翌日、咲良達は真香の案内で西米良村を観光することにした。
運良くば狭上稲荷神社で自然霊長様に会えるかも知れないと咲良には秘かな期待があった。
朝、美味しい田舎の朝食を頂いて、真香と乙美子が加わり、純一の車の定員一杯の8名で265線を南に下った。
楽しいドライブだった。
車中は昔話や思いで話の花が咲いたのでした。
順調に車進み、西米良村の近くまで来た時、外の景色を見ていた咲良が、
「純一さん!
ちょっと停めて。」
と叫んだ。
車から降りると、左手に見える天包山を観ていた。
皆も降りて来て、咲良が観ている方を観て訊いた。
「何が観えたの?」
「あッツ!あの鳥は何だろう?」
と太一が天包山麓を飛ぶ鳥を見付けて指を指した。
「孔雀かしら?
孔雀より美しいわ!
何だろう?」
と友香が言った。
「うわー、美しい!
こっちに飛んで来るわ!」
「あのね!
『鳳凰じゃ!
本来居ないはずの鳥の王だ。
天狗や河童達と天界の隙間から落ちて来た者達だ。
一とニの間に神の知らなんだ隙間があって、そこから落ちて来た天上界の存在達だ。
今は自然霊界に所属している。』
そうです。」
「あれが鳳凰か?
美しいなあ!」
「何で急に天狗や河童に鳳凰までが、人間の前に姿を現しているんですか?」
「そのことは
『自然霊界長に聴くと良い。』
と言われています。」
「自然霊界長は何処に行けば会えるのですか?」
「『市房山神宮』
だそうです。
純一さん、そのお宮をグーグルで探してみて下さい。」
「・・・・・・ あった。この近くだよ。」
「咲良、先に西米良村を見学してから、行こうよ。」
と幸一が言った。
鳳凰はいつの間にか、姿が観えなくなっていた。
車に戻った皆はそのまま西米良村木に向かった。
友香の指定でおがわ(小川)作小屋村に案内するナビの通り車は進み、目的地に到着した。
「ここで昼飯でも食べて、少し見学でもしてから、自然霊界長様に会いに行こう。」
この西米良村の歴史は200年に亘る旧米良領主の居城跡に造られた米良山文化の象徴である古き日本の良き原風景をそのまま再現した「桃源郷の宿と食事処」であった。
食事処の「おがわ作小屋」で昼食を頂いた。
大勢で丁度よいテーブル席で、ここの名物のおがわ四季御膳を頂いた。
おがわ四季御膳
その後、資料館や、かりこぼうず大橋等を見学して、市房山神宮に向かった。
西米良村から219号で西に走ると、しばらくすると十字路に至り、その交差点を388号に右に曲がって下城から右に林道を上がって、市房山4合目近くの終点の駐車場に車を停めて、徒歩で登山道まで歩いて昇り、市房神宮に到着した。
参道の両脇には老杉がそびえて自然霊界の様なたたずまいをしていた。
登山途中、ここには市房山神宮里宮神社、市房神社、市房山神宮と3つの宮処があって、どの宮処に行くべきか?少し先まで迷ったが、結局市房山神宮を指定地と決めて来た。
まだ先の方まで歩くのかと、幸一が覚悟した時、咲良が一本の大きな老杉の前で立ち止まった。
『何しに来た。!』
と突然罵声が飛んで来た。
咲良は驚いて老杉の上を観た。
高い杉の枝に天狗が立っていた。
そしてこちらを睨んでいたのでした。
咲良は二礼三拍手一礼して言った。
「はい、自然霊界長神様に御挨拶をする為に参りました。
どうぞ、お取り次ぎ願います。」
『ワシはそのお役にあらず!
この森に入る者を取り締まる役である。』
「では、取り次ぎ役のお方に我々が来たことを報せては頂けませんか?」
『そのお役の木霊はここにおるぞ!
そなたの名をなのれ。
挨拶の予約は入れていないのだな?
自然霊界長神様は大変多忙なお方だから、御会いになるかどうか分からんぞ!』
「それでは自分で呼び掛けてみます。」
咲良は北を向いて、二礼三拍手一礼をして大きな声で言った。
「うしみらまん・・・・・」
『誰じゃ! わしを呼ぶ者は?』
「はい、九州福岡に生を赦されております五味咲良と申します。
自然霊界の長神様でしょうか?」
『そうじゃ、そなたは福岡から来たのか?
椎葉の厳島神社の神からはオナゴが訪ねて来るとは聴いたが、その娘では無いのか?』
「はい、その娘です。
椎葉の厳島神社の神様から、自然霊界の長神様はこちらに居られるとお聴きして参りました。」
『そうか、あい、分かった。
それで何用じゃ?』
「はい、最近、何か自然霊界で異変が起きているのでは有りませんか?
河童や、天狗様、それに鳳凰までが、そのお姿を生宮に観せるだけではなく、生宮を殺傷する事件が頻発しております。
根元様の愛される生宮を傷付ける等という行為は赦されないはずなのに、なんでなのか、長神様にお聴きしたいと思っています。」
『実はわしも困っている。
元々、自然霊界は主に木霊達の世界だった。
その木霊とは自然霊界にあって、草木をことごとく管理する立場、すなわち護り導き、救い浄めるのが、御役で、草木魂はなかなかに迷うことが多いので護らねばならない。
又、多くの小さな生き者達、そして中堅の生き者、大きな山の生き者達や草木を護る役を表の仕事とすれば、それが裏の御役なのだ。
自然霊界には、美しく整える姫神様達の御力と、虫も小鳥もありとあらゆる命を護る御役と相まって、初めて創生されるのである。
自然霊界には実に多くの生命があり、尊ばねばならない。
慈しまねばならない。
人間はそれを護る為に現界に創生されたはず。
こんなことを全て護るべきなのに、今の地球は人間が先に立って、その生命を絶しているという誠に悲しい現実がある。
人間は神々に対して謝るべきなのだ。
話がちとそれたが、元々自然霊界はそんな隠れた存在だったが、ある時、天上から、変な奴らが落ちて来て、地球上を我が物として、人間をいじめ出した。
神々はその者達の統制を誰がとるかという会議をして、我が自然食霊界に組み入れられたのである。
今まではおとなしくしていた彼らも、次第に住む場所を追われて、又この地方の開発計画が伝えられ、慌てた彼らが反発して事件を起こしたようだ。
河童、天狗、カラス天狗、鳳凰、妖精(フェアリー)、つちのこ等がそうだ。
彼らは我が自然霊界の掟に従い罰することになっている。
我が自然霊界には地球神界や人間界とは別の誰にも干渉されない独立した神規がある。
もう、彼らが暴れることはないと思うが、この地区の村々の村長に伝えて欲しい。
又、自然霊界の住人を脅す様な開発計画を易々と実行に移すで無い。
又、自然霊界を揺るがすで無いと。 自然霊界長神。』
「大変ありがとうございました。
私も長神様の意見に賛成でございます。
私一人でも、出来る範囲の自然を護ることを心がけたいと思っています。
本日はこれで失礼致します。」
皆で二礼三拍手一礼して椎葉村に戻った。
(つづく)