「先ず、フランスのICPOのベン・葵事務総局次長から、現在の状況を説明して頂きます。」


「只今紹介を受けました、私はICPOの総局次長をしておりますベン・葵です。
顔馴染みの方や初めて御会いする方もおられますが、今日の会議は世界の平和について非常に重要な事項を協議するつもりですので、どうぞ遠慮無い意見を聞かせ下さい。
また、日本の警察庁警備局特殊公安課の皆様にお出で頂いたのは、私が今回の事項の総責任者と決められた時に、初めに一緒に御仕事をしたいと参加要請の許可を局長にお願いして、直接日本国警察庁警備局長に申し出て頂き、快くこうして参加して頂いた訳でございます。
協議の内容を申し上げます。
今回は『死の商人』と言われる武器商人の件です。
もう皆さんはご存じの方もおられると思いますが、有名な武器商人だったロシア人のビクトル・ブートが先日我々ICPOの手配を受けて、タイのバンコクでタイの警察に逮捕されて、今、その処遇を各国が争っていますが、そのビクトル・ブートの跡をついだ人物が既に不穏な行動を起こしておりまして、我々ICPOや国連職員の行動をきめ細かく追尾しておりまして、今朝も私はその組織に雇われた殺し屋に狙われたところでした。
幸いなことに、ここに出席頂いております乾課長の部下の中野秘書殿が助けてくれて、かすり傷で済んだのですが、これから皆さんも狙われる可能性があるので注意して頂きたいと思います。
話が反れましたが、ビクトル・ブートの跡をついだ人物は本名をグリゴリー・ゲーニアと言って、通称が『死の商人ゴーラ』と言われている男で、長くビクトルの元で影の取引を担当していた男で、彼もまたビクトルと同じで、現在はロシア国籍となっています。
ソ連連邦が崩壊した折りに、ビクトルと組んで、ソ連の古い輸送機を安く購入して、輸送会社を設立し、その後、ロシアのKGB工作員を雇い、軍需産業やプーチン政権の官僚達と親交を結び、カラシニコフ銃から戦闘機、戦車までを秘密裏に紛争のある世界中に密売していて、その輸送費を高額にして儲けている売人なんです。
最近では、ビクトルと組んで、アフリカのリベリア、アンゴラ、シェラレオネ、アフガニスタン、イラク、南米コロンビア反政府組織等、時には対立する両方に武器を売り付けていたんです。
今、世界中には5億5千万丁の拳銃が出されています。
これは拳銃所持を認めているアメリカの様な国があるから、そこから紛争地区に出るのは仕方無いとしても、拳銃だけでなく、地対空ミサイルまでもがこの武器商人によって世界中にばらまかれている実体は阻止しなければ世界の平和は守れないと思います。
それで、この組織を我々が完全に壊滅に追いやる為に皆さんに努力して貰いたいのです。
その為に、ここのIGCIが彼らの行動を通信だけでなく、偵察衛星を加えた追尾機構を開発して、現在、この武器商人達が所有している50機の輸送機と数千台の貨車に、我々ICPOとある国の情報機関が組んで、KGBと争いながら、秘かに特殊に開発した小型の位置検出装着SICKを取り付けているところです。
それの監視をここで行って、奴等が行動を起こした場合は直ぐにICPOとして、破壊活動を乾課長に取って頂きたいのです。
その中心的な手配は中野悦子秘書殿にして頂き、現地の破壊活動が終わったら、乾課長と共に中野洋子研究員が確認に行って貰いたいのです。
そして私の元に報告して頂きたいのです。」

「私はどうすれば良いのですか?」

と石橋技官が訊ねた。

「ああ、すみません。
忘れていました。
石橋技官には、ここの通信追尾機構の中枢部の指導をお願い致します。」

「ベン、こんな重要な役目を我々日本人だけで行って良いのかい?」

「ああ、そうだね!
実はこのことは国連の加盟国全部でやるべきことだろうが、なにしろ、加盟国の多くが、この問題の関係国なので、一番利害関係が少ない優秀な国は日本しか無くて。
秘密保持の為にも君達にお願いすることになったのだよ。」

「大体分かったが、総指揮はベン、君がとるのだろう?」 

「いや、申し訳無いが、私は顔を知られているし、所用でフランスに戻らなければならないので、千都、君に頼みたいのだが!」

「私で良いのか?」

「君が適任だ!
君しかいない。
頼むよ、千都。!
トミー・アーノルド次長、これからこの乾千都課長がこの事件の総指揮者になることは了解して頂けるでしょう?」

「もちろんです。
葵次長が決められたことに意義はありません。
乾課長、これから、ここを貴方方の本部と思って使って下さい。」

こうして、一応今日の会議は修了した。
その日の夕方、ベンと千都達はアーノルド次長の歓迎晩餐会に呼ばれていた。
マリーナベイサンズのワク・ギンというこだわりの食材を用いた味わい深いデイナーを戴きながら、多いにベンと千都は語りあった。
もちろん、そこには、悦子と洋子の二人の顔もあった。

    シンガポールマリーナベイサンズの日本レストラン「ワク・ギン」

                                                                                          (つづく)