ーーこの小説は前に掲載したフイクション小説『墓場の商人』の続篇ですので、人間関係や物語の構成は前編を参照して下さい。ーーーー

ICPOのベン・葵局次長からシンガポールのIGCI室長の乾千都に緊急連絡が入った。

「ベン、どうした、何かあったのか?」

「ああ、それがモー総裁が誘拐されたようなんだ!
一昨日の夜から行方不明なんだ。
奥様も心配されておられる。
どうも夜、散歩にSPを2人連れて出掛けられたまま行方不明になられているんだ。
SP2人も共に行方不明なんだ。
ゲン・システムで何か解らないだろうか?」

「分かった。
直ぐに3人の写真を送ってくれ。
ゲンシステムで当たらせてみるから!」

「頼む。
天下のインターポールの重大事件だよ。
インターポールの総裁が誘拐されたということを世間に公表すべきかどうか迷っている所だよ!」

「公表は少し待っていてくれ。
ゲン・システムで調査してからでも遅くは無いだろう。」

直ぐにモー総裁と2人のSPの顔写真が送られてきた。
千都は石橋技官に直ぐにゲン・システムでこの3人の行方を調査するように命令した。

「乾室長、最近、中国からの監視カメラの情報が時々、遮断されたりしていて、可笑しいなあと思っていた所です。
もし、この3人が中国本土に入ったとすれば、発見は難しくなると思いますよ。」

と石橋技官は言った。

「そうか、分かった。
ゲン・システムで捜査してみて、発見出来ない場合は奥の手を使うしか無いな!
石橋技官、君の得意の方法があるではないか!
今回はその手を使っても、何としてでも捜し出さねばここの存続の意味が無くなると思う。
いいな!  頼むぞ!」

「分かりました。」

翌日、石橋技官から報告がきた。

「ゲン・システムで発見は一部だけ分かりましたが、最終的には消えてしまいました。」

「消えた?
どういう意味だね?」

「はい、3日前のフランスのリオンの公園の防犯監視カメラでモー総裁と2人のSPの姿を確認しています。
ゲン・システムは現在7日前までは遡って記録された写真を視ることが出来る様にシステム更新していますので、それで確認しました。
その時、近辺で5、6人の東洋人らしき男達の姿も確認しています。
その後の動きは2台の黒いワゴン車が動き出した後は総裁達の姿が消えていました。
車の航跡を追究して、1台は中国大使館に入り、あとの1台はリオン校外の沼地に行っております。
その後は監視カメラが無くて、行動は不明ですが、夕刻この車も中国大使館に戻ってきています。
その翌日、中国大使館員が3人と顔を隠した輪郭がモー総裁によく似た男の4人が中華航空便に搭乗したことまでは掴みましたが、中国国内の監視カメラが現在4日間遮断されていて、ゲン・システムでは捜査出来ていません。
後は、私が個人的にハッカーしてみますので、少し時間を下さい。」

「了解。
元、ホワイトハッカーの君なら、中国国内に侵入すること位は朝飯前のことだろう。
頑張ってくれたまえ。」

    ホワイトハッカー

千都は早速、ベンに電話した。

「ベン、リオン校外の沼地を捜査させてくれたまえ。
おそらく、2人のSPの亡骸が出てくる可能性があるから。」

「そうか、了解。
総裁の行方は解らないのかな?」

「総裁の行方はあるところまでは掴んだのだが、まだ発見には至っていない。
後少し時間をくれたまえ。」

翌日、ベンから、SP2人の射殺遺体を発見したという報告がきた。
石橋技官は一生懸命に中国国内の監視カメラに侵入の為の操作を続けていた。
世界中の国を経由して対象国中国と友好関係するある国を最後の中継国に選んでの侵入操作だった。
半日かかってやっと侵入してゲン・システムに繋いで、捜査開始がされた。その結果、やはり、北京空港でモー総裁が入国したことをキャッチした。
千都は考えた。
このまま放置しておけば、モー総裁の命にかかわる懸念がある。
モー総裁を守るのは、世界中に中国政府がモー総裁を自国に強制的に連れ帰ったことを公表するしかない。
そうすれば、モー総裁に何かが起これば、世界中からの批判を受けることになるから、変な真似は出来ないだろうと思い、盗聴されていることを承知でベンに電話した。

「ベン、分かったぞ!
モー総裁は中国政府が強制的に帰国させていて、今は中国公安省が身柄を確保していることが分かったよ。
何らかの嫌疑で取り調べているようだ。!」

と伝えた。
その翌日、何と、モー総裁からICPOに総裁辞任届けが提出されたのでした。
理由は個人的な理由とだけであった。
任期4年の半分2年を残して突然の辞任だった。

「どうも辞任の理由がはっきりしないなあ!」

とだけ言ったベンの内意を察して、千都はザ、ゲン特殊部隊の近藤補佐を呼んで議論した。
千都の話を聴いていた近藤補佐が言った。

「それでは、モー総裁が何で中国政府に強制帰国をさせられて、なぜ総裁辞任をせざるを得なかったのかを捜査させましょうか?
この間、隊長命令で作った諜報部の隊員達もだいぶ育っておりますので、今回の事件は実力を計るには持って来いの事件ですよ。」

「よし、やってみてくれ。」

その日の夕方、中国政府は突然世界中に情報を発表した。
その内容は

「中国政府の公安省が国際刑事警察機構のモー総裁を収賄容疑で逮捕拘束して捜索している。
モー氏はICPOに総裁辞任届けを提出した。」

というだけであった。
中国国内ではその報道を受けて、

「世界の笑い者だ。」

とか、

「今後、中国人が国際組織の要職に就くのは難しくなるだろう。」

と中国ネット上ではモー氏の失脚について、こんな書き込みが相次いだのでした。

                                                                              (つづく)