキを観て、芯が言った。

「チキ君、常世姫之大神様に訊いてごらん。
ここの神業記念地で柱建てをしても良いでしょうか?と。」

「『あの老の智様が天もられた場所のことですか?
あそこは常に輝いているから、柱建てにはこの上も無い場所でしょう。』と言われています。」

「決まった。
鶴居村の伊藤サンクチュアリの横の草原に行ってくれ!」

こうして一行は釧路湿原鶴居村の草原で第五回目の日乃出柱建てを施光した。

「これで終わりですね!」

と松浦隊長が言った時、チキに通信が来た。

『まだ終わっていない!』

「まだ終わっていませんよ!
第一回目の日乃出柱建てをした所まで、いかなくては、五芒星封じの完成にはなりませんよ!」

「そうなんだ!美幌町の地神碑まで戻らなければ完封にならないんだ。
さあ、行くぞ!
最後の行動だ。」

一行は国道391号を北上した。
弟子屈町を経由して国道243号で美幌町に入った。
そして、第一回目の日乃出柱建てを施光した地神碑に到着した。
ここで、全員で北に向かって、二礼三拍手一礼して、

「これで龍頭北海道の五芒星封じ日乃出柱建て祭事を了と致します。」

と宣言した。
すると、

『ご苦労であった。
これで龍体の頭も大丈夫であろう。
後は時期をみて、角を取り戻すだけだな!』

「どなた様でございますか?」

『根元変じて国常立となったもの』

「ありがとうございました。
これで失礼致します。」

「先生、どなたでしたか?
国常立様とは?」

と松浦隊長が訊いた。

「根元様が国常立之大神様にへぐれられて、その国常立之大神様が時代と供に地乃親神様に変わり、今は地乃世界之大神様と名乗られているんだよ!」

                                                                                (つづく)