純一から電話がかかって来た。


「良二さんの返事はどうでした?」

「それがね。
太一が呆れていたよ!」

「何だって?
勿体ぶらないで、早く聞かせてよ!」

「良二君、今年はみあれ祭の御座船なんだって!」

「御座船って?
神主さんや神様を運ぶ船のこと?」

「神様もやるわねー。
ちゃんと当番になる様に仕組んでおられたのね!
それで何て言ってるの?
良二さんは?」

「初めは拒否していたようだが、詩織さんに説得されて、やっと了解したみたいだよ。
ただし、条件付きだけどね!」

「どんな条件よ?」

「後の船室から出ないで、出きるだけ、人に会わずに、男装して隠れていること。
と、後一つ。」

「後一つは?」

「結婚すること!」

「私が良二さんと?・・・・。」

「ばーか。
詩織さんがだよ。!」

「でしょうね!驚いたわ。
一瞬考えちゃったわ。
私、どうしようかと。」

「そんなことを俺が赦すはずが無いだろう!   ばーか。」

「それ、どういう意味ですか?」

「い、いや、何でもないよ、ハハハハ。」

これで決まった。
二日間、男の格好に変装して船に乗り込むことになった。

9月28日朝、市杵島姫神が姉姫の沖ノ島の田心姫神を迎えに行き、宗像大島の中津宮の湍津姫の所で休んで、10月1日に辺津宮つまり宗像大社に御神行するのである。
ここでも神界の事実を巧妙にねじ曲げられている。
姉妹の場所が逆である。
本当は、一番上の姉である市杵島姫神こと天照比売之大神が、苦労をかけた二人の妹神を迎えに行くのが、正しい御神行なのであった。

その御神行の日が来た。
咲良は前日長かった髪をバッサリと切って、ボーイッシュな髪型にして、化粧もしないで、素顔になって、少し、汚れを顔に付けて野球帽を被って、純一と友香を誘って宗像大島を訊ねた。
民宿山田を訪ねると、太一も来ていて、詩織と出迎えて、目を丸くしていた。


「まあ、いいだろう。
どうにか男に見えるかな?」

9月28日朝、早くから、あと二隻の御座船と回りを取り巻く500隻もの漁船団に囲まれて、神湊に入港して、宗像神社の神職達を乗せて、沖ノ島に向かった。
その少しの間に神湊で、咲良は持参してきたフイルムケースの神塩に天照比売之大神様を招きいれた。
良二の船には神職達の他に太一と純一と変装した咲良が乗り込んでいた。
神湊を出て約1時間半程で沖ノ島に到着した。
純一と太一は良二と神職達と共に裸になり、海岸で海に浸かり、沐浴御祓払いをして、沖ノ島に渡った。
純一は咲良から言われた通りにポケットにフイルムケースに一杯入った神塩を持っていった。
神職達が沖津宮の拝殿で神事をしている間に、そのフイルムケースの蓋を空けて、こっそりと二礼三拍手一礼して、田心姫神こと山武姫様にこの神塩に入られる様に告げて、蓋をしてポケットに戻した。
船にもどると、そのフイルムケースを咲良に渡して、汗を拭いた。

「咲良ちゃん、山武姫様は入っておられるだろうか?」

「大丈夫。
大成功ですよ。」

船は宗像大島の漁港に入り、中津宮に入った。
ここでは一旦咲良は二つのフイルムケースの蓋を明けて、こっそり三拍手して、湍津姫神こと玉依姫之大神様と市杵島姫神こと天照比売之大神様と田心姫神こと山武姫之大神様を会わせたのでした。
三神はお互いに抱き合って再会を喜んでいた。
この中津宮で三泊されて10月1日、宗像大社に向けてみあれ祭のメーンとなる宗像大島の中津宮から神湊までの御神行が行われた。
咲良は早目に中津宮に行き、3つのフイルムケースの神塩にそれぞれの女神に入って頂き、持参して、良二の船に乗り込んだ。
勇壮な三隻の御座船は500隻の船団を率いて神湊に向かって御神行して行った。

   宗像大社みあれ祭

神湊で陸に上がった御神行は宗像大社まで行った。
咲良は純一や太一と先にフエリーで来ていた友香や詩織達と本殿を通り越して、高宮に行って、3つのフイルムケースの蓋を空けた。
とたんにピユーと一瞬神圧でつむじ風が興った。
咲良には三女神が三神並んで手を取り合って、高宮の中で神座されて頭を垂れておられるのが、観えた。
そこに天上界から一瞬の光が降りたのが微かに感じられた。

『頭を垂れよ!』

と言われて咲良は他の皆に

「座って頭を下げて!」

と伝えた。

『根元様御光来。』

との通信が咲良には聴こえてた。

帰りの車の中で純一が訊ねた。

「高宮で何が興っていたんだ?」

「根元様が御光来されていたの。
何を話されていたかは私にも分からなかった。
でも、三女神はとても緊張しておられたみたい。
畏まって、身動ぎも去れていなかった。」

「そうなのか!
三女神はこれからも宗像大社に居られるのかな?」

「いえ、それぞれの御陣場にもどられるそうよ。」

「また、我々が加勢しなければならないのかな?」

「もう良いって!
一度道がついたからもう自由にも行き来出来るんだって!」

                                                                           (つづく)