近藤補佐は直ぐに動いた。

ザ、ゲン特殊部隊内で養成していた諜報部員10人を派遣した。
この10人の諜報部隊には3人の女性隊員がいた。
内訳はイギリス人とチェコ人と台湾人だった。
イギリス人はイギリスの諜報部からの出向者で、チェコ人も元ソ連諜報部の経験者で台湾人は台湾公安部からの出向者だった。
この部隊の係長は王国明という台湾人だった。
彼等は中国を取り巻く国々に別れて潜入した。
香港は王係長とフランス人男性のミール、シュミットと台湾人女性の李美麗が潜入していた。
北朝鮮には韓国人男性2人、ネパールにはインド人男性2人とイギリス人女性1人、カザフスタンにチェコ人女性1人とイギリス人男性1人、モンゴルには日本人男性2人がそれぞれ潜入してスパイ活動をした。
中国国内には危険という事情で、入らず、必用に応じて、ネパールやカザフスタン、モンゴルから中国に国境を越えて潜入する予定とした。
それに、イギリスの諜報機関やアメリカのCIAの中国情報を共有していた。
千都のところにはこれらの諜報員達から、色んな情報がもたらされてきた。
千都はその内から重要と思われる情報だけを集めて今回の事件との関係性を調べ続けた。

北朝鮮に潜入した諜報員からこんな情報がもたらせられた。
北朝鮮の国家保衛部の将校に上手く取り入り、金で得た情報として、習近平中国国家主席の性格を将軍様の命令で調査したところ、とても根深い執念の持ち主で、普段は物事に執着しない様な態度をしているが、内実は、とても懐疑的な性格であって、秘かに策を巡らす人物であると決めつけて、将軍様も気を付けて対応しないと危険だと感じているということだった。
この情報を得て、千都は直ぐに、秘書の悦子に命じて、モー元総裁と習近平とのこれまでの確執を調査させた。
すると、今回の事件に関係がありそうな事実が浮かび上がった。

現在の中国の習近平(シーチンピン)国家主席はこの地位に上り詰めた時、当時の対立相手で、4年前に失脚した元共産党最高指導部メンバーの周永康(チョウヨンカン)受刑者(収賄罪で無期懲役)の悪影響を一掃し、党内の政治的背景を明らかにした。
モー氏は周受刑者が公安相時代に次官に昇進した側近の一人と言われた。
党内事情に詳しい関係者によると、モー氏は周受刑者の事件当時、周受刑者らを厳しく追究する姿勢を見せて、いったん許された。
しかし、その後習指導部への批判を周囲に漏らすようになり、政治的姿勢が問われることになったと見られている。
中国国内では周受刑者がまだ失脚する前にモー氏がICPO中国国家センター局長に就任していた。
国家海洋局副局長、中国海警局長等も兼務していたが周受刑者が失脚した後も何故か習指導部はモー氏のICPOの総裁に選出されることを黙認していたが、国内的には、国家海洋局副局長や中国海警局長の職を解かれ、その後、公安省の党委員も解かれていた。

千都は考えた。
何故、習指導部はモー元総裁がICPOの総裁に着くことを黙視して今ごろになって、こんなことをするのかと不思議に思った。
そこにネパールに潜入していた諜報員から情報がもたらせられた。

「中国政府はテロリストと批判する亡命ウイグル人組織『世界ウイグル会議』主席の国際手配を申請していて、新疆ウイグル自治区で統制を強めている。」

  世界ウイグル会議

とのことだった。
このことをベンに問い合わせると、モー元総裁がこの中国の亡命ウイグル人組織『世界ウイグル会議』主席の国際手配を取り消したとの情報を得た。

「そうか、それで、国際的に人権や法治で批判の多い中国出身の総裁誕生に懸念も相次いだのに、大金をこのICPOに寄付して勝ち取ったポストを中国自ら手放したのには、国際的批判よりも国内の批判分子達を放置出来ない事情があったんだと判明した。
千都はベンにこの情報を報告したすると、

「そうだったのか、よく調べてくれた。
それから、盗聴されていることを知っていてよく中国に誘拐されたことを話してくれた。
千都、感謝するよ。
その話をしなかったら、モー元総裁の命が危なかったかも知れなかったんだ。
実は、モー元総裁が行方不明になった直後に奥さんにモー氏からメールが届いていたんだ。
その内容は『電話するから待っててくれ』という事で言葉に続いてナイフの絵文字が送られていたんだよ。
何れにせよ、ご苦労さん。」

                                                                           (つづく)