町内で不思議な事件が発生した。
隣のおばさんが駆け込んできて、訴えた。
「五味さん、ちょっと来て、見て下さい。
うちのシロが噛み殺されているのです。」
と怖そうに五味の腕を取って引っ張って行った。
隣の玄関の処の犬小屋の横に、その犬の死体が横たわっていた。
見事に首を噛みきられて悲鳴もあげられずに死んだと思われた。
何者の仕業だろうか?
野犬だろうか?
野犬がいるという噂は無かったが。
「これは、一応警察に届けられた方が良いですよ!」
と五味は伝えた。
隣の牟田口おばさんの家では、ここ数年間に色々な不幸が興っていた。
一昨年に御主人が冬の雪の夜に車で電車の踏切で、スリップして線路に脱落して、もたもたしているがうちに急行列車が衝突して、55歳の若さで命を落とし、昨年は既婚の長男の嫁が子供を死産させて、傷心のあまり、実家に帰ってしまって、離婚の話し合いがなされていたのでした。
「五味さん、うちは何かに祟られているのでしょうか?
毎年変なことが起きてばかりいるんですもの?」
「そうですね!
一度、良く調査した方が良いかも知れませんね!
変な霊能者に頼むより、うちの咲良が少し霊能があって、神取り継ぎが出来るので、聴かせてみましょうか?」
「咲良ちゃんが?
そうですか、それは助かります。
宜しくお願いします。」
翌日、咲良と幸一は隣の牟田口家の庭に奥さんやこの家の長男と一緒にいた。
「咲良、昨夜話した通り、上に訊ねてみてくれないか?
この家の異変は何が関係しているのか?」
「・・・・『水』と言われています。」
「『水』って、水等この家には何も無いけどな?」
「牟田口のお母さん、この家に昔井戸が在りませんでしたか?」
「井戸?
あったわよ!
裏の炊事場の外にあったけれど、死んだお父様が埋めたんです。
その井戸が何か関係が有るのかしら?」
「『水龍の怒り』と言われています。」
「水龍の怒り?
井戸に水龍が居たのだろうか?」
「『自然界では、自然に出来る川や湖だけでなく、人間が造る井戸や池、水路にも、水が入ると直ぐに、水之大神、つまり、日津地姫之大神様の眷族神の水龍さんが、入る。』そうです。」
「それを知らずに埋めると、水龍の祟りがあるということですか?」
「『祟りというのは少し違う。
水龍は入った場所の水が抜かれたり、穢されたりすると、苦しくなる。
そのことを訴えて、気付けを行う。
そのことに多くの生宮(人間)は気付かず、被害を受けて、酷い時には命を落とす。
そして、分かって貰えないと、また家族の他の一員に苦しみを訴え続ける。』
怖いですね!」
「それではどうすれば良いのだろうか?
この土地から引っ越さなければ、その被害は止まないのだろうか?」
「『ちゃんと祭をして、水龍に元遷りさせれば止まる。』
と言われています。」
「ここの水龍様も元遷りされるだろうか?」
「『ちゃんと元遷り祭事を施光すれば良い。』
そうですよ。」
「牟田口の奥さん、分かりましたか?」
「怖いです。
私、今震えが止まりません。
咲良ちゃん、助けて・・・。」
「おばさん、大丈夫ですよ。
ちゃんと祭をすれば問題無くなりますよ。」
と、牟田口の奥さんの背中を撫でて、抱き締めた。
「それでは、祭とやらを咲良ちゃん、君が出来るのかい?」
と、長男が咲良に訊ねた。
「大丈夫だと思いますよ。
私で出来ると上が言っておられます。」
「それでは何を用意すれば良いのですかかな?
これから準備して直ぐに、祭とやらを行いましょう。
お母さん、咲良ちゃんと買い物に行って、必要な物の買って来て下さい。
僕の車で行きましょう。」
こうして、牟田口親子と咲良は祭は供える物を購入する為に出掛けた。
幸一はその間、咲良から頼まれた、ブルーの敷物を自宅から、持って来て、芝生の隅の台所に面した処に敷いて用意した。
(つづく)