フイクション小説「神霊捜査」第五部『赤い目の牛』(前編)第一章〈詐欺事件〉P1

(1)  捜査協力依頼

今日は朝からマスコミが五月蝿く、新聞もテレビも詐欺事件と殺人事件で、報道合戦をやっていました。
五島の携帯電話に着信があった。

「はい、五島です。」

「先輩ですか?  只野です。」

「ああ警視総監。
・・・・・・久し振りだね。
元気そうで何よりだ!」

「先輩のお陰で、神霊捜査課も上手く行っているようでありがとうございます。」

「いやいや、彼等が頑張っているからね、私も遣り甲斐があるよ。
でもまたこんな仕事を再開させるとは思って無かったよ。ハハハハ。
今日はどうしたんだい?
何か問題でも起こったかね?」

「実は、今朝のニュースを観られたと思いますが、油羅畜産牧場詐欺事件のことに関係して別の難解な事件に発展しそうなんです。
内容は神霊捜査課長から説明させますので、又、宜しく彼等を指導して頂きますよう、お願いしたいと思い、久し振りに先輩の声も聞きたくてお電話しました。」

「うん、私も君の声が聞けて、昔の東京の警視庁のことを思い出して、この老体に力が湧いて来るような気がしたきたよ。」

午後になって神霊捜査課の本郷課長から連絡が入り、捜査会議を開きたいから、起こし頂けないかと言って来た。
車の迎えをよこすからというのを、歩く方が身体によいからと断り、歩いて、博多南西署に向かった。
今日の会議は博多南西署の会議室で、おこなわれ、大勢の署員が参加していた。

伊藤署長が挨拶をして会議が始まった。

「今から、油羅畜産牧場詐欺事件に関する県警全体会議を始めます。
今日は県警本部から、本部長の堤警視正殿がおみえです。
今回の事件の関連全般の捜査指揮を執られることになっております。
それでは堤警視正殿から挨拶をして頂きます。」

「エヘン! 堤です。
今回の捜査は只野警視総監から直々のご下命で、県警全体だけでは無くて日本全国の警察庁挙げての大捜査となっております。
福岡県警の実力を、全国に知らしめることに最適な機会だと考えています。
諸君もそのことを心掛けて捜査に全力を集中することを希望します。」

五島は、

「雛壇に席を用意しておりますから、前に座って下さい。」

と、本郷課長が言うのを、断って、一番後ろの席に雫と並んで座っていた。

「今回の事件の概要を、再度、戸張捜査一課長から説明して下さい。」

戸張の説明は概略次のようなことであった。

東京の牧畜大手生産会社油羅牧場が、黒毛和牛一頭持ち主制度で、資本参加者を募った。
当初は順調な参加者が集まり、53,000人の投資家から3,000億円の金を集めた。
社長や、会社幹部が各地で、説明会と、派手なパーテイーを催して、投資家を集めたのであった。
しかし、何の前触れも無く、突如、会社更生法の適用申請をしたのです。
それと同時に、本社を始め、全ての支社を閉鎖して誰も居なくなったのです。
債権者である投資家達はパニックとなった。
どこに押し掛ければ良いのかさえわからず、右往左往するだけとなった。
マスコミは、社長や、会社幹部を追った。
詐欺事件として告訴状が出され、警察庁も動き出した。
そんな矢先、長野県田城原高原の油羅牧場の牛が牛刀で首を切られているのが、発見されたが、胴体はあるが、首が無いという事件が起こった。
村役場所員や、巡査が捜索していたら、田城高原の山林で、人間の遺体が発見された。
不思議なことに、この遺体にも首が無かった。
遺体の身元を隠す為の工作とは思え無かった。
指紋検証とDNA検査で、遺体は油羅畜産牧場の大薮社長と判明した。
これと同じ頃、九州阿蘇山のカルデラ内のが赤牛牧場の中で、牛の首と、又、首無し遺体が発見された。
牛の首は、黒毛和牛で、目がくり貫かれ、血で真っ赤に染まっていたとのことで、検証の結果、長野県田城高原牧場の首無し黒毛和牛のものと判明した。
この怪奇殺人事件にマスコミは騒いだ。
マスコミの調べで、会社再生法申請と同時に、長野の牧場は無人となり、牛達は誰でも牧場から連れ出すことが出来たとのことで、牛殺しの犯人は、誰も見て無くて、社長の事件も、目撃者は無く、何も証拠らしいものも無く、斬り口から、社長の遺体から首を斬り取ったものは、牛刀であるということだけは判明した。
ここまでの社長の足取りも分からず、使用していたワンボックスカーの車も見当たらなかった。
阿蘇山で見つかった、副社長の首もやはり牛刀で斬り取られていた。
この阿蘇山の現場で社長の車が乗り捨てられていて、車の検証から、社長と副社長の他に後二人の不明な指紋が検出されていたことが判明した。
又、車の中から牛の血のついた大きな段ボール箱と、綺麗な段ボール箱の2個が見つかっていたことも報告されていた。
果たして、二人の首は何処に消えたのか?
怪奇殺人事件とマスコミが騒いだ。
そして巨額な3,000億円という金は一体何処に消えたのか?
3,000億円といえば、1万円札で30屯以上の重さになり、簡単には移動させることは出来ない筈で、何処に行ったか見当もついていなかった。

  これで10億円

                                                                                (つづく)