咲良達は昼食を済ませて、一休みして、この民宿から歩いて10分程の「かんす海水浴場」に行った。

2時間程泳いだり、砂遊びをして宿に引き上げた。
一風呂浴びて、よく冷えたスイカを頂き一息ついた所で、太一が皆を誘った。

「今から、今夜のあらいの魚を釣りに行くけど、一緒に行かないか?」

「刺身のあらいを造る魚を釣りに行くのか?
良いよ、行くよ!
そんなに簡単に釣れるのか?」

と4人で釣りに行くことになった。
太一が持ってきた餌はカレー粉の入った団子で撒き餌は大麦を水に浸したものだった。
純一はこれでどんな魚を釣るつもりかと不思議に思いながら付いて行った。
釣り場はフエリーの渡船場の横の波止だった。
割と頑丈な2号竿としかけに二本の天秤型ハリスに針が結ばれていて、棒ウキがつけられていた。
その竿と仕掛けを2セットとエギのつけられた、投竿が1本と大きなタモが長い竿につけられていたものをクーラと一緒に持って行った。
太一は海の様子を見ていたが、テトラポットが入れられた割と浅い場所を釣り場所に決めて、撒き餌を打ち出した。

「長谷川、ここでもうしばらく、撒き餌を打っていてくれないか?」

と太一は撒き餌係りに純一を指定して、エギのついた竿とタモを持って、防波堤を歩き出した。
純一は言われた通りに一ヶ所に撒き餌をうちながら!様子を見ていると、太一は防波堤の上の黒く汚れた場所を探していたが、その黒い跡が沢山ある場所で、沖に向かってエギを投げて巻きながら、シャクっていた。
数回、繰り返していたが、何かを引っかけた様に竿が丸く曲がった。
ゆっくりリールを巻いていたが、近くまで寄せてタモをで救ったのは、大きな烏賊だった。
50cm位あるミズイカだった。

   ミズイカ(アオリイカ)

アオリ烏賊をこの地方ではミズイカと言っていた。
立て続けに2ハイ程釣ったら、戻って来た。
咲良と友香はキャッキャと言ってクーラの烏賊を見て騒いでいた。
戻って来て、純一の撒き餌をしているところを見ていたが、仕掛けに小指の先位のカレー味の団子を餌にして撒き餌の中に入れた。
直ぐに当りがあり、棒ウキがチョンと沈んだ。
手応えあり、グッと大きく曲がった竿を力強い泳ぎで、閉め込んで行く。
いったい何者だ!  と3人が機体して太一の様子を見守っていた。
手前のテトラポットの間に逃げ込もうとする魚の鱗がギラリと光った。
さすが、島育ちの太一、竿裁きは見事だった。
強い引きで逃げようとする魚を上手くいなして、タモに掬い上げた魚は40cm位のバリだった。
タモの中で目一杯に背びれや腹びれを尖らせて威嚇している。
そのタモの魚を友香が掴もうと手を出した時、

「危ない、駄目だ。
刺されるよ、」

と太一が注意した。
このバリとこの地方で名のついた魚、アイゴとも言って、平べったい体の背鰭、胸鰭、臀鰭の3ヶ所に毒びれを持っていて、それに刺されると、酷い痛みを受けることになるのです。
太一は魚裁き用の小刀と万能ハサミで、器用に毒針を切り落とし、頭からお腹の部分だけ取り除いて、海に棄てて、白身の綺麗にされたバリの身をクーラの氷の間に保管して、また釣り出した。

  バリ(アイゴ)

3尾釣り上げたところで、純一に竿をわたした。

「1尾位は釣れよ!」

言われて純一は竿を出したが、当りはあるものの、上手く合わせることが出来ず、1尾も釣り上げることは出来なかった。
何度か失敗した頃、詩織がやって来た。
ビニール袋を持参して来ていて、クーラの烏賊とバリを入れて、

「これを美味しい刺身とあらいにしておきますから、ゆっくりと釣りを楽しんで下さい。」

と言い残して、宿に戻って行った。
日が暮れだして、綺麗な夕陽が真っ赤に海を染めていた。
純一はやっと諦めて竿を挙げようとした時、いきなりウキが沈んで、反射で上げた竿は満月の様に曲がっていた。
必死に竿をあげて、太一に右、左と指示されてようやく、タモに掬ってもらった。
純一は生まれて初めて、魚釣りの醍醐味を味わったのでした。

「よし、これで明日の朝の味噌汁の具が出来た。
そろそろ帰ろうか?
もうあらいも出来た頃だろうから、帰って呑もう!」

と太一に言われて、皆は宿に戻った。
今夜の宿の民宿やまだ屋に到着すると太一の母親が戻って来ていた。
咲良は挨拶をしながら、

「おや、おかあさん、誰かを連れて来ておられる。」

と霊視した。
先程太一が釣り上げたミズイカの刺身とバリのあらいを酢味噌で食べて、烏賊のゲソの天ぷら等に料理された夕食をビールや焼酎で頂きながら、ふと、咲良は気が付いた。

「あのー。
詩織さん、小皿を少し貸して下さい。
家祖様や御霊、存在の皆様がお膳のお供えを望まれておられますから、このイカやあらいをお供えしたいのですが!」

                                                                                     (つづく)