春の気持ちが良い晴天に誘われて、咲良は高校時代からの大の親友の沖友香と博多湾の一番北にある海の中道を従えた志賀島の海岸に来ていた。


   志賀島

この志賀島は有名な弥生時代に中国の皇帝から贈られた金印「漢委奴国王」の出土した島だった。
しかもここの志賀海神社は海の護り神として古くから信仰されている和多津美之大神(わだつみのおおかみ・綿津見之大神とも書く)が祀られていた。
二人は裸足になって、外海に面した海水浴場の海岸を散策していた。
咲良はフト目に着いた真っ赤な2cm位の貝殻を拾いあげて見たら、貝殻ではなくてどうも珊瑚ではないかと思ってポケットを入れた。

  珊瑚の欠片

「咲良、神社に行く?」

と友香は咲良が霊感を持っていて、時には嫌がる神社があることを知っていて訊いてみた。

「志賀海神社でしょう?
行きましょう。」

歩いて直ぐの場所に志賀島海神社はあった。

 志賀海神社

実は友香の愛車の黄色いミニクーパーはこの神社の無人駐車場に停めていたのでした。
神社の参道の階段を登ると、直ぐに通信が来た。

『咲良殿、大変高貴な大御神がお出ましになられる。
気を付けて対応されよ。』

「何方様ですか?」

『親神変じたもの。』

「和多津美之大神様ではないのですか?」

『同じようなものだ。』

「大変高貴な大御神様とは何方様ですか?」

『その内に分かる。
今海岸で拾った物を大事に持ち帰るように。』

「この赤い珊瑚ですか?
家の何処に置けば良いのでしょう?」

『牛の銅像の前に。』

「えっ?   またお牛様に懸かられるのですか?」

帰りに映画を観ようという友香の誘いを断って、咲良は自宅に跳んで帰った。
そして、三方に半紙を敷いて、持ちかえった赤い珊瑚を載せて、宮の反対側に置かれたお牛様の銅像の前に置いた。

翌朝、咲良は父親の幸一の顔を見て驚いた。

「パパ、その顔!  どうしたの?」

「な、なんだい?  いきなり。
私の顔?
どうもした覚えは無いけど!
どうかなっているのか?」

「ええ、左目が飛び出して垂れ下がっているの!」

「何だって?」

と幸一は思わず手を左目にやってみた。
別に変化は無かった。

「どうもなっていないぞ!
一体何なのだ?」

「私の霊視ではそう観えたの。」

「ふーん!
何でだろう?」

「あっ!
お牛様の目も垂れているわ!
あっ、そうか?
パパ、ママも来て!
新しい神様に御挨拶をしましょう。」

3人はお牛様に向かって三拍手して、御挨拶をした。
幸一と多美子には全く意味不明だった。
取り継ぎが出た。

『私の名はサンゴ姫。
ヨロシクね。
暫くお牛さんを借りるわね!』

これには驚いた。
何と気さくな神様なことか?
しかもサンゴ姫等と人を食ったような名前を名乗られて!
親神変じたもの様が大変高貴な大御神様と言われたのだから、とても高位神のはずだが?
と咲良は思ったのでした。

『済まないが、お牛の向きを少し変えてはくれないだろうか?』

「はい、どちら向きにしましょうか?」

『東南方向に。』

幸一は磁石を持って来て計って咲良に方向を示した。
向きを変えると、

『暫くはここで観ていよう。
守護之宮に八百八光之大神を呼ぶ様に伝えて置いてほしい。』

「はい、御伝えいたします。」

と咲良は答えて直ぐに守護之宮に奉告した。
驚いたことに守護之宮も人祖之宮の神様達は皆、平服しておられたのだった。

                                                                                 (つづく)