役人達が居なくなると、男のところ行き、尋ねた。

「お前は本当に金国の間諜なのか?」

「いいえ!
とんでも無い。
私は金国の商人でこの南宋に金塊を売りに来た者です。」

  古い中国の金塊

「何?
金塊!
見せてみろ!」

「すみませんが、貴方方は?
どちらの国の方ですか?」

「私達は倭国、日本の博多の商人で、南宋の皇帝に朝貢しに来た者だ。
それに金塊も購入したいと思っている者だ。」

「そうでしたか!
それでは私達の金塊を買って下さい。
助けて頂いたお礼に安くいたします。
それにこの南宋の市場を通さずに直接売買すれば、南宋に手数料を支払わ無くて済みますから、とても徳ですよ。」

「分かった。
お前達はどの位の量の金塊を所持しているのか?」

「どの位お望みですか?
必要な量を用意出来ると思いますが!」

「お前の国では金を掘っているのか?」

「はい、私も掘って金鉱石を溶かして金塊を造っていました。」

「お前は金を造れるのか?」

「はい、もとは錬金術師でした。」

「名は何という?」

「はい、錬(ネリ)と言います。」

「そうか?
錬よ、王冠を2つ造る為の金塊を用意出来るか?」

「はい、直ぐに親方に連絡して用意いたします。」

「それから、親方に会わせてくれないか?他に相談したいことがあるから!」

「分かりました。」

こうして国命達は南宋の皇帝に朝貢することを諦めて、金塊を調達することだけを目的としたのでした。
二日後、錬から連絡が来て、翌日、この宿に訪ねて来ることになった。

錬が重そうな袋を抱えて恰幅の良い男と旅籠に訪ねて来た。

「お待たせいたしました。
金塊をお持ちいたしました。」

「これはご苦労さん。
私は倭国日本の博多網首の謝太郎国命と申します。
こちらは倭国日本の大宰府政庁の武藤資頼少弐様です。」

「これはどうも、私は金国の金塊商人の長の夏貴(カキ)と言います。
今回は金塊をお望みだと、有難うございます。」

「金塊を持参いたしました。」

と錬が重そうに肩に担いでいた荷物を降ろした。

「私達は翡翠石を持参して来ているのだが、この金塊と交換してくれるかな?」

「翡翠ですか?
御見せ頂けますか?」

奥から国末が翡翠の原石を二塊持参して来た。

「この翡翠とこの金塊の交換ですね!
結構です。
交換いたしましょう。」

交易は無事終わった。
この時、国命が夏貴長に言った。

「夏貴長殿、もう一つ交換して欲しいものがあるのだが!」

「何でしょう?」

「この翡翠の原石をあと10個程出すから、この錬殿を我が国に連れて帰りたいのですが!」

「この錬を連れて帰る?
それはまた何故でしょうか?」

「うむ、我が国にも金鉱石が出る所があるのだが、錬金術を修得した者がおらず、この錬殿を連れて帰って、我が国でも金塊を造りたいのじゃ。」

「成程、この錬は最高の技術者です。
謝太郎様が仰る通り、金鉱石があればこの男ならば、金塊を造ることが出来るでしょう。
錬、お前は倭国に行くことは嫌では無いのか?」

「・・・・そうですね!
命を助けられた恩もありますし、倭国は魅力のあるような国のようですし、良いですよ!」

「そうか、良かった。
錬殿が来てくれるならば、この南宋まで来た甲斐があったと言うもんだ!」

と武藤少弐も喜んだ。
夏貴長は錬を置いて翡翠の原石10個を懐に入れて喜んで帰って行った。

「錬殿、そなたは家族は居ないのか?」

「はい、私は孤児であの夏貴長に育てられて、内モンゴルの鉱山で働かされて、技術を修得した後、商人として連れて来られた者でして、誰も家族はいません。」

「そうか!
歳は幾つになる?」

「はい、多分今年で22歳になるはずです。」

「よし、分かった。
国末、お前の新しい弟だ!
面倒をみてやってくれ。
錬殿、この国末は私の弟だ。
今日から、私達は兄弟として助け合って行こうな!」

「有難うございます。
嬉しいです。
私にも兄弟が出来た のですね!」

錬は本当に喜んでいた。

                                                                            (つづく)