「友香、ちょっと悪いけど、純一さんを呼んで来てくれない?
最近純一さん、こんなものに興味を持って勉強しているみたいだから!」

「分かったわ。
呼んで来る。」

純一が来て、銅鐸を大事に持ち上げて、観いっていたが、

「この銅鐸どうしたんだ?
これは弥生時代の奴国の須久岡本遺跡で造られた小型銅鐸だよ!」

「それで、『舌(ぜつ)』って何なの?」

「『舌』はこの銅鐸の中にぶら下がっている小さな青銅の棒だよ。
紐で吊るされていて、揺れると、銅鐸の内側に当たって音を出すんだ。」


       銅鐸の舌

「なるほど、それで分かったわ。」

「これどうしたんだ?」

「この宗像大島の近海で網に掛かったんだって。」

「ふーん、そうすると、僕の予想だけど、
この銅鐸は阿曇族の船で何処かに運ばれる途中に船がこの近海で沈んだものだと思うよ!」

『その通り。
私は女王様の所に送られるはずだったが、神風で船が沈んで、海底で永い間、捨て置かれ、運よくこの島の漁民の網に掛かり、引き揚げて貰ったが、その後、誰も私の気持ちを理解してくれる者に出会わずに飾られたままであった。
せめてもの幸せは、海の中で朽果てる事だけは避けられたということだ。
待てば、このように私のことばを理解してくれる人間に会えたからな!』

「申し訳ありませんが、広い海の中からあなた様の舌を探すことは無理だと思います。」

『何か方法は無いか?』

「もし、新しいもので良ければ、造る事は出きると思いますが!」

『多少、私の音霊の音色が変わるけど、無いよりは良いだろう。』

「純一さん、これの舌を新らしく造ることは出来ませんか?」

「どうだろうか?
銅の純度等が少しは変わるかも知れないが、造ることは出きると思うよ。」

『それでは造ってくれませんか?』

「この銅鐸を工場まで持って行かなければならないけど持ち出すことは出来ますか?」

「当然大丈夫ですよ。
私が戴いたものですから。」

「うん、詩織ちゃん、この銅鐸さん、しばらく私が預かっていて良いかしら?」

「ええ、咲良さんだと、心配無いから、お役を果たして何時か戻って来れば良いから、お願いします。」

披露宴は民宿山田の二階の広間二間続きの部屋で多くの人達の参加で執り行われて行きました。
夕方6時のフエリー最終便で新婚夫婦は明日朝からの新婚旅行に行くために、今夜は博多駅前のホテル日航福岡に宿泊するとのことで、吾味家一家や友香と同行したのでした。
純一だけは太一にひき止められて、夜通し酒盛りをすることとなったのでした。

「純一さん、明日、帰ってくる時に、銅鐸を持って来るのを忘れないでよ!」

と咲良が念を押して言いました。
そして、一週間後に銅鐸は新しい舌を提げて、咲良の所に純一が届けたのでした。
咲良はお牛様の横に飾ってみました。

『咲良殿、しばらくの間、時間を頂きたいのです。
新しい舌と馴染むまで、よろしくお願いします。』

と銅鐸が頼んだので、ほったらかしにしておきました。
4、5日後、銅鐸から声が掛かった。

『咲良殿、畏れ入るが、そこの人祖之宮の神様に赦しをもらってくれませんか?』

「何の赦しですか?」

『私が女王様の所に行くことです。』

「女王とは何処の何方ですか?」

『弥生時代の女王とは卑弥呼様に決まっているでしょう?』

「あら、壱与様も居られたでしょう?」

『あの方は倭国連合が決めた女王様ではありません。
伊都国の一大卒が決めた女王だから、本当の女王とは違います。』

「分かりました。
それでは邪馬台国は何処にあったのですか?
現代の考古学ではまだ、邪馬台国のあった場所が比定(ひてい)されていませんから、分かりません。」

『だから、人祖之宮の神様にお伺いしてみて下さい。』

「人祖之宮の神様が知っておられるとでも言うのですか?」

『はい、ヤチチ様に聴けば判ると思います。』

「ヤチチ様?
初めて聴くお名前ですね?」

『実は、大変高貴な神様ですから、粗相の無いようにして下さい。』

「分かりました。
訊ねてみましょう。」

咲良は振り向いて、人祖之宮に三拍手してお伺いをしてみた。

「人祖之神様、人祖様。
弥生時代の銅鐸が邪馬台国の卑弥呼女王の所に行きたいと言って要るのですが、どうしたものでしょうか?
ヤチチ様と言われる神様に聴けば邪馬台国のあった場所が判ると申しているのですが?」

「うわー。」

咲良は突然目に前に現れた老婆に驚いて腰を抜かして、尻餅をついた。

『咲良殿、脅かしてごめんなさい。
私が人霊の「ヤチチ」です。』

その老婆の姿はボロボロの貫頭衣に緋色の腰紐を結んだみすぼらしい姿だった。

『私は、今から1770年程昔の伊都国に生まれて途中から婢に身分を落とされて生涯を終えた女奴隷の人霊です。
最後は邪馬台国から命からがら逃げて、ある村の村長に匿われていたのですが、邪馬台国の捜索隊の兵隊に捕まり斬り殺されて、人霊となり、村の近くの神社の神木に身を寄せていました。
私で良ければ案内するが、いかがじゃな?』

「畏れ入ります。
少し、お待ちいただけますでしょうか?」

咲良は振り向いて、銅鐸の懸かっている念に話した。

「ヤチチ様が連れて行って下さるそうだが、いきますか?」

『はい、ぜひお願いします。』

「それではヤチチ様、案内よろしくお願い致します。」

『分かった。それでは、私とその銅鐸の念を入れるフイルムケースを二つ用意して神塩を満たして下さい。
私も、その銅鐸の念もその中に入って行きましょう。』

「分かりました。
それでは、人間は誰と誰が行けばよいでしょうか?」

『そうじゃなあ?
弥生時代に詳しい者と運転が出きる者が良いであろう。』

                                                                               (つづく)