芯達は次の神業場所の摩周湖に向かってE38を東に向かっていた。

阿寒ICで降りて、国道222号を北上、国道240号に入り、北上して阿寒町で国道241号で弟子屈町に到着して地方道路52号を北上し、摩周湖の第一展望台に到着した。

   摩周湖

摩周湖の深い碧の湖中にカムイシュ島が鮮やかに浮いていた。
芯がそれを観た時であった。

『あの島に建てよ!』

とチキに通信が入った。
3番目の日乃出柱建ては、この摩周湖にただ一つ浮かぶカムイシュ島と決まった。
その島に渡ることが出来ないので、第一展望台から、芯と尾名村長は魂を飛ばして、その島に日乃出柱を建てる想念で展望台で施光した。

「チキ君、無事に日乃出柱が建ったか確認をしてくれないか?」

「はい、『大丈夫』と言われております。」

「よし、良かった。
次行こう。」

「先生、今日はもう無理ですよ!
何処かで宿を取って、明日にしないと、次は上士幌町の糠平湖ですから、かなり遠いですよ!」

「そうか!
この辺りに何処か良い温泉宿は無いかな?」

「この辺りですと、川湯温泉が良いでしょう!」

とキナが言った。
直ぐにヒミが宿泊先探しをスマホで始めた。
人数が10名という団体様であったから、突然の宿泊予約で電話するが空き部屋がなかなか見付からなかった。
困っていたら、犬飼進人霊から通信が入った。

「今、眷族神様方の働きで今夜の宿を決めましたから、弟子屈町サワンチサップの『ワッカヌプリ』という宿に電話しなさいと連絡を受けました。」

と伝えられた。

「おや、進さんも神業参加していたんだな!
ヒミ殿直ぐに電話してごらん、
きっと大丈夫だろうよ!」

ヒミはGoogle検索していたが、

「ここは良いホテルみたいですよ!
空室があるのでしょうか?」

と言いながら電話した。

「はい、今夜です。
人数は10名で女性が4人と男性が6人です。
突然ですので、空室はありますか?
えっ?
はい、大丈夫ですか?
今日は貸し切りですか?
はい、先程予約がキャンセルになって空室があるのですね?
分かりました。
今摩周湖の第一展望台にいますから、そんなに時間はかからないと思いますが?
それでは宜しくお願い致します。」

と電話を切って言った。

「神様、恐ろしい!
神業だったら、眷族さんを働かせて、私達を助けてくれるんですね!」

「そうだよ、昔の神業の初め頃は予約も予定も決めずに神業に出掛けて、適当に神業を済ませて、宿を探すと必ず宿泊出来ていたもんだよ!」

と芯が言った。
ナビを頼りに今夜の宿泊先のワッカヌプリと言うホテルに到着した。
思ったより、近代的でこじんまりとした屈斜路湖畔の宿だった。

「キナさん、ここのワッカヌプリと言うのはどういう意味なんだい?」

と、芯が訪ねた。

「日本語で言うと『山水』ですかね?
ワッカというのはアイヌ語で『水』です。
ヌプリは『山』です。」

「『山水』ねー!
成程。
ふふん!
チキ君、山水姫の眷族神が働いて、この宿を空けたのかな?」

「さあ?
上は何とも言われていませんけど。」

チェックインしたヒミが言った。

「今、チェックインして訊いたところ、15名の団体予約が急遽、病人が出て、来れなくなったとキャンセルして来たところに私が電話したらしいんです。
ホテルも喜んでいました。」

「チキ君、上に訊ねてくれないか?
少し早いが、今夜、直会(なおらい)をしていいか?と。」

「先生!許可が出ましたよ!

『大いに楽しめ、家祖神業神団も楽しみにしているようだ!』

と言われていますよ!」

「よし、ヒミ君、ホテルの宴会場で直会をするから、宴会準備を頼んでくれないか?」

「分かりました。
交渉して来ます。」

この夜は久しぶりの宴会を芯達は楽しんだのでした。
宴会が始まると、まず、芯はチキ殿に指示して、ここに来ている魂や、存在様に御供えをするように指示した。
チキとヒミ、モモが手伝って、2つの御膳に、今、皆の前に出されているご馳走を少しずつ取り分けて、台の上と下の床の上に分けて備えた。
そして、言霊を出して案内した。
二礼三拍手一礼して、

「ここに只今、お集まりになられておられる御霊様や、御存在様方に申し上げます。
御膳を二つ用意させて頂きました。
今日はまだ神業の途中ですが、神様の許可を得まして、直会をさせて戴いております。
今日はお赦しを得て、皆さんに御供えをさせて戴きます。
水火土研究所関連の神業霊団の皆様、および、台の上で食べることが赦されておられる御霊様や、御存在様はどうぞ台の上の御膳を御使い下さい。
そうで無い方は台の下の御膳を御使い下さい。
三拍手後に御召し上がり下さい。」

チキは二礼三拍手一礼して、

「どうぞ御召し上がり下さい。」

と案内した。

「どんな人々が来て食べているのですか?
チキさん、あなたが観ていることを教えてくれませんか?
先生は観えるんですか?」

「いや、私にも観えないんだ。
チキ君、皆さんに今観えていることを説明して上げなさい。」

「はい、この台の上の御膳には沢山の御霊様方が行儀よくお座りになられていて、不思議ですね!
御膳がその御霊様方の前に、これと同じ物が一人一人の前に出されて要るのです。」

「えっ?この御膳が増えているということ?」

「そ、そう。」

と言ってチキは目をこすった。

「全く同じものですよ!
あっ、村長や、キナさんの御先祖様方もおみえになって御膳を戴かれておられますよ!」

「どんな食べ方をされているのですか?」

「あのね!
御霊様や、存在様方には、物の比率が少ないので、お箸を持つことが出来ないので、クンクンと食物や、水、酒等の気を吸われているのですよ。
だから、物が無くなることはないのです。」

「ああ、それで思い出した。」

と、芯が話出した。

「昔、神業に博多湾の中にある能古島という昔の防人で百人一首の歌に謡われたことがある島に行って、人霊様方のお祭りをした時のことだったが、行く途中でとても良い地酒を購入して行き、それをコップに入れて供えて祭が終った後で、皆でお神酒として一口づつ戴くのが、恒例なので、戴いたら、まるで水になっていて、とてもお驚いたが、その時の老神通司が言ったことは、多くの古い人霊様方が来て皆で飲んでいたので、気が吸われてしまったんだね、ということがあったね!」

「チキさん下の御膳はどうですか?」

「うわー!
皆さん観えないことを感謝されて下さい。
観えない方が良いですよ!
凄い眺めです。
恐竜や、怪物やら、魑魅魍魎が集まって来ています。
もちろん、ゾンビみたいな御霊様もいますよ!
皆さん、死んだら何も食べれないのですね!
神様の赦しが無いと、小川の水も雨でさえも飲むこと、いや気を嗅ぐことすら赦されていないので、今夜みたいに赦された時に喜んで食べて、いや気を吸っているのでしょう。」

「そうですか?
僕も観てみたいな!」

「ちょっと待って下さい。
何ですか?
貴方は?
何処のアイヌの御霊様ですか?」

とチキが下の御膳の人霊さんに声をかけた。

                                                                           ( つづく)