千都は直ぐにインドネシアの権田係長にゲンシステムの中国船シフトを命令した。

国連では中国大使に事情聴取したが、中国政府ではそんなことをした覚えが無いときっぱりと拒否した。

数日後、中国遼寧省の丹東市の港を出た貨物船が黄海を出て東シナ海を通って深セン市の港に寄って、その後フィリピン海を南東に向かいミクロネシア連邦からキリバス近郊の海を一回りして、魔の海域にしばらく停泊して引き返して元の中国黄海に戻って来るという意味の判らないコースをたどった航跡が発見されたのでした。
始めは北朝鮮の瀬取り船ではないかとの疑いがあったが、魔の海域以外では何処の海でも他の船との接触は無かったので、不思議だった。
ゲンシステムは直ぐにこの船の所属を割り出した。
それは中国吉林省延吉市の朝鮮民族自治区の自警隊の所属の船と判明した。
問題は深セン港で何を積み込んだのかであった。
船の喫水の上下で積み荷があるかないかを判定しているゲンシステムでは、深セン港で何か積み込んで、魔の海域に停泊中に何かの積み荷を降ろし、黄海の丹東港に戻って来た時は積み荷は無かったことを示していた。
このことはインターポールのベン葵総局次長に知らされた。
早速、ベンはイギリス諜報部とアメリカのCIAに知らされ、そこの諜報員が中国内で、吉林省の朝鮮族自治区の自警隊の調査を強めたのでした。
その行動を察知した中国共産党中央統一戦線工作部が独自で自国内の朝鮮族自治区の自警隊の動きを調査した。
その結果、確かに丹東港より、公船を出向させたことが判明した。
ただ、それは中国上海市のある豪商からの要求での出港だったということがわかった。
その豪商は中国共産党の中枢部のある政治家と関係が深いことがわかった。
その政治家は中国国内の電力生産部門を束ねる高官であった。
原子力発電を推進して来た功績は大きかった。
しかし中国国内でもやはり、核廃棄物の処理方法を巡って、議論が錯綜していた。
そしてこの豪商は日本の穀物商社みたいな取引をしていて、穀物の先物取引に莫大な資金を注ぎ込んでいたことが判った。

ベン次長から電話が千都にかかって来た。

「乾室長、何時まで、福岡で休んでいるつもりだい?
そろそろ、IGCIも忙しくなるからシンガポールに戻ってくれないか?」

「分かった。来週早々にはシンガポールに戻るよ。
それで、中国の豪商をどうするか、インターポールとして方針は決まったのかな?」

「うん、決定した。
だから君がシンガポールにいてくれなくては困るんだ。」

翌週、千都は権田係長とまた入れ替わりで、悦子とシンガポール入りした。
IGCIで千都は石橋技官から、ゲンシステムの調査情況を詳しく聴いた。
その結果、中国の豪商が地球環境を支配して、穀物相場を動かそうというとんでもない計画を実行するために、中国国内の核廃棄物質を太平洋の南の魔の海域に運んで不法投棄して、テストをしたと断定出来る資料が揃っていたのでした。
そして次は大西洋のハリケーン発生場所に核廃棄物を放棄して天候不純を起こさせて、アメリカ大陸の穀物生産に邪魔をする行為をする可能性があるとインターポールは判断したようであった。

「石橋技官、次に不審な船を発見した時は直ぐに知らせてくれ。」

と念をおして、ベンに電話した。

「ベン、シンガポールに戻って来たよ。
今度、不審な船を発見した時はザ・ゲン特殊部隊を出動させて拿捕していいかい?」

「ああ、そうしておくれ。
連絡をくれれば、国連には私の方から報告をするから。」

「了解した。」

1ヶ月後、遂にまた不審船が動き出したのがゲンシステムにキャッチされた。
千都は直ぐに近藤隊長補佐官に指令を出して、ゲン特殊部隊をが何時でも出動出来るように待機させた。

「やはり、中国の丹東港を出港した一隻の商船は黄海を南下しだしました。」

と石橋技官が報告して来た。
千都はゲンシステムの捜査指令室に陣取り、大型モニターの赤い印の点の動きを見守った。
今回は浙江省の台州市の軍港に入り、荷物を積んだのでした。

そして東に向けて出港した。
太平洋を横断する航路に入った。
千都はベンに電話した。

「また不審船が動き出したが、今度は東に向かっているようだから、アメリカを狙うつもりの様だが、どうしようか?
大西洋にはいらせない様にパナマ運河で拿捕するか、それとも、大西洋に入ったところを確認して拿捕するか?」

  パナマ運河

「動きを確認する意味で、大西洋に入ったところで拿捕してくれ。
そうすれば、もし、核廃棄物質を積んでいれば、アメリカ海兵隊に処理を頼めるから。」

「了解した。」

千都は直ぐに先発隊をパナマ運河に送って、パナマ運河を通過時に荷物から出る放射能の測定を指示した。
同時に遅れて、2個小隊のベン特殊部隊をグアンタナモ米軍基地に輸送機で派遣したのでした。

   グアンタナモ米軍基地

                                                                                    (つづく)