翌朝、ホテルの食堂で今日一日の予定を検討した。

今日の神業場所は二ケ所と上からの指示があった。
鎌倉十二所神社と大刀洗水と言われた。
鎌倉の観光案内地図を見ると、この二ケ所は同じ処にあるようだった。
ホテルを出て純一の運転でまず十二所神社(じゅうにしょじんじゃ)に向かった。
田舎のひなびた場所で朝比奈切通しの近くだった。

   鎌倉十二所神社

ここで祭と指定されていたので、ここに来る道中でお供えする物を調達して来ていた。
持参してきた簡易祭壇を仕立てて、祭の準備をして咲良の先達で祭を開始した。

「道城義則之大神様の解放に関する神業で、福岡市早良区脇山の十二所神宮で御下命を受まして、本日こちらに参上をお赦しを頂きました。」

直ぐに取り継ぎが出た。

『満願近き日、縁ありて寄り集いてくれた者たち、
我は、先行きの案内(あない)を致すもの。

高津のみや漕ぎ出でし舟、高天ヶ原へと向かう。
天は、あくまでも揺るがず、じっとその行く手を見守る。
鷺(さぎ)が舞い上がるがしるし。

心して見られよし。
こ度の神業、先の準備、ちと整うておらぬ故、
今暫く、こちらにて待機してはくれぬか。
バンダイコジョウノカミ。
次のことは、時至れば導く。
暫く待って下され。』

「大変失礼に存じますが、私たちは誰もバンダイコジョウノカミというお神名を存じておりません。
まだ御神名を明かされておられなかった神々様の御一方様でありましょうか。?」

『一度、追放され、また戻って来た身。
席次は、188をもらっておる。
大慈悲を頂いた。
我にとっては、戻っての最初の大きな仕事。
神民に話すことではなかったかも知れぬが・・・。』

「あっ、行っちゃった・・・」

祭を了として大刀洗水に向かった。
純一は肩の傷みが酷くなり、幸一と運転を代わった。
場所は朝比奈切通の岩肌から涌き出る湧水の一つで、その昔、上総介広常を暗殺した梶原景時がその大刀をこの湧水で洗ったということで、正式には梶原大刀洗水と言うことだった。

   梶原大刀洗水

ここでも祭をせよとのことで急いで祭壇を仕立てて、北向きに供える。
先達は純一だった。
純一は肩と腰の傷みをこらえて、先達の場についた。
のりは「ム」、無声で  渦巻き10回、
先達は挨拶で、これまでの道城義則之大神様関連の神業について報告して、不動明王と権化させられて苦労されておられる道城義則之大神様の救済の為に参上したことを伝えた。

取り継ぎが出た。

『我も緊張しておる。
この姿。
見たものは、必ず一歩二歩三歩と、後ずさりするであろう。
片目はつぶれ、変わり果てたこの顔面を見て、誰が我と思うであろうか。
ヒカリを忘れ、闇の中に生き、一億二千という永い月日を沈み待ちた。
我だけではなく、裏神も、共に深き傷負った。
天は裂け、赤き血の如くに稲光、天を駆け抜け、
大神の怒りを一身に感じた。
我はこれで終わりと思った。
このような話、聞くため、わざわざここまで来たのか?
話をして、よいのか?』
『・・・・・』
『赤き血に染まったような空を仰ぎ、自身が一体、何をしたのか、
呆然と考えていた。
事に係わった神は、十二神。
我は、刀を抜いたのである。
大刀洗の湧水とは、よくぞ言ったものである。
いくら洗い落としても、落ちきらない神実が、
その大刀には、残っているのだ。
そなたたちの、手を借りて、本日、この場で、
その大刀、我が手元より大御神の下へ返そうと思う。
我が姿見ても、びっくりしてくれるな。
長谷川純一殿、
型だしの為とは申せ、体をお借りしたこと
お詫び申す。
御自分の手で、左手でそれを抜き、太陽にかざして下され。』

『大御神は、また、我をお使いになって下さるであろうか。
やむごとなき事情というには、余りある時の神界事情ではあったが、
余りにも、悲し過ぎる話ではないか。
12月23日、大御神の審判を仰ぐ。』

『刀というのは、人間だけでなく、神々の悲しみの象徴でもある。
今日を境に今後変わることを、ひそやかに望む。
ありがとう。』

純一は言われた通りに左手で自分には見えぬ刀を引き抜く。

祭を了として帰りには、楽しそうに純一は運転して帰ったのでした。
帰りの車の中で上から知らせがあった。

『今回は小豆島には寄らずに帰宅せよ。
まだ小豆島の大祭を執り行うのは早すぎる。
今不動明王、いや道城殿が言われた様に小豆島の祭は12月23日である。
それまでにあと一仕事頼みたい。』

この知らせで4人はホテルに戻り直ぐにチェックアウトして新横浜駅に急いだ。
新横浜駅近くのレンタカー屋で車を返却して、新横浜発16時49分、のぞみ49号博多行に乗車して、幸一と純一はビールで乾杯して深い眠りに付いたのでした。
多美子に起こされた時には、既に博多駅に到着していたのでした。

                                                                          (つづく)