高森町から265線を南に向かった。

山都町を経て、馬見原を通過して国見トンネルを通り、約1時間半で椎葉村に到着した。
何故か、警察車両が国見トンネルを越えてからあちらこちらに停車して、何か警戒している様な感じであった。
椎葉村にもパトカーが数台停車していた。

「何か事件か何かあったんだろうか?」

「何処まで行くんですか?」

と運転していた太一が尋ねた。 

「ああ、もう少し先まで行って、鶴富屋敷の先だから。
椎葉厳島神社の少し先です。」

  那須家鶴富屋敷

と多美子が伝えた。
厳島神社の赤い鳥居と長い階段の前を過ぎて少し行くと、大きな藁葺き屋根をトタンで囲った古い民間に新築の家屋が並ぶ家の入口が見えた。

「そこ、そこを右に曲がって入口を入って下さい。
中に車は停められますから!」

「着いた。
着いた、懐かしい な!」

と咲良は声をあげて、車を一番に降りた。
車の音を聞き付けて、真香と多美子の妹で真香の母親の乙美子(おみこ)が出て来た。

「いらっしゃい!
咲良姉ちゃん。
叔母様、叔父様。」

「乙美子、元気にしていた?」

「はい、姉さんいらっしゃい。
お義兄様もいらっしゃいませ。」

「お世話になります。
大勢で押しかけて来ました。
ところで何かあったんですか?
警察官が多いようですが?」

「はい、何か椎葉ダムの上流で死体が発見されまして、河童にやられたと言う噂があって、
それで、主人は町役場に行きっぱなしなの。」

   椎葉ダム

「そうか、甚七さんは村長だからな!」

「いつ頃から、その話は出たのですか?
河童の話は。」

「咲良姉ちゃん、1週間位前にこの先の川沿いの畑でキュウリがたくさん盗まれるという事件が起こり、その後で、川で河童を観かけたという婆さんが出て来て、
その噂を聞き付けた宮崎市の自然写真家が来ていたのですが、その写真家が今朝、川で死体になって浮いていたのが発見されたのです!」

「まあ!  河童ですか?
ふーむ、何処かで天狗も出て来そうですね!」

「とにかく、さあ、上がって下さい。」

と乙美子から案内されて古い屋敷に入る。
この屋敷は、有名な那須家の鶴富屋敷と同じような古民家風の創りで、今では文化財に指定されていて、自由に改装も出来ず、それで横に新築の自宅を創り、この建屋は観光客に見せて村の観光に一役かっているとのことだった。
広い土間に続いて囲炉裏がきられた板の間の座敷が奥まで続き、四室を大黒柱を中心にして襖一つで仕切られていて、
鴨居が大きな分厚い板で造られ、天井は五重天井で大きな梁が剥き出しで歴史を伝えていた。


冷たいスイカと麦茶や水菓子等のもてなしを受けて、一息ついた。
そこにこの屋の主人の真香の父親の甚七が椎葉村と書かれた軽自動車で送られて帰って来た。

「これは、御義兄さん、いらっしゃい。
皆さんもいらっしゃい。」

と、大きな声を張り上げて家に入って来た。

「パパ!  選挙じゃ無いのだから!
そんな大声を出して!」

と真香が言って睨み付けた。

「お世話になっています。
甚七さんは御忙しいそうで?」

「はい!  なんや、ややこしい事件が起きまして、ぎょうさん警察の人が来ていまして。」

「一体、何が起こったのですか?」

「はあ、わしにもよく分からないのですが、上のダムの近辺で河童の目撃情報が出まして、それが今時のSNSで、話がパーッと広まって、宮崎からプロの自然写真家が来まして、河童の姿を撮るということで、なんやテントを持ち込んで川の土手で寝泊まりしていたのですが、今朝、川に死体で浮いているのが発見されたのですよ。
それで県警から沢山警察官が来て、役場は大忙しですよ!」

その時、パトカーがサイレンを鳴らして次々と家の前に通過して南下して行った。

甚七村長は携帯で役所に電話をした。

「どうした?  警察は何処に行ったのだ。?
何?
西米良村で、天狗が出た?
それで、何か事故でもあったのか?
うん、うん、・・・・・炭焼きが殺された?
それで県警が飛んで行ったんだな。
有難う。」

「河童の次は天狗か?
そうだった。
パパ、みんな、厳島神社に行きましょう。
自然霊の長に挨拶をキチンとするように日乃出様から言われていたのを忘れていました。
厳島神社の神様に何処に行けば自然霊の長様に会えるかお伺いしてみましょう。
今回の事件になんか関係があるかも知れないわ!」

                                                                                  (つづく)

このお話は、ここに出て来る地名や役職の方には無関係な作り話で、関係が全く無いことを明記しておきます。神界の内容はこれに似た神実があったので、お話にさせていただきました。