国命達は無事帰国した。
帰国してみると、父親の謝太郎国明こと謝国明が床に臥せっていたのでした。
国命と国末は本家の座敷に父親を見舞って、無事帰国したことを報告しました。
そして、国命は妻、キヨが待つ離れに戻り、ホッと一息ついたのでした。
何気なく、母親の位牌を祀って飾っている小さな仏壇の前に置いていた翡翠の腕輪を手にしたとたんに、
国命は現代の国明に戻っていたのでした。
気付くと、自宅の居間にいたのです。
そこに恭子から携帯に着信があった。
「お早うございます。
昨日は楽しいデート有難う御座いました。
いかがでした?
夢をみられましたか?」
「はい、少し分かったことがあります。」
「そうですか?
実は私も夢を観たのですよ。
昨日のデートのせいでしょうね。
面白い夢でした。
あの翡翠の腕輪は私の前世の夫の母親の持ち物だったようです。
最後には私が貰ったようでした。
それも、御殿のような大きな商家に住んでいました。
100年前に建てられた、今も数軒残っている筥崎宮前の旧家で見掛けるような大きな入口を持ち、そこには大きな上に開ける扉があり、その扉に小さな出入口の扉がついているような、敷居の高い土間を持つ商家でした。
中に入ると、広い土間があり、長く奥に続いていて、裏庭があって、その奥に離れがあり、その離れが私達の住まいでした。」
「そして、本家は大座敷があって、使用人が沢山居て・・・。」
「先輩!
どうして知っているのですか?」
「やっぱり。
そこは博多網首の謝国名明の家だよ!
私があの翡翠の腕輪で夢を観ているところと同じですね!」
「そうでしたか!
先輩が観ていらっしゃったのはあそこの生活だったのですか。」
「さっきの君の夢の話と一致しているようだね。」
「先輩の観られた夢の話を聴かせて下さいよ。」
「電話ではちょっと長くなるから、今度あった時にでも話してあげるよ。」
「それでは、今日会いましょう。
何処で会いましょうか?
何時にしましょうか?」
「おいおい、気が早いな!」
「だって、卒論の期限が迫っているんですもの。」
「分かったよ。
じゃあ、夕食でも一緒に食べようか?」
「はい!良いですね。
何を食べましょうか?」
「和食で、日本酒が飲みたいな。
紹興酒ばかり呑んでいたから!」
「紹興酒ばかり?」
「いや、ハハハ、
何処で何を食べようかな。
そうだ、焼鳥はどうだい?
それも牛タン専門店の「たんや義宗」にしよう。」
「はい、そこ私知っています、
博多駅前のグリーンビルの地下ですよね!
何時にします?」
「じゃあ、7時に店で。」
「分かりました。
念の為に予約しておきますよ。」
現界では時間は2日も経っていないのに、何故か魚ばかりを食べていたような気がして、国明は肉料理が食べたかったのでした。
しかも日本酒が何故か飲みたいと思ったのでした。
店に着くと、恭子はすでに来て待っていた。
顔を見るなり、『ここよ』と手を揚げて手招きした。
カウンターではなくて奥のテーブル席だった。
黒毛和牛の熟成牛タンのステーキを特別な塩で食べて、おいしい吟醸酒の冷をコップで飲んだ。
「先輩!
夢の話をして下さい。」
「うん、何処からしようかな。」
「そんなに長いのですか?」
「うん、今回は少し、活躍していたようで、中国の南宋に行く話だったよ。」
と、あらかたの夢の話をしたのでした。
その話を聴いた恭子は言った。
「 それでは、私は先輩の御霊が戻る謝国明の子供の国命さんの妻のキヨさんが、私の前世の姿だったんでしょうか?」
「どうもそのようだね!」
「では現世でも、先輩の奥さんになれるのでしょうか?」
と言って、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「あっ!
顔が赤いよ!」
「ちょっと酔いが回って来たみたい。」
と恭子ははぐらかそうとしたのでした。
「この際、付き合おうか?」
「えっ!
本気ですか?
良いですよ!
明日になったら忘れたなんていわないで下さいよ。」
「大丈夫、これも何かの縁だから、酒のせいにはしないよ。」
この夜はホロ酔いの恭子を自宅まで送って国命は自宅に戻ったのでした。
(つづく)