芯達の乗った黒いレクサスミニバンは油山を降りて西九州自動車道に、前原ICから乗って西に向かっていた。


「先生、今日は底津様の挨拶はどうしましょうか?」

とチキが訊ねた。

「私ではなく、上にお伺いしなさい。」

とそっけ無い返事をして芯は外を観ていた。

「ケチンさん、二丈深江から海岸寄りの202号線に入って姉子の浜で一度止めて下さい。」

「了解しました。」

「何か通信が来たかね?」

「はい、先生『寄って挨拶をしなさい!』だ、そうです。」

車は二丈深江から地方道の202号を通って海岸線を走り「姉子の浜」の駐車場で止まった。
この浜は「鳴き砂」で有名だった。
岸壁の階段を降りて砂浜に出ると、真っ青な玄海灘の荒波が大きなうねりで海面が盛り上る様な荘厳な気持ちを持たさせてくれた。
6名は横一列に並んで、真北の彼方にポツンと一つの島が観えた。

「あの島、姫島に向かって挨拶をします。
神業に初めて参加される方がおられますので、モモ、挨拶の仕方を教えてあげて下さい。」

と、チキが言った。
モモが、宮司女史と松浦に小声で説明した。

「まず、二回お辞儀をします。
そして三回拍手して、最後に一回お辞儀をして終わりです。
それを初めと、終わりにおこなうのです。」

「モモさん、三回拍手ですか?二回では無いのですか?」

「はい、三回です。」

「二礼三拍手一礼ですね!」

と宮司女史が念を押した。

「そうです。
理由は後で車の中で説明致します。」

「分かりました。」

「先生、ここは先生が先達ですよ!」

とチキが言った。

「本当か?
そう通信が入ったのか?」

「はい、そうですよ!
末代様が、今度、芯殿に与えられるお仕事は大変重要なことだから、ちゃんと底津姫様にお願いしなさい、と言われています。」

「それでは仕方が無いなあ!」

芯は砂浜にドサリと胡座(あぐら)をかいて座った。

「皆さんは立ったままでいいですよ。」

とチキが芯の横に座りながら言った。

「それでは向こうの姫島に向かって、先生と合わせて一緒に挨拶します。」

   姫島

6名は揃って二礼三拍手一礼した。
先達の芯が発声し出した。

「御無沙汰申しあげて降ります。
この青い玄海灘に浮かぶ姫島に御神在の底津岩根之大姫神様。
神下芯でございます。
本日は令和2年8月23日日曜日でございます。
私達は今から佐世保の弓張岳まで神業に行く所でございますが、チキ殿に通信を頂きましたので、
御挨拶に立ち寄らさせて頂きました。
お陰様で、解雷神社で、御下命を受けての日々の魂元遷り神業のお手伝いは順調に進んでおります。
今回又、新しい御下命が頂けるようで、まだ私は洩れ伺ってはいないのですが、大変難しい神仕組ではないかと密かに想像しております。
どうか、その神業遂行の折は宜しくお力添えをお願い申し上げたく存じます。
とりあえずはこれで御挨拶に変えさせ頂きます。」

二礼三拍手一礼をして待機した。
神様の取り継ぎの体制に入っていたチキが言った。

『芯殿、久しいのう。
新顔もおみえのようで何よりですね!
今回新しい神仕組みでそなたの力を借りることが決まったのは、実は空間の宮の神殿が、神界会議でそなたを推薦されたことによるのです。
新顔の方にも関係することになるので、チキ殿、お二人にも「気の浄め」をして上げて下さい。
そして、解雷神社が本部となることで秘密保持には一番ふさわしい起点となるであろうよ。
私も持てる力は惜しみ無く協力する故、実力を見せて下され。
そなたなら、出来る、人選に間違い無いと思っての根元裁可ですから、よろしく頼みあげます。』

「チキ殿、底津姫様に訊ねておくれ!」

「その神仕組の御下命は何時私になされるのですか?」

『今、東の神が仕組みを進行中だから、そこの姫、チキではなく、モモでもない姫、名は何という?』

「あっ、宮司卑弥子殿です。
後で御挨拶させて頂きます。」

と、チキが言った。

『卑弥子殿、今回の神仕組をまとめるのはそなたですよ!
指揮するのは芯殿ですが、卑弥子殿は強いから大いに活躍期待していますよ。
後お一人の新顔殿、そなたはケチン殿と共に車の車輪になって手助けお願いしますよ!』

「それでは新顔のお二人に御挨拶を御赦し下さい。」

チキにうながされて二人は恐る恐る御挨拶をした。

『この6名が今回の主要な神仕組みの中心人物となるであろう。
秘密保持が必要な仕組み故、心して受けて下され。』

姉子の浜を辞して、6名は西に向かった。

「卑弥子さん、底津姫様が貴女は強いと言われていましたが、何か思い当たることがおありですか?」

「はい・・・・。」

「チキさん、この卑弥子さんは、実は空手の名手なんですよ!
今はもう、選手は止めて師範をされていますが、3年前までは世界選手権の絶対王者だったんですよ!」

「ええ!  空手の王者。
凄いですね!
このケチンさんも柔道の日本チャンピオンだったんですよ!」

とモモが言った。

「いいな。
あっ、そう言えば、松浦君も射撃のオリンピック選手だったよね!」

「いやー、僕はオリンピックでやっと8位に入賞しただけですから、大したことはないですよ!
それに私の力は武器を持たないと発揮出来ないのですから。」

「先生、今度の神仕組みはどうも何か危険な感じがしますね!
このモモもコンピューターの扱いでは全国で優勝したことがあるんですよ!」

「それでは、ソフト構築も出来るのかい?」

「はい、少しは・・・。」

「うむ、神様方は集めたな!
今度の神仕組みは大変かも知れないな!」

「モモさん、さっき、三拍手のことを教えてくれると言っていましたね!
どうして二拍手や四拍手で無くて三拍手なのですか?」

と卑弥子が訊ねた。
モモは少し困った顔をして言った。

「私はチキ様や先生から訊いたことなので、間違っていたら指摘して下さい。」

「モモ、いいわ、私が話ましょう。」

とチキがモモの代わりに話し出した。

「私たち人間が神様と会える場所はどんな時でも、『接界』が出来るのです。
接界構築担当神がおられて、この『接界』に入れば、神様と会えてお話しが出来るのです。
その接界では誰にも何者にも邪魔されることはありません。
それで、その『接界構築』をされる担当神が動かれるのは、三拍手目が鳴らされた瞬間ですよね!先生。」

「ああそうだよ。」

「それで一拍手目は現界、二拍手目は幽霊界、三拍手目が人霊界、四拍手目で神界、に音霊が届くのです。
それで、今まで二拍手しかしていなかった時、ある立教者がいて気が付いて四拍手をしたところ、本当に目の前に神様が現れて驚き、それ以来四拍手をする者達が増えて行きました。
それでその習慣として残ったのが、出雲大社や、宇佐神宮等なんです。
ところが、今まで幽霊界は神様が構築された神界ではなかったが、そのタテカエが終わって今は幽界と人霊界は同じ神界となったので、一つ少なくなって、一拍手が現界、二拍手で幽界人霊界、三拍手目で神界に音霊が届いて、接界に神様を呼ぶことが可能となると、いう訳ですよね。先生。」

「五月蝿いな!
いちいち私に確認することはないだろう?
その通りだよ。
だから、普通の神社で二拍手しかしていないのは、神様と会えて無くて、仏教の世界でいない神様に話かけているのと同じなんだよ!」

「そうでしたか!
よく、分かりました。」

「『祭』とは、御輿を担いだり、神社等に集まって躍りを踊ったりするのではないのですか?」

「あれは、神様と話が出来ない人間達のウサをはらさせる為に偽神が無知な人間に教えた結果だよ。
ほんとうの『祭』とは、『人と神が共にま・つ・り  合う』という意味であって、今の人間界の行っている祭はただのイベントでしかないのです。
それから、神主が拝殿で神妙に巻き紙を広げてのりと称して読み上げているのも、御幣を人の頭の上で振り回して浄めているのも全て神様とは全く関係がない所作なのだよ!」

「えっ!
祝詞(のりと)とは神様に関係無いのですか?」

と松浦が訊ねた。

「今の神主が読んでいる祝詞は神様に自分達の願い事を居もしない神様に向かって、つまらぬ行動をしてただ、そこにいる人間に聞こえる様にしているだけなんだよ。
本当ののりとは、『のり、法、宣、乗の仕組』、『法・則・宣』のプロセスを経て、神顕しの対象神がこれに乗るということなんだよ。」

                                                                             (つづく)