祭を了として、宇佐市郊外の天体心理教本部に向かった。

まるでラブホテルみたいな外環で高い塀と門構えが構築された異様な本部だった。

『まず、この本部を左回りに一周せよ!』

と上から指示が来た。
車に乗ったままで、本部の回りの道路を時計と反対の左回り回りに基点を決めて、三拍手して出発して一周して来て〆る前にサンゴ姫様が底津神力を吹き来んで浄めの〆とした。

『よし、これでもう天体思凝の部下共はこの八百八光の結界から出られ無い、その内に底津神力で浄化されるだろう。』

「昌幸君、念の為に君の婚約者が何処にいるか?
今、連絡をとってみておきなさい。」

と幸一に言われて、昌幸は車を降りて、携帯で電話していた。

「宇佐神宮の土産品店で仕事中でした。
二度と電話して来ないで!と言われました。」

と頭をかきながら車に戻って来た。

「『大丈夫。時間の問題だ! 直ぐに正気に戻るだろう。』

と言われていますよ。」

と咲良が慰めた。

「これでもう安心だ。
今日は温泉にでも入ってゆっくり泊まって帰ろうか?」

と幸一が提案した。

「それが良いわ!
私、なぜか天ヶ瀬温泉に行きたいと思っていたの!」

「天ヶ瀬か、いいな!
ホテルの予約をしなければ!  咲良、インターネットで予約出来ないか?」

「ちょっと待って、そのことは友香が上手だから、
友香お願い。」

友香はスマホを取り出しながら、

「天ヶ瀬温泉なら何処でも良いの?」

「私、何か大きな滝の横の宿が観えてるのよね!」

「滝の横? そんなホテルは無いわよ!」

「何か山道を登って行くの。」

「じゃあ、天ヶ瀬温泉街の旅館と違うのね!」

「天ヶ瀬温泉から山に登って行ったと思うの!」

「待って!   エーッと、あったわ。
天ヶ瀬温泉から少し山奥に入った所に『秀水爆園(しゅうすいばくえん)』という民宿があるわよ。
大きな滝の側に建つ、温泉かけ流しの民宿。
料理は美味しいと書いてあるわ!
ここで良いの?」

  民宿秀水爆園

「パパ、いいでしょう?  私、そこに行きたいの。」

「良いだろう。
友香さん、そこの予約取れるかな?」

「二部屋で良いですね?
大丈夫みたいですよ。
予約しますよ!」

「嬉しい。
何でだろう?」

純一は宇佐から385号で西に進路をとって進んで行った。
玖珠町から210号を日田方面に曲がり暫くすると天ヶ瀬温泉という表示板が出て来た。
ナビの案内に従い、桜竹小学校入口から南に向かって山道を登ると、赤岩と言う地名が出て来て、宿が近いことが予想出来た。
間もなく民宿秀水爆園と言う宿が大きな滝の横に出現した。


宿の専用駐車場に車を停めて車外に出るとヒヤッとする滝の水が冷した空気が汗を引かせるようだった。
チェックインすると、いかにも昭和の湯治宿と言う風情の古い建家で二階の隣同士の大部屋が当てられた。
何時でも入浴可と言うことで、今日は我々以外に客は居ないようであった。
幸一は直ぐに浴衣に着替えて地下の半露天風呂に行った。
お湯はまあまあだったが、古い所々に苔が生えているようだった。
混浴となっていたので、幸一は湯からあがると、男達に先に入浴するように促して、部屋の冷蔵庫からよく冷えた缶ビールを出して呑んだ。
それから、下駄をはいて外の散歩をした。
咲良達を誘ったが、何故か咲良は不機嫌で横になり
、友香から頭に手で手当されていた。
山間のこの場所は日が落ちるのが早かった。
すっかり日が落ちた頃、女性達はやっと入浴に降りて行った。
地下の川沿いの風呂場には裸電球がつけられていて、とても薄気味悪い雰囲気になっていた。
暫くすると、女性達二人は青い顔をして帰って来た。
二人の顔をみて、幸一が訊ねた。

「どうした?
何かあったのか?」

「怖かった!
何かに睨まれているような怖さだったの!
この部屋に暫く居て良い?」

「隣の部屋では怖いのか?」

「うん、ここのお牛様が居られる部屋が良いの。」

と車から降ろして部屋に持ち込み出窓の所に鎮座されたサンゴ姫様の入られたお牛像の所に二人は座った。

「誰が覗いたのか、僕が見に行って見ましょうか?」

と、意味がよく理解出来ない昌幸が言った。

「兄ちゃん、違うのよ!」

と友香が昌幸を押し止めた。

「食事の用意が出来ました。
どうぞ食堂においで下さい。」

と、宿の女将が部屋に来て、案内した。

                                                                              (つづく)