翌日朝から、純一の運転する車で、四人で出掛けた。
早良区の山に少し入ったこんもりとした森の中に十二社宮はあった。
十二所宮
駐車場が見当たらなかったので、入口の前の農道に車を止めて、階段を20段程登ると神社前に続く少し広い参道があり、その参道の途中で咲良は、
「ここで祭をしましょう。」
と言って、持参してきたブルーのナイロンの敷物を広げ出した。
咲良と妻の多美子に加えて純一が持参してきた簡易祭壇を十二社宮ではなく、北に向かって供え物等を供え出した。
途中の無人販売所で安く購入した野菜類をお盆に盛って供えていた。
幸一は浄めで来た時はよく観れなかったので、拝殿の処まで行ってみたが、無人の古びた社殿は蜘蛛の巣だらけだった。
まだ祭の用意が終わっていないのに、突然咲良が両耳をふさいでうずくまった。
「咲良どうした?」
「嫌な声が聴こえて来たの!」
「怖がらずに皆に説明しなさい。」
幸一が咲良に気合いを入れた。
「『ひっかかりおったわい』
とダミ声が聴こえて、ベンベンベンという琵琶の音が聴こえて来て
『祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必須衰の理を顕す、驕れるもの久しからず、ただ春の夜の夢の如し。
猛し人も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ・・・・。』
と平家物語ですか、そんな琵琶法師の奏でる一節が今も繰返し百万遍も聴こえているんです。
その上
『シャク、シャク、シャク、シャク、ショウ、シャク、シャク、シャク、エイカク、セイノダン、レイセンチョウコウ・・・・・』
と呪文を唱え、謳(うた)い出して、います、」
そして取り継ぎらしき声が聴こえて来たのでした。
咲良はその通り取り継いだ。
『剣を抜き、白刃を射る。
血しぶき空を舞い、その首(鳥の首)千里を飛ぶ。
ほうほうほう、ほうれ見よ。
ダンノウラ、羽根が散る。
盛者必衰の理。
鎌倉の剣をもち、柄(つか)えたまえ。使えたもれ。
この剣使うの、右手に高々とかかげ、黄金(こんじき)の太陽に向かえ』
そして咲良の眼には、真っ赤に染まった不動明王様が燃え上がる火の粉の中に仁王達になられて、背中から腰に刺さっていた剣を右手で抜き放って、天に掲げる凄まじいお姿をお観せになられたのだった。
折から、祭場の右上の林間に純白の長衣をまとった女神が、凝っと祭事を見守っていたが、代わって、
『鎌倉へ行けば分かる。
琵琶法師をして語らしむ。
隠された神実、解き給え。
我はサギの神(大きな大きな鳥、咲良にしか、姿は観えず)とでも言おうか。』
羽根がすごくきれい、鶴と間違えるような、そっくり。
首をはねられた鳥も同じ羽根。
すそもよう。
帰りの車の中で、
「何か怖い祭事だったね!
鎌倉に行かなければならないのだろうか?
意味が判ら無いのだが?」
「そう、鎌倉に行けということみたいだわ!
あの不動明王様は何故かとても怒りに震えておられたわ。」
その時、急に純一が車を道路脇に止めて、
「あいたた!」
と言って背中と腰に手をやって呻いた。
(つづく)